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神のい(ら)ない世界  作者: ..
5.始まり
4/11

特異体質者

「そうだ。柊がどこにいるか知ってるか?」

「柊ならお前よりも少し早く目を覚まして、確か中庭に行くと言っておったぞ。そういえば、さっきの柊が両親の仇というのはどういう事だ?」

「そのままの意味だよ。3年前、あいつは俺の両親を殺した」


 恒星は両親が殺された時の状況をなるべく詳細に恒人に話した。


「3年前……いや、そんなはずはないだろう。我はあやつが何の意味もなく人を殺すとは思えん」

「まぁ、とにかく一度話をしてみるよ。それから、もしこっちの柊が俺の両親を殺した張本人だと確信を持ったら俺はアイツを殺すからな」


 恒星はそれだけ言い残すと医務室を後にして、中庭へと向かった。


「恒星様! 目を覚まされたのですね」


 中庭へとやってきた恒星に気付き、柊が声をかけてきた。

 外は既に夜になっており、薄暗い闇の中で松明の仄かな灯に照らされた柊の顔は恒星にあの日の情景を思い出させた。


「お怪我は大丈夫でしたか?」

「お前のせいでこのザマだよ」


 ギプスのついた腕を柊に見せる。


「すみませんでした。何分、勝負事には手を抜けない性分でして」


(玉座の間での堅い雰囲気より少し砕けた感じがするが、それだけこっちの俺と親しかったって事なのだろうか)


「そうか。お前は怪我は大丈夫なのか?」

「軽い打撲らしいです。骨などに異常はないけど、脳震盪が起きた直後なので安静にしておくようにと言われました」


 柊は顎に貼られた湿布を摩る。


(脳震盪になる程の衝撃を受けても打撲程度って、本物のバケモンだなこいつ)


「しかし恒星様、昔よりも随分と強くなられましたね。まさか私とあれだけ渡り合えるとは思いもよりませんでした」


(こいつの口振りから察するに、どうやらこっちの俺はあまり戦いは得意じゃなかったみたいだな)


「まぁ…向こうで色々あったんだよ。何だ、聞きたいか?」

「……いえ、遠慮しておきます」


 恒星のまるで地獄を見てきたかのような顔付きに、柊は何があったか詮索するのをやめた。


「そういえば、手合わせの最中に少し気になったことがあるのですが、聞いてもよろしいでしょうか?」


 恒星は無言で頷き、話を続けるように促した。


「私は正直、初めの一撃が入った時点で手合わせは終わるつもりでした。あの怪我の痛みで動けなくなると思ったからです」

「それで?」

「ですが恒星様は手合わせをやめず、あまつさえ私に反撃をした。なぜあの怪我であれだけの動きが出来たのですか?」


(どうする…まぁさすがに誤魔化せないだろうし、正直に言うか)


「何故ってそりゃあ、別に痛くないからな」

「それはつまり、痛みを感じないという事ですか?」

「そうだ」

「まさか、恒星様も特異体質者に…」


 柊は独り言のようにボソッと呟くが恒星に聞こえていたらしく、特異体質者とは何か説明を求められた。


「特異体質者とは身体機能が普通の人間とは違う人を指します。具体的に言うと、恒星様は痛みを感じないので〝無痛症〟の特異体質者だということになります」


(なるほど。そして、恐らくこっちの俺は特異体質者ではなかったみたいだな。正直に言ったのはミスだったか…いや、今のところそんなに怪しまれてないから別にいいか)


「〝も〟って事はお前も特異体質者なのか?」

「そうです。恒星様は昔、特異体質者ではなかったので教えられませんでしたが、恒人様も我々と同じです」

「お前は何の特異体質なんだ?」

「私は〝ダブルブラウン〟という他の人より筋肉が付きやすくなる特異体質です」


(あの鉄のように硬い筋肉は特異体質によるものだったのか。もし、こいつが両親の仇だったら殺すのに苦労しそうだ)


「強そうな特異体質でよかったな」


 恒星が皮肉混じりに言葉を返す。


「そう…ですね。ですが、特異体質はメリットばかりではありませんよ。実際、私はこの体質のせいで親に捨てられてしまいましたし」

「……悪い」


 親というワードが出てきた事で共感してしまった恒星は、仇かもしれない柊に対して思わず謝罪の言葉が口から漏れた。


「謝らなくても大丈夫です。そのおかげ…というのも変かもしれませんが、恒人様と出会い、今こうして充実した日々を送れているのですから」

「まぁ、それならよかったな」


(話が終わりそうだが、結局コイツが親の仇かどうかは分からなかったな)


「そういえば、俺たち以外にも特異体質者っているのか?」

「ちょうどこの城に恒星様と同い年で特異体質者の者が二人おりますが、よろしければ会ってみますか?」


(まだこっちの世界に来たばかりだし、取り敢えず知り合いは増やしておきたい……)


「あぁ」

「わかりました。今日はもう夜ですので明日の早朝、またここにいらして下さい。2人は私が呼んでおきます」


 柊と別れ恒星は自室に戻った。

 リアルに来てからの一連の出来事で疲れていたのか、恒星はベッドに入るとすぐに深い眠りについた。


━━━ ━━━ ━━━ ━━━ ━━━ ━━━ ━━━


 次の日 早朝 城内中庭


「おはようございます。恒星様」


 中庭に行くと柊の他に、恒星と同じくらいの身長でガタイの良い少年と雫と同じくらいの身長の少女がいた。


「あんたが行方不明だったっていう王子様か。俺は#矢宗__やそう__# #綾人__あやと__#だ。よろしくな、王子様」


 自己紹介と同時に握手の為、手を伸ばしてくる。


「星影 恒星だ、よろしく。それと、王子様じゃなくて普通に名前で呼んでくれ」

「じゃあ恒星で。んでこっちが…」

「#外瀬__とのせ__# #未由来__みゆき__#……です」


 未由来は名前だけ言い終わると、綾人の後ろに隠れてしまった。


「すまん、こいつは重度の人見知りなんだ、許してやってくれ」

「えっ? あぁ、別にいいけど」


(人見知りというか、身体震えてるしすごく怯えた表情してるけど大丈夫だろうか)


「それで、俺たちの特異体質について知りたいんだったっけ?」

「うん? あー、そうそう」


(ただ知り合いになりたかっただけなのだが、こいつ間違って解釈してるな。まぁ、どんな体質なのか気になりはするし、一応聞いておこう)


「じゃあまずは俺の体質から。未由来、貸してくれ」


 綾人に頼まれ、未由来はどこからか取り出したナイフを手渡した。


(待て待て、今どっから取り出した?)


「未由来は警戒心が強くてな。いつもこうしてナイフを携帯してるんだ」

「へ、へぇ。以外とお茶目さんだな」


 常にナイフを携帯していることに対して、思わず苦笑いが浮かぶ。


「今からやるから、よく見ててくれよ!」


 そう言い終わると、綾人は手に持ったナイフで自分の手首を勢いよく切りつけ、恒星の前に腕を突き出した。

 手首からは大量に血が溢れ出し、恒星と綾人の足元の芝生を赤く染めた。


「お、おい。何して……って、は?」


 少しの時間経ち、綾人が手首についた血を拭き取ると、痕も残さずに傷は綺麗に治っていた。


「これが俺の体質、〝再生〟だ」


(すごい…結構ざっくりいってたのに一瞬で治ってる)


「今みたいな軽度の傷ならすぐに治るし、腕が切り落とされるような重傷を負っても時間さえあれば治るんだ」


(さっきのも普通の人からすると重症だと思うけど…)


 しかし、治るといっても当然痛みはあるため、日頃から痛みに耐える特訓をしているらしい。


「その体質って、怪我だけじゃなくて病気とかも治ったりするのか?」

「どうだろう、昔はよく病気になったりしてたけど…確かにこの体質になってからは病気にかかってない気がする」


(綾人って昔病弱だったのか。今の綾人からは想像出来ないな)


「次に未由来の体質だけど…」


 綾人が未だに後ろでプルプルしている未由来に目をやる。


「代わりに俺が説明するよ。未由来は〝遠視〟なんだ」

「遠視って別に普通の人でもなるんじゃ…」

「未由来の遠視は目が悪い人のそれとは違うんだ。近くのものもちゃんと見えるし、数キロ先のものを視認する事ができる」


(再生より派手さはないけど、マサイ族もびっくりのすごい体質である事は間違いないな)


「それで、恒星はどんな特異体質なんだ?」

「俺のは…」

「おぉ!! 恒星と綾人と未由来、ちょうど三人とも揃っておるな」


 なにかの袋を持った恒人が中庭にやって来て恒星の話を途中で遮った。


「すまない。話の途中だったかな」

「いや、別に。それより何を持ってるんだ?」

「これが気になるか?」


 恒人は袋をガサゴソして一枚の服を取り出した。


「これは…制服か? 何でこんな物持って」

「何故って? それはな、お前達三人には今日から学校に通ってもらうからだ」

「「「学校!?」」」

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