悪意
ソーディア家に王族が来訪してからというもの、マリエルの実は更に価値のある物となり、『実る宝石』とまで言われていた。
そんなソーディア家と近隣の貴族達は結びつきが強くなっていく。とはいえ、それはあくまで家と家との表面的な付き合いなだけではあるのだがソーディア家には沢山の貴族達が出入りすることになった。
だがしかし、対照的にデュランと同世代の友人だった者達は彼に近づくことがなくなった。
彼の勇気ある行動で王は教育方針を変え、今までとは変わってスパルタになったというのは有名な話ではある。
しかし同時にこんな噂も流れていた。
ソーディア家の長男は王子に暴力を振るう粗暴な者であると。更にマリエルの実を盾に取ってその様な行為に及んだという尾鰭も付けて。
これは王族、もとい国が流した訳ではなくソーディア家を妬む悪意ある貴族が流したものである。
ただし、デュランが故意ではないにしろ王子を突き倒したことは事実である為、根も葉もないとは言い難かった。
それ故にデュランはまさに腫れ物といえる存在になった。貴族の当主達は自分達の子息をデュランに近づかぬ様に忠告する。
昨日まで仲の良かった者は離れ、だからといって明日から仲良くなる者はいない。
そんな状況を幼少期に味わったデュランは自分の中の正義に疑問を持つ様になる。
(間違いだったのか?)
明らかにあの日から自分は避けられてしまっている。価値観が変わっていく流れになってもおかしくはないだろう。
孤独とはそれ程までに恐ろしいものだ。
ただ、彼から離れない者もいた。それは兄弟であるレーヴァ、そしてヒルドとエヴァ。
もしも彼らがいなければデュランは今どうなっていたかわからない。
今以上に何かに踏み込むことを恐れて、何かに巻き込まれることを避ける、只々怯えるだけの人間になっていたかもしれない。
だからこそデュランにとって彼らは大切な者達であった。
だからこそデュランは想い合う二人を繋げたかったし、あの時怖い思いをしたエヴァに幸せになって欲しかった。
例えその幸せの輪の中に自分がいなくても。
それからというものデュランは努力をした。自分が嫌われていようが構わない。
ただし、自分達の敵となる者には容赦はしないと思う様にもなる。但しこれは父親の性格に似てしまったこともあるかもしれないが。
勉学も剣術も、体術だろうが槍術だろうがなんでも貪欲に学んだ。
その根幹には守りたいという意思があったが、ただもう一つ。
自分が優秀であれば過去の汚名が消えるのではないかと、希望があったのだろう。
それがソーディア家の長男が同世代の子供と比べて優秀であったことの所以である。
ただ、兄に負けんとばかりに弟も兄と同じ様に努力を積み重ね、注目を浴びた事はデュランにも意外ではあったが、それはそれで将来のことを考えれば良いことだろうと考え方を良い方向にシフトした。
そして成長し、成人になる歳の春の頃だ。
デュランに予期せぬ困ったことが一つ出来てしまった。それはヒルドとの婚約である。
誕生日が早いヒルドは盾の一族たるシルト家において、盾加護とは違うものを得てしまった。
エヴァは盾加護を得た為に、その時点でエヴァが家督を継ぐことになった。
貴族の親としては家格が低いところよりは同等、もしくは高いところへ嫁に出したかった。そこで白羽の矢が立ったのが親交の深いソーディア家だった。
親同士も仲良くトントン拍子に婚約は決まったが、その相手は家督を継ぐ予定のデュランであった。
それを聞いた時、デュランもレーヴァもヒルドもエヴァも四者四様顔が引き攣ったのは想像に難くない。
ただ、貴族とはそういうものである。幼少から貴族としての教育を受けているのだから決まったことは受け入れるしかない。
が、デュランはヒルドと密かに連絡を取り上手く破棄できないかと、あーでもない、こーでもないとマメに筆談をしていた。
それがお互いの両親から見れば愛を深める為と暖かく見守られる結果ではあったが。
とはいえ手段はそうそうあるものではない。婚約破棄をする為に一番自然な流れになるのはデュランが剣の加護を得ない事であったが、こればかりは自分の意思ではどうにもならない。
それでも運が良いのか悪いのかデュランは見事に盾加護を得た。これでレーヴァとヒルドが結ばれる筈と確信を得て、その通りになった。
あとはエヴァが良い人と結ばれれば、と思っていたが……久しぶりに見たエヴァの姿に何故かデュランの心が揺れ動いた。
彼自身、まだこれが何か分かっていなかった。
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