初めての授業
━━━翌日 早朝
城内で鳴っている、〝ドタドタ〟とした騒がしい足音で目を覚ます。
何かあったのか廊下にいた兵士の一人を捕まえて聞いてみると、光が昨日から行方不明で、もしかしたら誘拐されたかもしれないと連絡があったらしい。
質問を全部する前に兵士が行ってしまったため、詳しい情報を恒人に聞きにいった。
「……こう言うのもなんだけど、人一人の誘拐でここまで全員が大慌てになるなんて」
「一般の者だったら王国軍総出で捜索したりはせんよ。ただ、あの子は特別だからな。しかし……やはりこうなる前に護衛を付けておくべきだったか」
世界的に見ても珍しいとされている特異体質者。
その中でも特に貴重な超頭脳を持つ特異体質者は技術の発展に直結する才能である為、国同士で取り合いになる事もしばしばあるようだ。
「それで、見つける手立てはあるのか?」
「もちろんだ。余程の予想外な出来事が起きない限りは逃げられるなんて事は起きないだろう」
昨夜の夜から朝にかけて城下町の中と外を出入りした不審人物はいない。
その上、城下町は朝から封鎖されている為、光を連れ去った犯人はまだ街にいる可能性が高かった。
「なぁ、俺にも何か手伝えないか?」
「ないな。こっちの事は気にせず学業に専念しなさい。入学して次の日からサボりなんてイメージが悪くなってしまうぞ」
(トリオを組んだその日に誘拐されたことの方が印象悪そうだけど……仕方ない、これだけ大勢の人が捜索に出ていれば見つからないなんてこともないだろうし、気になるけど学校に行くか)
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昨日は恒星たちの歓迎式などで1日が潰れたため、本格的な授業は今日から始まった。
授業には、国の歴史や戦略などについて学ぶ座学と、使う武器ごとに別れて行う実践訓練の二種類があり、午前は座学で午後は実践訓練となっている。
時刻は既に3時過ぎ。
本来であれば実践訓練を行っている時間であるが、恒星は柊との手合わせで負った怪我のせいで授業の参加は見合わせとなっている。
そのため、特にすることない恒星はクラスメイト達の実践訓練を見学して回ることにした。
━━━刀剣武器の訓練場
所属生徒
・星影 恒星 使用武器/刀 特異体質/無痛症
・#桜宮__さくらみや__# #香織__かおり__# 使用武器/短剣
おっとりとした性格で、ふわふわとしたイメージを受ける少女。胡桃沢のワガママによく手を焼かされている。
━━━打撃武器の訓練場
所属生徒
・矢宗 綾人 使用武器/斧 特異体質/再生
6年前、ボロボロになりながら王都にやって来たところを恒人に拾われて城に住むようになった。大雑把な性格であるが、意外にも面倒見が良く、人見知りの未由来を気にかけている。
・星影 恒 使用武器/モーニングスター
恒星の妹。本来であれば年齢的にクラスに入る事が出来ないが、その実力が認められて特別にクラス入りが認められた。
・蘭野 嶺花 使用武器/鞭
生粋のお嬢様。高い身分ではあるが、決して他人に気取った態度はとらない。
━━━射撃武器の訓練場
所属生徒
・外瀬 未由来 使用武器/スナイパーライフル 特異体質/遠視
3つ年下の恒と同じくらい小柄な少女。過去に何かあったのか人と関わる事を怖がっている。
・#月待__つきまち__# #栞__しおり__# 使用武器/機関銃
クールな性格で騒がしいタイプではないため、人見知りの未由来もあまり怖がった様子は見せていない。
━━━長柄武器の訓練場
所属生徒
・小鳥遊 由宇奈 使用武器/薙刀
恒星のメイド。アナザーの由宇奈は活発なのに対して、こちらの由宇奈はお淑やかで清楚というイメージを受ける。
・真瀬 徹 使用武器/槍
クラスのまとめ役。人を守る事に誇りを持っており、悪事を働く人間に対して過剰な程の嫌悪感を抱いている。
・#胡桃沢__くるみざわ__# #咲姫__さき__# 使用武器/鎌
可愛い物とオシャレが好きな女の子。栞と香織の三人でいることが多いが、誰とでも分け隔てなおしゃべりができる。
━━━近接格闘武器の訓練場
所属生徒
・#十文字__じゅうもんじ__# #鬼一__きいち__# 使用武器/鉤爪
高身長で色黒の色男。本人曰く、右側に生えた二本の八重歯がチャームポイントらしい。
・#破魔__はま__# #尊__みこと__# 使用武器/盾
徹と同じくらい真面目な性格を持つ名家、破魔家の子息。口数が少なく、あまり何を考えているか分からない。
━━━全武器訓練場
所属生徒
・#尾津__おづ__# #隼__はやと__# 使用武器/全種
全種の武器を使えるオールラウンダーらしいが、授業を真面目に受ける気はないらしく、常にふざけた様子で授業時間をやり過ごしている。
既に4つの訓練場を周り終えた恒星は、最後に射撃武器訓練場へとやって来た。
しかし、そこには未由来や栞、先生の姿はなく、なぜか打撃系武器の訓練場にいるはずの綾人の姿があった。
「綾人じゃん。授業はもう終わったのか?」
「初日だから今日は軽めの訓練だったんだ。それで暇だったから未由来の様子を見に来たってわけ」
どうやら今は狙撃訓練の最中らしく、未由来たちは遠く離れた位置に身を隠しているようだ。
少し時間が経ち、遠くから銃声が聞こえた数秒後、分厚い鉄板で出来た人型の的の頭部分を銃弾が貫通していった。
「すご……」
超遠距離からの正確な狙撃を目の当たりにし、思わず口から感嘆の声を漏らす。
「よくあれだけ遠距離から撃ったのにあの分厚い鉄板を貫けたな」
未だ目の前で起こった出来事に心を奪われている恒星は、思った事をそのままポツリと呟いた。
「まぁ、未由来の銃には超遠距離からの狙撃を補助する異能効果が付いてるからな。これくらいなら余裕だと思うぞ」
「なるほどなぁ。ところでさぁ綾人」
「ん?どうした」
「セルクトって、何?」