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勘違い

 加護を授かる儀式が終わり帰路についた一家は、ソーディア家本邸において家族四人で早速今後の話し合いをすることになった。



「馬車の中で色々考えたが……後継者はレーヴァとする。一応な、数世代前に例外的に同じような事例はあったことはあるのだ。デュランには申し訳ないのだが……」


「この家から追放ってことですか。俺も記録なら読みましたよ。四代前の当主の兄が剣以外の加護を授かってしまい追放だったんでしょう?」



 デュランが以前読んだ家系図および記録にはそのような記述があった。

 その祖先は追放の後、どうなったかは書いていなかったが、デュランは同じように追放されると予想していた。



(仕方ないよな、貴族界隈ではよくある話だ。役立たずは追い出されるってな)



「追放!?」


「あなた、デュランだって大切な息子よ。追い出す様な真似はやめて……」



 驚くレーヴァと悲痛な表情の母ミスティに対して父エクスは冷静に言う。



「落ち着け。何も私はデュランを追い出すつもりなど毛頭にない」


「え?そうなの?」



 ついついデュランは素の声が出てしまう。父親といえど真面目な話をしている時に限っては敬語は欠かさないからだ。



「当たり前だ。なんでわざわざ追い出す必要がある?大体お前が言う祖先だが、其奴が追放された原因は加護では無く犯罪を起こしたからだぞ?流石に身内に犯罪者がいるという醜聞が広まらぬようにした苦肉の策なのだろうが」



 成る程、どの程の罪を犯したのかはもはや知りようがないが物騒な先祖もいたものだ……と、この場にいる者は皆思った。



「ただな……将来的にレーヴァの補佐をするか独立するかはお前が決めろデュラン。お前が無能な人間ではないのは私は知っている」


「……そうですね。ゆっくり、とはいかないでしょうが早めに決めようと思います」


「ああ、済まない……家の都合でお前達を振り回してしまっていることは充分分かっている。だがこれも剣の一族と呼ばれた我が家を存続させる為なのだ」



 デュランは父に頭を下げられて、自分の認識が間違っていたと認識する。父は厳しい人であり、家の為なら容赦なく息子の意思など気にしないと思っていた。

 結果としてはそう思われてしまうことではあるのだろうが、息子達には申し訳ないと思っていた事がデュランには嬉しかった。



「ただなぁ……デュランの婚約者についてなんだが、後継者と結婚させるという相手との約束でなぁ……」


「あ、それに関しては賛成だ。ぜひレーヴァの嫁にしてくれ」




 間髪入れずそう言うデュランに家族は皆目を丸くする。




「いいのか?幼い頃からの付き合いだろうに」


「いいんです。こう言ったらなんですが俺はアイツに特別な感情が無いです。それにアイツは昔からレーヴァが好きだし、こいつだって……」



 そう言いかけてデュランがレーヴァを見ると顔を真っ赤にして慌てて立ち上がった。



「ちょちょちょちょ、ちょっと兄さん!?いきなり何を言ってるんだよ!?」


「見苦しいぞレーヴァ、次期当主がそんな事で取り乱すな」


「……うるさいよ兄さん」


「ははは、冗談だよ。アイツは間違い無く俺よかお前が好きだよ。むしろ嫌われてるんじゃないか?

それにさっきも言ったが俺はアイツが好きじゃないがお前はアイツが好きだろ?」



 図星を突かれたのかレーヴァは溜息を深くつくと再び椅子に座った。



「はぁ……何で知ってるの?絶対知らないと思っていたのに」


「あれで隠しているなんて思っているのかお前は……」




 デュランから見た元婚約者に対するレーヴァの態度は兄から見れば一目で分かるようなものだった。

 そしてその事がデュランが後継者になるのを躊躇う要因の一つでもあったのだ。



「ふむ、ならば婚約者の件は構わないのか?」


「むしろ喜んでレーヴァに任せますよ。というかそうしてくれないと俺がアイツに殺される」



 これは嘘でもなんでもないデュランの本心だ。事実、婚約者は性格的に無理であった。

 もしも当主になっていたら土下座しても断っていただろう。



「分かった。相手の家には早馬を飛ばすとしよう。では今日はここまでだ。二人共疲れただろう。今日はゆっくり休むといい」




 そこで話は終わりとなり、デュランとレーヴァはそれぞれ部屋に戻っていた。





 そしてその日の夜、デュランの部屋の扉がノックされるとレーヴァが部屋に入ってくる。

そしていつもより声のトーンを落として一声。




「ふ……ふふふ……兄さん、今どんな気持ちだい?弟である僕が後継に相応しい加護を得て兄さんは正反対の加護を得てしまった。悔しいかい?今まで下に見られてきた僕が兄さんの上になったんだ。これで今後はこの家は僕の物だ! はっはっは!」



「お前がそんな事言ったら世界が滅びるんじゃないかと思うよ。ていうか演技下手だぞレーヴァ。当主になったら腹芸も必要だぞ」



はぁ、と、ため息を吐いて言うデュランにレーヴァもため息を吐いて口を開く。



「……うるさいよ。一回ぐらい言ってみたかったんだよ悪役っぽい台詞。ってかさぁ僕、本当に当主になるのは嫌なんだけど」



「全部が全部嫌な訳じゃないだろ。婚約者のこととか考えたらさ」



「まぁね。でもさぁ、兄さんの気持ちを考えたら……」



「おい、跡を継ぎたくないって言ったのは俺も本心だぞ。あと一応言っておくが俺は一切()()()()()()()からな」


「……生々しい話はやめてよ」



 兄からそんな話は聞きたく無いとは思いつつも少し安心するレーヴァ。そもそも兄は最近婚約者に会う事が少なかったことを思い出す。




「でも兄さんは皆の前では仲良さそうだったから意外だよ。正直さ……僕嫉妬していたし」



「怖いこと言うなよ、二重の意味でな。あれはアイツと口裏合わせて仕方なくやってたんだ」



「え?そうなの?」



「そういう所だけは気が合ったんだよ。外面だけはちゃんとしましょうってな。ただお前に対する気持ちは紛れもなく本物だよ」




 俺といる時はお前の話ばかりしていたから、と言いたかったが野暮な事は言うものじゃないと喉から出かかった言葉をデュランは飲み込んだ。



「そっかぁ。でもそれが本当なら嬉しいなぁ。えへへ」



ついつい口角が緩むレーヴァを見て再びデュランはため息を吐いた。



「ったく、口元がだらしないぞ。ともかく今日は色々あったしお前も早く寝ろ。明日からはお前が当主になるための教育をうけるんだからな」



「わかったよ兄さん。おやすみ」



 デュランの部屋を出てレーヴァが自室に戻りベッドに横たわるとボソリと独り言を呟いた。



「はぁ、嬉しい事は嬉しいけど……当主になるなんて責任が重いよ。あ、でも……()()()は嬉しいだろうな。兄さんは人の事には敏感だけど自分のことには全く駄目なんだから」

読んでいただきありがとうございます。

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