80.光の降る場所
シェリーが新婦の控室に入り、少しすると教会の鐘が鳴った。
厳かなパイプオルガンの音色が響いている。控室のドアが開けられ、カルロスがシェリーに微笑みかけた。
「お父様……」
「きれいだよ、シェリー」
カルロスの腕に手をかけ、シェリーはバージンロードを静かに歩いて行った。
シェリーはベール越しに見える祭壇に向かって、静かに歩を進める。
祭壇の前には、アシュトンが待っている。シェリーはアシュトンの前で立ち止まり、カルロスから手を放す。アシュトンに手を引かれるシェリーの目からは、涙がぽろぽろと落ちていた。
神父の言葉を聞き、神の前で祈る様に誓いの言葉を交わし、結婚指輪を交換する。
ステンドグラスから零れた光は、二人の周囲を七色に染めていた。
アシュトンがシェリーのベールを慎重に持ち上げる。
二人の目が互いを優しく見つめあう。
「誓いの口づけを」
神父の宣言に促され、二人の唇がそっと重ねられた。互いの体温を感じ、はにかむように二人は微笑んだ。
神父の言葉が終わり、二人はバージンロードを教会の出口に向かって歩き出した。
厳粛な雰囲気の中、パイプオルガンの音は二人を祝福するように優しく響いている。
教会を出ると、挙式に立ち会ってくれたみんなが、花びらを手に二人を祝福した。
フラワーシャワーを浴びながら、白い花で飾られた馬車に乗る。
「みんな、ありがとう」
教会を出た二人は、披露宴が行われるホワイト家へと向かう。
馬車の中から見上げた鉛色の空からは、雨が落ちてきた。
「なんてことなのかしら! こんなに素敵な日に雨が降るなんて……!」
悲しそうな表情を浮かべたシェリーに、アシュトンは言った。
「そんな顔をしないでください、シェリー様……」
アシュトンの指がシェリーの頬を優しくなでる。
「アシュトン様……。もう、私のことはシェリーと呼んでください」
「……はい……シェリー、雨は恵みをもたらすものでしょう? きっとそんなに悪いものじゃありませんよ。私のことも、アシュトンと呼んでください、シェリー」
「……アシュトン、そうね」
シェリーの頬がばら色に染まった。
ホワイト家に着き、馬車を降りると地面は濡れていたが、雨は上がっていた。
「シェリー、空を見てください」
「まあ!」
沈んだ灰色の雲が風に流れ、青く切り取られた空には、大きな虹が鮮やかにきらめいていた。
「確かに、雨も悪いものではありませんね」
シェリーがアシュトンに微笑みかけると、アシュトンは頷いてシェリーの手にくちづけをして言った。
「雨が降っても、きっとこんな風に虹が輝くでしょう」
「そうね、きっと、これからも」
二人は手をつないで、華やかに飾られたホワイト家の中に入って行った。




