19アリーはおうちに帰りたい
「(前座の魔物さん達はやっつけたから、少しは役にたったかな?)」
「(ああ、十分君は役にたったと思うよ)」
「(それにしても、みんな決戦を前にお休みしてるけど…土下座してるようにしか見えないww)」
『あれは土下座じゃなくて、跪いてるんだよ。きっと沈黙の聖女に……500年前の僕の妹に姿を重ねているんだろう』
「(アリー、君は十分頑張ったよ。早めに目的地に向かおう。君は何処に行きたいんだ?)」
「(わ、私……おうちに帰りたい)」
「(おうち? 実家?)」
聖剣は驚いた。追放された実家に帰りたいとは想像外だった。
「(お姉ちゃんに一目会いたいの。私は元気だからと安心させてあげたい)」
「(そっか)」
『アリーのお姉さんは良い人なんだな。きっと人を慈しむことができる人……そんな人でも呪詛に呪われると……最怖の魔人と化してしまう……僕の妹がそうだったように』
遠い過去に想いをはせる聖剣。彼の過去に何があったのか?
『それにしても』
聖剣はため息が出そうになる。いや、人としての実態がない聖剣にため息をつくことはできないが。
『アリーの魔力が増えている』
アリーの魔力は明らかに増えていた。中級冒険者と戦った時は人並みの魔力しかなかったアリーだが、先ほどの飛龍撃墜時の魔力は常人の2倍にはなっていた。魔力10倍の破格の性能を持った神装のドレスを装備しているので、常人の1/10から2/10になったに過ぎないが、この短時間で魔力を2倍に伸ばすということは尋常ではない成長だ。
『この子は大器晩成型の資質なのかも知れない』
事実そうだった。アリーは生まれつき魔力が微弱だったため、中々魔法が発動できなかった。
ようやく生活魔法のフリーズ・ロックを使えるようになったのも、つい最近のことだったのだ。魔力も筋肉と同様、使って鍛えないと増えない。しかし、アリーは魔法を発動することができなかった。鍛錬をつむことができなかったのだ。
だが、神装のドレスで魔力が10倍となり、大きな魔力を操ることができるようになって、爆発的に成長しているのだ。
フリーズ・ロックは微弱な魔力で発動できる。氷の弾丸を射出する術式も加速する術式も聖剣にしてさえ知らない術式だった。だが、どちらも魔力をほとんど必要としない。
「(ねえ、アリー。君の魔法は僕も見たことがない魔法だよ。その魔法は君が開発したのかい?)」
「(え? 違うよ。子供の頃から読んでた古代書に書いてあった魔法を応用したんだよ)」
『そういうことか! いくら魔法操作の天才とはいえ、新しい術式を開発することは至難の技だ。いや、もちろん、それを組み合わせて一つの魔法として創造する技術は天才レベルだけど』
アリーは子供の頃から引きこもり生活を余儀なく……いや、実力で引きこもりの性格なのだが、あのあかん古代書にも役にたつ情報もたくさん記載があったのだ。アリーのオリジナル魔法、後に【フリーズ・バレット】と呼ばれるこの魔法は古代書の知識を基にアリーは開発したのだ。
おそらく、これほど魔力消費が少ない魔法はないだろう。その上、魔術式は簡単そのもの。
だから、複数起動、マルチキャストが可能なのだろう。この世界の魔法使いはせいぜい2、3のマルチキャスト、多重展開をするのがやっと、それをアリーは実に20以上対飛龍戦で同時起動して見せたのだ。
ましてや、アリーは単に攻撃魔法としてだけでなく、応用して、防御盾にしたり、相手の魔法に干渉させて、魔法を消してしまうという高度な魔力操作を行なっている。
『魔法に優れた者どころか……天才』
聖剣は適合者に恵まれたことに安堵した。
『だが、アリーには申し訳ない。僕に選ばれるということは愛する人と殺しあいをすることになるということになるのだから。本当にすまない』
謎の謝罪を密かにアリーに想う聖剣、だが。
「(魔剣さん、私、少し魔法が上手になったと思うの♡ これで魔王への道も近づいたね)」
「(君ね)」
アリーの言葉に、聖剣は悩んでいた自分がばかばかしくなった。
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