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幼馴染

 強制的に外に連れ出されたデュランとエヴァはソーディア邸の敷地内を散歩していた。

 貴族の家だけあって、庭はとても広く一周するだけでもそれなりに時間が経つ。

 幼い頃、二人でこの広い庭をよくかけっこしていたのが今では懐かしい。



 久しぶりに走りたい気持ちではあったがエヴァはドレス姿、流石に走るのは厳しいだろう。



「やっぱりソーディア邸の庭は広いし、植物も沢山あっていいわね」


「シルト家だって大概広いだろうよ。まぁ植物……というか作物は訓練と実益を兼ねてるから多いけどさ」



 貴族の広い庭で畑というのも風変わりであるが、農作業というものはかなり身体を行使するものだ。故に鍛錬の一環で当主とデュランとレーヴァは野良仕事にも慣れている。

 広さもあるので剣を振る時間が無くなることもしばしばだが、領民の気持ちを汲み取ることも出来るし自給自足にもなるので悪いことではない。おまけに土が良いので味の良い作物が収穫できる。



 ただ泥に塗れることに他の貴族から馬鹿にされることもあったが、当主のエクスは特に相手にしなかった。

 というのもこの敷地内でしか取れない作物もあり、しかもそれが王室御用達の果実でもある為に非常に人気もあるのだ。しかしそれは馬鹿にしてきた貴族には絶対に卸す事はなかった。

 どんなに高い金を提示されても、だ。



 恩には恩を、仇には仇を返す事がソーディア家、もといエクスにとってのモットーであるからだ。




「マリアルの実は今でも沢山取れてるの?」


「ああ、相変わらず取れてるよ。どうしてここでしか育たないかは不思議だけどな。でも王室で買い取ってくれるし王室様様だよ。俺はもう食べ飽きちまったけどな」


「そっか」



 マリアルの実をじっと見つめるエヴァ。彼女にとっては忘れ難い出来事が脳裏に浮かぶ。

一つはとてもとても嫌な思い出。

もう一つは初めて自分の心に大切な感情が実った思い出。



 だけどそれは大切な人が傷ついてしまった思い出でもあって――



 だからそれ以上は何も聞かなかった。むしろどうして不用意にマリアルの実の話しなんてしてしまったのだろうかと後悔した。

 もう何年も前に終わった事だけれど、彼の中では終わっていないのかもしれない。

 それを確かめたかったのかもしれない。



 ――馬鹿だ、どうして、わたしの所為なのに



 蒸し返してしまっただろうか。空気の読めない女と侮蔑されるだろうか。そんなことをエヴァが思っていると彼女の右手を掴む感触があった。



「おいおい、呆けっとしてんじゃねぇよ。畑に足突っ込む所だったぞ」


「あっ……ごめん」


「全く鈍臭いところは昔から変わってねぇな。それとも馬車に乗って疲れちまったか?」



()()助けられちゃった、かな)



「……ありがと」


「ん?どうした、随分としおらしいな。少しは乙女らしくなったか?」


「もう、デュランはいつもそうなんだから! わたしは昔から乙女なの!」



 まったくもう、と思えばさっきまでのドロドロと纏わりついていた負の感情は消え去っていた。

 やはり昔からこうなのだ。



「ねぇデュラン、手……」


「おお、悪い……って離さないのか」



 デュランが握った手を開いて手を離そうとするが今度は逆にエヴァが手を握ってきた。



「いーの、だって昔からわたしの手をこうやって握っていてくれたでしょ?」


「逆に引っ張っられて肩が外れそうだったけどな。どれ、日も暮れそうだしそろそろ戻るとするか」


「駄目、もうちょっと一緒に歩こう?」


「……ったく、少しだけな」



 二人で手を繋いで歩くのは幼少期以来であった。

 だけど懐かしく温かい感触は忘れようとしても忘れられない。

 だけどエヴァの手にはあの頃よりも大きくて、手に豆を作ったゴツゴツした手が握られていた。



(大きく、なったな。わたしも、デュランも)

読んでいただきありがとうございます。

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