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対面

「久しぶりだなエクス。相変わらずむさ苦しい顔をしているな」


「……貴様が伝統あるシルト家の当主じゃなければ出禁にするところだったぞアイギス」



 応接間に設置してあるテーブルを挟んで相見えるのはこの屋敷の主であるソーディア家当主夫妻と急遽次期当主に決まったレーヴァ。

 そして来客であるエクスの友でもあるシルト家当主アイギス夫妻とその双子の娘で姉のヒルドと妹のエヴァ。今回はヒルドの()()()婚約者であるレーヴァとの顔合わせという名目で急遽来ることになったのである。



「お久しぶりですわソーディア閣下。シルト家長女のヒルド=シルトです」


「妹のエヴァです」


「二人共楽にしてくれ。そもそもの話、今回は我が家が迷惑をかけて申し訳ないことをした。当人のデュランはショックで寝込んで……ってどうした?」



 ヒルドの表情は明らかにその言葉に疑いを持っていた。本来そんなことを目上の者にするのは不敬であるが、幼い頃からの顔馴染みであるエクスである為に少々気が緩んでしまったらしい。



「あ、いえ、なんでもありませんわ、ほほほ」



「まったくこの子は……すまんなエクス、少々緊張している様でな」



「いやいや、そんな気にすることでもあるまいよ。それよりもおじ様と呼ばれなくなったことの方が寂しいよ」



「ふっ、お前がそんなことを言うとは随分と老け込んだか?まぁ仕方ないか、そのむさ苦しさではな」



「表に出ろ。剣聖の振るいし刃をその身体に切り刻んでやろう」



「我が盾を破るつもりでいるとはな。上等だ、勝負してやる」



 突然の当主同士の喧嘩の売り買いに他の者は溜息を吐く。この二人、いつもこうなのだ。

 何かと言葉を交わせば必ず最後に喧嘩になる。とはいえこれをもう二十年以上続けているのに付き合いは変わらない。いや、むしろ付き合いも深くなっていき、喧嘩する程仲が良いを地でいっている。


 夫人達に至っては毎度の事に慣れすぎて二人だけでずっと世間話をしていた。

 はたして婚約話はいずこへ。




「父上、シルト閣下、今日は喧嘩をする日ではないですよ」



「何を言うかレーヴァ、これは喧嘩などではない。奴に制裁を与える日なのだ」



「ほざけ。貴様が制裁などと世迷いごともいい加減にしておけ」



「なにぃ?」



「なんだぁ?」



 これでは埒があかない、再びレーヴァが溜息を吐こうとした所にガツン、と鈍くも高い音が二つ響いた。



「「くおおおぉぉぉぉぉ……」」




 エクスとアイギス、二人の頭には互いの妻の手に握られた扇子によって背後から頭を殴られた。

 これには二人共悶絶して頭を抑えていた。




「まったく、娘の婚約話だっていうのに何を遊んでいるんだか」


「ウチの主人もアイギスもほんと変わらないわね。ほらレーヴァ、駄目な男達は放っておいて貴方も改めて自己紹介なさい」



 駄目な男達と言われていようが貴族界隈では有名であり、二人共に当主であるのに放って置いてしまっていいのか疑問はあるが、このままだと時間が勿体ないのでレーヴァは母に従う事にした。



「では改めまして――ソーディア家次男で、次期後継者のレーヴァ・ソーディアです。皆様よろしくお願いします」



 幼い頃から礼儀作法をみっちり叩き込まれた所以かレーヴァはその所作一つ一つが丁寧であるが、これは沢山努力をした結果だろう。

 目の前のヒルドは久々に会ったレーヴァの姿に見惚れ、ぽーっとしていた。



「……ちょっと、お姉ちゃん、口っ! 口が開きっぱなしだよ。淑女が旅に出てるよ」



「はっ!? またしてもわたくしともあろう者が……何度も粗相をしてしまい申し訳ありません」



「ふふ、久しぶりにヒルドの顔を見たけど中身は変わらないね。でもそのドレス凄く似合ってるよ。それにしても暫く見ないうちに美しくなったね」



「〜〜っ!?」



 レーヴァは口説き落としたくてこう言った訳ではない。ただ好きな人に素直な感想を述べただけなのである。

 こういうところに彼の人柄がでるのだが……しかしながらこれを素直と見るか計算と見るかで彼の周囲の評価ら変わるのである。

 彼のことを好意的に思う者もいれば勿論嫌う者もいるのだから世の中ままならないものだ。




「コホンっ! 全く親の前で娘を口説こうとはな。全く誰に似たのやら……まぁ良いレーヴァ、ヒルドはお前の兄の婚約者だった。言うなればお下がりの様なものだ」



「お父様!?」



「黙っていろヒルド。そんな娘でもお前は構わないのか?」



「はい、僕は昔からヒルドのことが好きでした。それは今でも変わりません。だから彼女を、ヒルドを僕にください」



 レーヴァが真剣な眼差しでアイギスを見る。

 その視線に応えてアイギスが口を開こうとするとヒルドの隣にちょこんと座っていたエヴァがついつい小声で口を出してしまう。



「ちょっと……レーヴァ君、それプロポーズしてないのに言っちゃっていいの?」



 一瞬の沈黙ののち――



「ぷっ………」


 冷静に、至って真剣な表情であった。が、母親達は耐えきれなかったようで口から笑いが漏れてしまった。



「あっはっはっは! ちょっとエヴァちゃんったら真剣な所なのにツッこんじゃだめよ」



「もう、私達だって黙ってたというのに。空気を読みなさい!」



 レーヴァ、ヒルド、エヴァは三者三様に顔を赤くして俯いてしまった。思わずエクスもアイギスもこれには苦笑いだ。



「若いのは良いことだが少し突っ走りすぎだな。若い頃のエクスにそっくりだな」



「む……」



「ふははは、言い返せまい。ミスティを娶る時の立ち振る舞いのときなんて……」



「やめい! 子供達に話していないことを言うでないわ! あー、コホン、ヒルドよ其方もレーヴァと婚約することは大丈夫なのか?」



 エクスは無理矢理に話を方向転換させる為にヒルドに話を振る。流石に真面目な問いの為に顔はまだ真っ赤だがヒルドは顔を上げる。



「はい、わたくしもレーヴァ様と婚約することに異議はありません。()()()よろしくお願いします」



 強調したのはデュランではなく、レーヴァの婚約者であることを示す為だ。別にデュランと何があった訳でもないが、彼女なりの誠意である。




「うむ、ヒルドよ何かあればすぐ帰ってくるのだぞ。このむさ苦しい男がいると何かと大変だろうしな」



「お前は一度喉を掻っ切ってやらねばならん様だな」



 また始まった、とレーヴァは思うが上手く話も纏まったことで安心は出来た。ただやはりこの場に兄がいないということは寂しさを覚えた。



(それは僕だけじゃないだろうけど)



 姉を祝福しつつもどこか寂しそうにも見えるエヴァ。両親達はいつも一緒にいた姉が離れゆく寂しさかと思っていたが、本心はこの場にいない誰かを想ってのことだ。

 だからこの場で想い合う二人に感化されたのかエヴァはエクスに話しかけた。



「おじ様、少しお庭を散歩してもよろしいですか?久しぶりだから見て周りたいの」



「ああ、構わんよ。いいだろうアイギス?家の周りは警備の者が巡回しているし危険はない筈だ」



「構わんよ。行ってこい」



「はい、失礼します」



 立ち上がって応接間を出た彼女が一目散に向かった場所は彼女が幼い頃によく行った場所だった。

 サプライズの意味も込めて外から、と考えつつ。

読んでいただきありがとうございます。

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