私、貴方の婚約者ではないのですが、何故ご理解いただけないのでしょう
――やりそうな気がしてたけど、こんなところでバカをやるなんて。
遅れて会場入りした青年は大きく溜息を吐いた。
「シュゼット・バルテレミー、貴様の数々の狼藉は許しがたい!! 私の婚約者として相応しくない! よって、本日をもって私との婚約を破棄する!!」
「ジェラルド殿下、唐突に何なのです」
「唐突だと!? そんなことはない。日々、貴様の狼藉を聞かされる度に思っていたことだ!」
シュゼット・バルテレミーと呼ばれた少女は扇で口元を隠し、嘆息。白銀の髪に水面の瞳を持つ彼女は公爵令嬢である。その彼女を学園の卒園式という公の場で糾弾。その意味が彼にはわかっているのだろうかと問うも欲しかった言葉ではなかった。あまりの頓珍漢にそういうことではないのだけれどと首を振る。しかし、それは上段にいる黄金の髪と目を持つ美男子――ジェラルド・シュペルヴィエル第一王子にはわからなかったようで、彼はさらに声を張り上げる。
「数々の狼藉並びに私が懇意にするアレットに直接危害を加えたのだ、当然のことだろう」
「アレット……あぁ、サルドゥ男爵令嬢ですね。言っておきますが、お会いしたことなどございませんよ」
「名前を知っているではないか!!」
「当然です。王太子妃ともなるものが成人した貴族方の名前を知らずしてどうしましょう」
この男は一体何をいってるのだろうかとシュゼットは首を傾げる。それはシュゼットだけでなく、周りの貴族たちも同様だった。
「醜い嫉妬の果てに――」
「何故、嫉妬する必要があるのです? お好きになされたらよろしいでしょう」
「は? 貴様は王太子の婚約者だろうが」
「ええ、そうですがなにか? ですので、殿下は殿下のお好きなようにされてください」
「そう言っていれば私が手心を加えると思っているのだろうが生憎だったな」
これは本当に何を言っているのだろうと首を傾げ、身近な者にどういうことですのと目で問いかけるもそちらもわからないらしい。知らないとばかりに首を横に振られてしまった。
そして、彼の腕にはいつの間にかやってきた淡い桃色の髪に蒼い目をした幼顔の見知らぬ少女がしなだれ掛かっている。ジュラルドは彼女が傍にいて当然とばかりの顔をしており、シュゼットは彼女がサルドゥ男爵令嬢であると納得した。
「ジェラルドさまぁ」
「すまない、アレット。すぐ終わらせるからな」
甘い声にわざとらしく作られたむすりとした顔。そんなアレットにジェラルドは相好を崩し、甘い顔をする。勝手にしてればいいと誰もが思った。わざわざ、シュゼットに絡む必要性は何処にもないのだ。
「貴様との婚約を破棄する! これは変わることはない。早々に諦めて頷け!」
「何故、殿下に破棄を宣言されねばならないのです。それに破棄する理由がございません」
「決まっているだろう! この私の隣にいるアレットと婚約をするためだ!」
シュゼットは遅れて会場入りした青年に目を向け、確認する。彼はそんなことはないと首を振る。
「左様ですか。殿下はそれで宜しいので?」
「何を当然のことを。アレットこそ、王太子妃に相応しいに決まっている!」
「はっきり申し上げますけど、たとえ彼女が王太子妃になったところで、貴方の妻になりませんよ」
「負け惜しみを」
「いい加減に虐めたことも認めちゃってくださぁい」
きちんと言ったのだが言葉を理解していないらしい二人にシュゼットは青年に手遅れと首を振った。青年も見ていてわかったのだろう首肯し、靴音を響かせ、シュゼットの傍に歩み寄る。
「兄上、いい加減王太子の婚約者に変な言いがかりをつけるのはやめていただきたい」
「は? 何を言っている、ジェラール」
シュゼットの傍にやってきた青年――ジェラールはジェラルドとは名の響きは似ているけれど漆黒の髪に紅い目で、精悍な顔つきで背丈も少しジェラルドよりも高い。彼の登場よりもジェラルドは彼の言葉が気にかかった。
「王太子は第一王子である私だろう」
「残念ながら、立太子したのは俺です。兄上は当時熱を出して休まれてたではありませんか」
「ふざけるな! そんなことがあってたまるか!!」
「ふざけるもなにも事実です。それにこの会場の皆様はご存じの様子。あぁ、兄上の恋人は知らなかったようですが」
ジェラールの言葉にジェラルドは顔を真っ赤にする。そんな彼からアレットはしなだれ掛かっていた体を起こす。王太子じゃないと分かってどうしようか悩んでいるのだろうか。不安げにジェラールとジェラルドを視線が行ったり来たりしている。
「大体、この私が貴様のスペアだと、そんなことあるはずがない」
「スペア、スペアですか。うーん、兄上、きちんと人の話を聞いていました? 恐らく教師も父上もそうは言っていなかったと思いますよ」
「当然だろう! 私は王になるために生まれたのだから!!」
スペアであるという役割ですらないという意味で言ったのだが、それはジェラルドには通じなかったようだ。そういうことではないとジェラールもシュゼットと頭が痛いとばかりに額を押さえる。
「本当なら本日、兄上には名前だけが与えられる予定だったのだけど、これは無理だな」
聞き取れないくらい小さな声でそう言うとジェラールは一度目を伏せ、気持ちを切り替える。
再度目を上げたとき、その目はジェラルドを兄と、血の繋がった家族と見ていなかった。
「すでに十分な醜態ではあるけど、これ以上は流石に厳しいものがあるね」
先程までの柔らかな丁寧な口調から一転、素の口調となったジェラール。
「早々に退場をしていただこう。ああ、勿論、貴女も。アレット・サルドゥ男爵令嬢」
「何を勝手なことをほざいている! 退場するのは貴様らだろう!」
「なんで、あたしも追い出されないといけないのよ!」
退場を命じるもジェラルドとアレットは納得できないとばかりにぎゃあぎゃあ騒ぎ立てる。大人しく出ていけばいいものをと思うが口にはせず、手を振り、会場内の騎士達に連れていけと指示を出す。
「問題を起こしたから退場させられる。当然のことだろう。それに王太子の婚約者であろうとなかろうと公爵令嬢に対して冤罪を吹っ掛けたんだし、それ相応のことがあって然るべきだとなぜわからない」
騎士達に掴まれ、運び出される二人はジェラールの言葉が聞こえないほど喚き立てていた。けれど、ジェラールも聞こえていないだろうと理解している。
「さて、卒園の皆様、大変見苦しいものを見せてしまい、申し訳ない。このあと、気にせず楽しんでくれというのは簡単だが、本日はこれにて締めさせてもらう。後日、王家主催でパーティを開催するのでそこで今回のことを忘れ、心ゆくまで楽しんでもらいたい」
「本当に申し訳ございませんでした。後程、詳細を書いた手紙をお送りしますのでご家族皆様でご確認いただければと存じます」
今回のことへの謝罪とこの後のことについて頭を下げた二人に皆、了承をした。優秀とはいえ平民も所属する学園では卒園式もその後のパーティも非常に細やかなもの。それが今回のことで王家主催のパーティに代わったのだ。並ぶ料理、会場に夢を馳せてしまうのも仕方がない。
「ジェラール様」
「わかっている。一応、個人資産の方から彼彼女らには詫びとして衣装も王家より提供しておこう」
「今回の一端を担わされましたので、私も出します」
「そう?」
「私もそれなりに持ってますのよ」
「あぁ、知ってる」
こそりとジェラールとシュゼットの間でそんな会話がなされる。そして、改めて皆に今回のことを詫び、会場を後にした。
王宮の一室。国王夫妻に王太子とその婚約者、宰相、バルテレミー公爵、サルドゥ男爵と件の二人が一同に会していた。
サルドゥ男爵は呼び出された理由が理由なだけあって、豪勢な椅子に小さく縮こまっている。そんな中、件の二人には椅子は与えられていない。
「さて、よくもまぁ、やらかしてくれたものだ」
低く重い声が部屋に響く。
「違うのです、父上」
ジェラールの奴が自分が王太子などと嘯くからと王の膝元に縋り付く。けれど、王は大きな溜息を吐くだけ。同意してくれない。
「立太子したのはジェラールだ。立太子の儀があったであろう」
「貴方、ジェラルドは風邪で欠席しておりますわ」
「そうだったか。まあ、そうであろうとなかろうと後に儂も授業でもお前の役割を教えていたはずなのだがな」
何故、それがあってここに至ったのかが不思議でならないと王も王妃も頭を振る。
「な、なんで、私が、弟のスペアになんか、ならねばならんのですか」
「……ジェラール」
「俺はちゃんと言いましたよ。スペアではないと」
私は第一王子ですというジェラルドに王は助けを求めるようにジェラールの名を呼ぶが、彼は苦笑い。
「陛下、発言をよろしいでしょうか」
「かまわぬ」
「ジェラルド殿下、貴方は先程から『第一王子』と拘っておりますが、ジェラール殿下もまた『第一王子』ですぞ」
「は? なんで、どういうことだ?」
「殿下方は妃殿下がお産みになった双子でございます。似てはおりませんが」
宰相の言葉に驚愕。目を見開き、ジェラルドはジェラールを見る。
「同年に俺がいるのを不思議に思っていただきたかった」
「側室の子では――」
「儂に側室などおらん。王妃、ただ一人だ」
存在のないものを作り上げていた息子の頭に王は怒りがこみ上げてくる。十何年と生きてきた中で見たことも聞いたこともないものを作り上げていたなどとは王妃からしても頭が痛い。
「王家で生まれた双子は隔てられて育てられる。けれど、双子であることなどは其々にきちんと伝えられている。そう、そのはずだったんだがなぁ」
「俺はちゃんと聞きましたし、実際に遠くから兄上を覗き見ることもございました」
「ジェラールとジェラルドの教師は同じだったよな」
「はい、間違いないかと。先生も何度となく兄上には説明したそうですが……」
結果はこの通りですとちらりとジェラルドを一瞥する。
「授業でも陛下からもあったこととは思いますが、王家の双子は片方は王子としてもう片方はその王子の身代わりです。つまりジェラルド殿下はジェラール殿下に向く善意は勿論悪意などを成人を迎えるまでに受けるのが貴方に課せられた役目だったのです。そして、本日の卒園を以ちまして、ジェラルド殿下には新たな名が与えられ、公爵の地位が確定しておりました。えぇ、確定しておりましたとも」
宰相はまさか本人にぶち壊されるとは思っておりませんでしたがなと皮肉を交える。そんな真実を知り、ジェラルドは呆然となっている。今まで、何度となく説明を受けているはずなのにここまでショックを受けるとはどういうことなのかと王も王妃も頭を抱えた。
「して、陛下よ、ジェラルド殿下のことは後々で構わんが、サルドゥ男爵令嬢はどうする」
「あぁ、そうであったな、男爵」
「は、はひぃ」
「そう怯えてくれるな。其方はどう考えておる」
「わ、私めは娘は修道院に向かわせようと思っております」
「お父様!?」
男爵の言葉にアレットはココで初めて声を上げる。その目にはなんで、どうしてという思いがこもっていた。
「お前は王太子にご迷惑をかけただけではなく、公爵令嬢に冤罪を吹っ掛けたのだ」
当然のことだろうと男爵は娘に告げる。このことは妻ともよく話し合っているとも続けた。
「ふむ、まぁ、実行者がジェラルド殿下であると考えれば、妥当か。どうだ、公爵」
「そうだな、早々に支度をして連れて行ってもらいたいところだな。そして、その生が尽きるまでジェラール殿下と娘の前に現れないでいただきたい」
「か、かしこまりました。すぐにでも」
「なんで、なんでよ、お父様!」
「いいから行くぞ」
ちょっと、痛い、なんで、という声が外に出てからも響いていた。けれど、男爵はそんな娘の言葉に耳を傾けることなく、騎士達に案内され、王宮を後にし、その足で彼女を修道院へと送り届けた。勿論、そこは王家や公爵家の息のかかったところ。常にアレットを監視する人は十分にいた。以後、彼女は死する時までその修道院から出ることは叶わなかった。余談。
残ったジェラルドは名を改めて、去勢された後、隣国の女王の後夫として、渡っていった。女王には既に先夫との間に跡継ぎたる男児も女児もおり、彼との子は望まれなかった。ただただ、女王の後ろに控える美しい夫としてだけ望まれたのだ。その彼が幸せだったかを知るものは彼の祖国にはいない。
「あ、義姉上、おはようございます!」
「ええ、おはよう。オディロンは今日も元気ね」
「はい、唯一の取り柄と言っても過言ではありません!」
件が片付き、シュゼットとジェラールは婚姻を結び晴れて夫婦となった。そんな穏やかな日々の中、シュゼットは第三王子であるオディロンと語り合う。
「僕がもう少し早く生まれられてればなぁ」
「俺の妻を奪うつもりなら、容赦はしないぞ」
「うわぁ、兄上。そんなつもりはないですよ。まぁ、かの人が婚約者であったなら考えなくもないですけど」
既にこの国にはいない兄に対してそう告げるオディロンにまぁそれはしょうがないとジェラールも同意する。
「それにですよ、僕は兄上と一緒にいて輝いている義姉上が好きなんです! つまり、兄上がいないとダメなんです!」
きりっと言い切ったオディロンにシュゼットは頬を染め、ジェラールはぽかんとした。そこから、オディロンは如何にシュゼットが兄であるジェラールの話や傍に居るときに輝いているか力説し始めるから、シュゼットとしたら堪らない。
「待って、待ってオディロン。恥ずかしくて私死んでしまうわ」
「まさか、弟からそんな話が聞けるとは思わなかったな。他にはないのかい?」
「ちょ、ジェラール様!!」
クツクツと笑いながら、そう尋ねるジェラールにシュゼットはダメです、なりませんと腕にしがみついて阻止しようとする。そんな二人の攻防にオディロンはそういうところです義姉上とニコニコしていた。
後にジェラールが王位を賜り、王となるとオディロンは早々に打診をしていた公爵家へ養子入りし、生涯をかけてジェラールとシュゼットに忠誠を誓う。そして、退位した王たちは隣国の近くにある別荘へと身を移し、最後の時までそこにいた。
「兄上、父上も母上も、オディロンもいなくなると寂しくなるな」
「ふふ、そうですね。でも、もう少ししたらそんな寂しさも紛れるかもしれませんわ」
「……まさか」
「えぇ」
「本当に!?」
「先日、医師の方に診ていただいたの」
王宮では新たな命の息吹が生まれた。そして、ジェラールは良き王、良き夫、良き父としてその生涯を終え、その彼に寄り添うようにして妻であり王妃となったシュゼットもその生涯を終えた。
――かの王の功績として一番大きなものは双子を正しく認めたという点であろう。かの王以降、王家に生まれた双子はそれぞれの個性を伸ばし、切磋琢磨し、どちらかの身代わりになることもなく、それぞれの道を進んだという。王家の悪しき風習はその当事者たる双子の片割れによって幕を下ろすこととなった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
パッと思い浮かんで、パッと書き上げたので、おかしなところもあるかもしれませんが、ご容赦くださいませ。
一応タグにも入れたけど、ざまぁというほどざまぁではないかもしれない。だけど、全体的に書いてて楽しかったです。
少しでも皆様に楽しんでいただけたのならば、幸いです。
6/28 追記
小話程度に
本作の主人公たちのお名前はフランス語からとってきました。
ジェラルド(Gérald)とジェラール(Gérard)は感想での推察通り、LとRが違うだけです。
ややこしい。
えぇ、作者もややこしいと思っておりますとも。けれど、何故このように似た名前をわざわざつけた理由は『身代わり』ということが一番大きなものかと思います。どちらかわからなくするというのがこの王家の狙いでいた。第一王子と両方を定めていたのも同様の理由ですね。きちんとした貴族の方々はちゃんと把握してます。把握しているけれど、突発的に出てくるとわからなくて、あぁ、ジェラルド王子ねと間違ったことを言ったり、第一王子ねと言って名前を避けたりして、それが広まっていく。それは悪評も善評も同様です。そうして、本来の王太子であるジェラールの身を守らせたのです。
『身代わり』じゃなく『スペア』でもよかったんじゃないか。
そうですね、それでもよかったのでしょう。彼がきちんと自分の身を理解できていたのならば。けれど、少年期まで様子をみて、宰相や主要閣僚の方々にダメ判定を押されました。姑息な大人たちに煽てられいい気になってしまったためです。自分があたかも王太子であるかのように振る舞う彼はとてもいい避雷針になったのです。そうなってしまうと何かあった時に困ったことになるなと、第三王子であるオディロンに『スペア』としての白羽の矢が立ったのです。
それでも両親たちは役目を終えた後彼のことを想い、『名前』と『公爵位』を用意してました。話の中でも宰相が言ってましたがそれは綺麗にぶち壊されました。『名前』だけはもう第一王子とは別の人間であるという意味合いも込めて与えられました。
けれど、もし、なんの問題も起こさず公爵になっていれば、違う生活が待っていたでしょう。もしかしたら、妻子も得ていたかもしれませんね。
ちなみに隣国は女王の国であり、跡継ぎは娘。息子は公爵家に跡継ぎとして迎え入れられます。作中では女児、男児と表記してますが、彼らはすでに成人済みでジェラルドたちよりも年上になります。そう、女王のお年もいいところ。王配である夫が亡くなってそれなりの年月が経っているというのに狙ったかのようにジェラルドを夫として迎え入れました。理由っぽいのは下に書きましたが、苦手な方は回れ右でお願いします。
さて、あらすじのところにも書かせていただきましたが、皆様のおかげで四月三十日付恋愛ジャンル部門の日間にて六位まで昇らさせていただきました。どんどん順位が上がっていくことにドキドキしっ放しでした。けれど、その分、たくさんの方々に読んでいただいているという事実に喜んでもおりました。ブクマや評価、はたまた感想までいただき、本当にありがとうございます!ここで終わってしまわないよう精進していきたいと思います。多謝。
挨拶もほどほどに終わらせたのですが、最後に少しだけとある国の姉弟の会話を置いておきます。ほんのりBLな内容になりますので、苦手な方、お嫌いな方はそっとページバッグかサッとスクロールでお願いいたします。
とある国の姉弟の会話
「お義父様は憐れね。飾りとして買われ、玩具として扱われるなんて」
「憐れだなんて、そんなことないだろ。玩具扱いはしてないし。あぁ、でも、僕のために買ってくれたのは間違いじゃないか」
「はぁ、お母様はお前に甘すぎるのよ」
「甘いってことはないよ。結局のところ、母上が亡くなるまで彼を手に入れることができないんだからさ」
「あら、それはおかしいわね。度々、お義父様の部屋に出入りしてるお前が目撃されてるというのに」
「それはそれ、立場上は仲良くしておかないと。まぁ、今のうちに躾をきちんとしておかないととは思ってるけど」
「あぁ、本当に憐れだわ。こんな男に一目惚れされてしまうなんて」
「ははは、嫌だな姉上。僕だって彼がかの国に居たままなら手を出さなかったさ。でも、勝手に堕ちてきたんだ、しょうがないよね」
「カワイソウ」
「心にもないくせに」
「あら、少しは思ってるわよ。一応、年下であろうと義父だもの。お前にすぐ壊されてしまうのじゃないかって」
「失礼だなぁ。ちゃんと壊さないように練習はしてるよ」
「いっそ、壊れられた方が救いだったかもしれないわね」
「はは、それはどうだろうね。まぁ、どちらにしても囲うのは間違いないかな。やっと、手に入れられるのだから」