実は隣の中学
川口に自由時間をもらいメイシーズに行こうとしたが、
外に出るのが怖い。
結局、ホテルの部屋にこもりっきりだった。
言葉はわからないが、テレビを付けて見た。
チャンネルをバチャバチャ変えて見た。
あ、スーパーレンジャーがやってる。
これ見てみたかったんだ。
佳子の気分は少し戻った。
言葉はわからないが、世界名作劇場のアニメもやっている。
あああ、ちゃんと英語、
勉強しておけば良かったな。
まさかニューヨークヤンキースに転職するなんて思わないじゃない。
夜、打合せをかねて川口に夕食に呼ばれた。
「さて、井上さん、年俸7億6000万円でいいですか」
「いい以外に何かありますか。月給いくらですか」
「6000万円ちょっとです」
「えっ」
アニメのグッズ買い放題だと佳子は思った。
「井上さん、好きな数字教えてください。背番号、好きな数字を考慮してくれるそうです」
「4かなぁ。日本じゃあまりよくないけど、私4月4日生まれなので4が並べばなんかフィーバー起こりそう」
「わかりました。そう伝えておきます」
佳子は日本に帰って来た。
関西空港に着く。
多くのマスコミが駆け付けた。
出口にはすごい人。
佳子には全くの他人ごとだった。
韓流スターが来るんじゃないかな、
と思ってたら一斉に自分にマイクが向けられた。
井上さん、という掛け声の連続だ。
「井上さんはこの人ですよ」
とほのかを前に押し出した。
「井上さん、意味のないことやめてください。みんな井上さんに聞いているんですよ」
もう仕方がないか。私が答えてあげよう。
「井上さん、ニューヨークはどうでしたか」
なんだろう。何が面白かったかな。
テレビで見たスーパーレンジャーぐらいかな。
「スーパーレンジャーです」
「えっ、スーパーマンのように活躍するってことですか」
マスコミは勘違いして尾びれ背びれを付けることが多い。
翌日、新聞やメディアの見出しは「スーパーマンになる」で、
賑わった。
佳子は1月に引っ越しすることが決まった。
現地で佳子の世話をするために母親の渡米も決まった。
とりあえず、引っ越しまで暇だからあちこちのアニメイトに行こう、
スケジュールを決めた。
ただ単にぶらぶらするだけだ。
ニューヨークタイムズや朝日新聞に顔写真が載っても
本当の佳子は地味なのでチンチン電車に乗っても
誰にも気づかれない。
天王寺駅前で降りてあべのの歩道橋を歩いても誰にも気づかれない。
今日は天王寺のアニメイトに行くんだが
メインイベントはあべのキューズモールだ。
最上階で好きなアニメ、“オオカミちゃんとうさぎ寮”と
“ダーリンは御徒町”の合同カフェをやっているのだ。
佳子はメスのオオカミがウサギに惚れて、ウサギの寮の友達をみんな食べて行くという
ホラーサスペンスコメディのこの作品がすごく好きだった。
宝石が人間に惚れて人に乗り移っていくというダーリンは御徒町も好きだったので
この2つの二大タイトルが一つの店になるというのは大感動だった。
本当は一作品ずつでも良かったのだが、
いずれは自分で店を出せるようになろうと佳子は誓った。
入店の整理券をもらう。
周りは佳子と同じような女性ばかりだ。
で、よく前を見ると2人前に井上ほのかが並んでいる。
なんで。あいつが。
佳子がギロリとほのかを睨む。
それに気づいたのか気づかなかったのか
ほのかが声をかけてきた。
「あれー、井上さん、どうしてここに。私、どっちも好きなんですよね。この後、アニメイトにも行くんです。井上さんも好きなんですか」
あれ、この女、もしかしていいヤツかも知れない・
「私はカミウサも好きなんだけどダリオカも好きなんです」
「うそー、そうなんですか。うわー。ダリオカって小杉派ですか、渡辺派ですか」
「渡辺」
「わーすごい」
この後、ほのかと濃いアニメの話をした。
一緒にアニメイトにも行った。
一瞬で仲良くなったのだ。
ほのかは佳子より一歳上で隣の中学校だった。
行っている店は全部一緒だ。
「私、アニメを見るためにネットチャンネル4局契約してるんです。ヨッシー、安心してね」
井上さんから呼び方がヨッシーに変わった。