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盾の加護

 アーマン王国の懐刀を問われてまず浮かぶのは辺境伯爵家のソーディア家だ。

 ソーディア家と言えば(つるぎ)の一族として名を馳せており、初代はその武力だけでアーマン王国の貴族として成り上がった。

 現当主であるエクスは歴代当主の中でも最強と名高く、その息子である長男のデュランにも大きな期待がかかっていた。




「もうすぐだね、デュラン兄さん」


「そうだなレーヴァ。でも俺は剣系加護を授かれるのか不安なんだが」


「あははっ、その時は僕が当主だね」




 この世界では成人である十六歳になると『加護』と呼ばれる、謂わば本人の潜在能力を引き出す為の儀式を受ける。

 その儀式を受ける場所である教会にはソーディア家一家がおり、双子の兄弟で兄のデュランと弟のレーヴァがその順番を待っていた。



「正直当主になるのはレーヴァの方が向いてる気がするんだけどな。現時点で俺より強いしさ……それに分家筋の奴らがお前のことを俺の()()()なんて言ってんのが非常に気に入らない。たった数分生まれ出てくるのが違うだけなのによ」


「僕は気にして無いよ。大体さ、僕は戦うのが嫌いだし領主補佐をやっている方がいいよ」


「まったく……少しぐらいは欲を持てよ」


「僕にだって欲はあるよ。それが叶わな……って呼ばれてるよ。早く行こう」



 デュランとレーヴァは双生児であり、容姿は似ているのだが、デュランは真面目とは言い難く、面倒事を嫌い、雲のようにどこか掴めないタイプの人間だ。対してレーヴァは堅実で真面目で優しく、何故レーヴァが先に生まれなかったのかと言う者もいるぐらいだ。



 ただし二人の仲は良好であるが故に、デュランは自身が当主になることを良くは思っていなかった。


 確かにデュランは同世代の者達と比べても優秀で、加護「剣聖」を持つ父エクスから見ても将来が楽しみと言わざるを得ない才の持ち主ではあった。しかしそんな兄の影に隠れて弟の才も光るものがあった。



 しかしソーディア家は代々長男が後を継ぐことになっている決まりがある為に、同じ日に生まれた双子とはいえデュランが後継者となっている。

 だからこそデュランは生まれた時間が僅か違うだけで優秀な弟が割りを食うのが嫌だった。

 少しでも野心があれば兄である自分を追い落とすことだってできたかもしれないのに――



「じゃあ、まずは俺から儀式を受けるとするか。どうも予想のつかないものってのは緊張するな」


「兄さんは緊張というより面倒なんじゃないの?」


「俺だって緊張することはあるさ」



 自分の将来が()()()()()()決まってしまうなんてことに面倒さを感じてはいたが、これもこの家に生まれた運命と割り切るしかなかった。



「神父様、よろしく頼む」


「はい、きっと貴方様なら赤い光を灯す事ができることでしょう」



 儀式の内容は神父の前で魔導具である水晶玉に触れるだけである。剣に関する加護を授かると水晶玉は赤く輝き、その輝きが強ければ強いほど強い加護を授かったことを示すのである。



「さて、と……っ!?」




 デュランが水晶玉に触れると周りの者達が目を開けてられない程に眩い光が発せられた。



 ただしそれは赤色とは正反対の……青であった。



「これは……この加護は『バリヤーマン』と告げられました……こんな加護名は初めて聞きましたが……」


「青色、ねぇ」



 青色とは剣に関する加護では無く、真逆の盾使いの為の加護であった。

 つまり、デュランの父母が望むものとは正反対のものである。



(あーあ、顔色まで真っ青になっていやがる)



 デュランの父母は彼の予想通りにショックを受けているようで顔色が悪い。行きの馬車の中で意気揚々としていた表情は消え失せていた。

 同時に教会にいた者達もざわついていた。本日の目玉とも言えるべきソーディア家の後継者である長男が剣では無く、盾に長ける加護を得てしまったのだから。



「兄さん……その……」


「所詮俺はこんなものさ。さ、次はお前の番だ。胸張っていってこい」



 後ろ髪引かれる思いでレーヴァは兄に続いて水晶玉に触れた。



「これは……っ!?」



 先程のデュランの光とは真逆、それこそ彼らの父母が望む、目の眩む程の赤い閃光が教会の部屋の中を照らしていった。



「『双剣聖』……と告げられました。これは二刀を扱う者の最上級の加護です!」


「僕が……双剣聖だなんて……」




 先程以上に教会内はざわついていた。いや、それどころか沸いている程である。双剣聖の加護は百年以上は得た者の記録が無いからだ。

 流石はソーディア家の血、と讃える者も少なくない。

 ただその代わりに長男に侮蔑の視線が送られてしまうのも自然であった。



「デュラン、レーヴァ、とりあえず帰るとしよう。帰ってから今後の事を決めるとしよう」


「あなた……」


「ミスティ、今は最善を考えるのだ。我が家の為にも二人の為にも」



(くだらないよな、加護を授かることで親父達にこんな顔をさせちまうんだから……クソったれ)



 デュランはどんな加護を授かろうとも構わないとは思っていた。それは自分で決める事では無いし、万が一の時はレーヴァが後を継げば良いと思っていたし、もしレーヴァが自分よりも良い加護を授かれば自ら後継者をなんとか辞退しようとも思っていた。



 状況的にはデュランにとって、()()()()だ。しかしながら自分達を見守る父母の顔を見て酷く後悔してしまった。


 デュランは周りから見れば適当そうな性格ではあるが家族や身内の事は人一倍大切に思っている。

 それ故に自分の望んだ結果が家族を傷つけてしまったのだ。



(帰りの馬車は気まずそうだな……だけどこれでレーヴァにとっては良い方向に進む筈だ)

読んでいただきありがとうございます。

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