研究科の天才と鍛治科の凡才
「なぁ、さっきのトリオについての話で出てきた七国祭ってなんだ?」
「君……もしかして七国祭を知らないのかい??」
「いや、えっと、そうそう!! ちょっとド忘れしてしまって……」
恒星の苦しい言い訳に少し疑問を抱いた徹であったが、トリオの時と同様、七国祭について詳しく説明をしてくれた。
七国祭とは
世界の七大国家、日本・アメリカ・イギリス・フランス・ロシア・イタリア・中国が様々な競技により、各国の次世代の武力を競い合う世界大会のことである。
七国祭で優勝した国は、その年の世界の実権を握ることができるため、七カ国はこの大会に全力を注いでいた。
さらには、七国祭で優勝した国の最も活躍した選手は、その人の叶えたい願いが一つ叶うという噂が流れており、それも相まって若者たちの全力で戦う姿を見られるため、七国祭は毎年、異様な盛り上がりを見せている。
「さてと、着いたぞ!! ここが研究科の教室だ!!」
徹の案内で研究科の教室までやって来た。
しかし、戦闘科の教室から離れた位置にあって、その間の施設も見ながら来た為、着いた頃には終業からだいぶ時間が経ってしまっていたおり、そのせいか、教室の中には数人しか残っていなかった。
話によると、研究科の生徒は別の場所にある研究棟にいることが多く、教室は朝と帰りのSHRの時か、たまにある普通の授業の時以外使われていないらしい。
「徹君じゃないですか。あなたがわざわざこっちに来るなんて珍しいですね。おやっ、そちらの方々は?」
教室の外で話を聞いていた恒星達のところへ、徹とトリオを組んでいる#清徳__せいとく__# #郷__ごう__#がやって来た。
徹は郷に恒星達がトリオの相手を探しに教室に来たことを伝える。
「そうでしたか。せっかく来ていただいたのに申し訳ないのですが、時間が時間ですので生徒はあまり残っていませんよ。今いる中でまだ相手がいないのは……彼女ですね」
郷が指さした先には窓際の席で本を読んでいる少女━━#天峰__あまみね__# #光__ひかり__#の姿があった。
整った顔を照らす夕陽の光は、彼女の肌の白さをより際立たせている。
「天峰さんか…確かに、彼女の超頭脳も恒星君になら合うかもしれないな」
「超頭脳って、もしかして特異体質の事か?」
「あぁ、そうだよ」
光の体質━━超頭脳は日本で二人、世界に十数人しかいないとても希少な体質らしい
「そんなすごい体質を持っているのにまだ誰ともトリオを組んで無いのか?」
「すごいからこそですよ。そのせいか…少し言い方は悪いですが、彼女は研究科の中でも浮いてしまっています。別に彼女自身に何か問題がある訳では無いのですがね」
(人よりも圧倒的に秀でた才にあの容姿。確かに周りの人間から妬みの対象になるのも無理はないか)
「彼女をトリオに誘ってくる」
郷の話を聞いて、ほぼノータイムで恒星は光をトリオに誘うことを決めた。
(もし仮に俺の両親を殺したのがこっちの柊なら、今のままじゃ強さが足りない。俺がもっと強くなるためには……)
「いきなり! そんな簡単に決めていいのか?」
「どうせ誰も誘わないんだろ? それに、俺は強くなりたいんだ。何としてでも」
「誰も誘わなかった訳ではないのですがね」
郷がボソッと呟いた一言を聴く前に、恒星は光のいる所に歩いていってしまった。
「読書の最中にすまない。俺は戦闘科に編入した星影 恒星だ。いきなりで悪いけど俺とトリオを組んでくれないか?」
「えぇ、是非。よろしくお願いします」
光は恒星からのいきなりの申し出に、少し驚いてから何の迷いもなく笑顔で承諾した。
「えっ!? いいの?」
「貴方から誘ってきたのに、いいのかって。可笑しな人ですね」
少なからず断られるかもと思っていた恒星が拍子抜けしている様子を見て、光はくすくすと笑っている。
(事前の話から勝手にお高いタイプの人だと思ってたけど、めちゃくちゃ失礼だったな)
「っていけない、もうこんな時間!! すみません、お父さんのお手伝いがあるので私はこれで失礼します」
時間を忘れて読書に夢中になっていた光は用事を思い出したのか、恒星にぺこりとお辞儀をしてすぐに走って行ってしまった。
(取り敢えず、研究科の枠は決まったって事でいいのだろうか?)
「恒星~。天峰さん凄い勢いで出ていったけど、どうだったんだ」
光の切り替えの速さに呆気に取られている恒星にみんなが集まってくる。
「OKしてもらえた。それもあっさりと」
光が急いで出ていったのを見て、何かあったんじゃないかと心配していた綾人達は、恒星の返答を聞いて安心している。
「彼女は元々、誰かから誘われたら組むつもりだったみたいでしたので断られないと思ってましたが、よかったですね」
「それってつまり、誰でもよかったって事か?」
「ま、まぁ平たく言えばそうですね。それより、早いうちに鍛治科の方にも行った方が良いのではないですか?」
時間的に生徒がみんな帰ってしまっている可能性もあったが、まだ回ってない箇所があった為、そのついでに鍛治科の教室にも向かった。
「ここが鍛治科の教室だが、やはりみんな帰っている…というより補習をしていたみたいだな」
教室には男女の生徒が一人ずつと先生と思われる人がいた。
補習を受けてるのがどんな人間か気になった恒星は教室を覗くと、廊下側に座っている男子生徒に目を引かれた。
補修が終わるとすぐに片付けをして、男子生徒が足速に教室を去ろうとしたので、恒星は慌てて彼に声をかける。
「何だ?」
男子生徒はただ話しかけられただけなのに明らかに不機嫌な様子をしている。
「いや、えっと。俺は戦闘科に編入した星影 恒星なんだけど、俺とトリオを……」
「俺は誰とも組む気はないし、そもそも武器なんて作る気もない。話は終わりだ、俺に構わないでくれ」
恒星が誘っている途中で強い語気で断られてしまい、そのまま男子生徒はどこかに行ってしまった。
「徹、今の誰か分かるか?」
「彼は#鉄口__てつぐち__# #創也__そうや__#だよ」
徹曰く、鉄口家は日本の鍛治師の中で最も有名な家系なのだが、創也は何故か頑なに武器を作ろうとしないせいで、いつの間にか周りから落ちこぼれ扱いを受けているらしい。
(あいつの目。昔の…父さんと母さんを殺されてからの俺の目と似ていた。構うなって言われたけど、気になるな…)
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その日の夜 城下町にて
「はぁ、はぁ…遅くなっちゃった。急いで帰らないと」
研究に没頭して時間を忘れていた光が急いで家に帰っていると、
「すみません、迷ってしまったので道を教えてくれませんか?」
裏路地から出てきたフードを深く被った男に声をかけられ、急いでいた足を止めた。
誰がどうみても怪しいのだが、どうやら光は困っている人がいると放っておくことが出来ない性格らしく、親切にも男に道を教えてあげることにした。
「……それで、その道をまっすぐ進めば着きますよ」
「丁寧に教えていただきありがとうございます。そうだ! 何かお礼を……」
光から目的地の道のりを教えてもらった男は、そのお礼に何かを渡す為に肩から下げた鞄をゴソゴソし始めた。
「いえいえそんな、お気になさらず。困った時はお互い様ですから」
「そうおっしゃらず、ぜひ受け取って下さい!!」
「何…っ!?」
断られているのに関わらず、頑なに何かを渡そうとしている男は鞄から取り出したスタンガンで光を気絶させた。
そして、気を失って光を連れて男は夜の街の暗闇に消えていった。