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辺境伯令嬢の私に、君のためなら死ねると言った魔法騎士様は婚約破棄をしたいそうです  作者: 茜カナコ


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79.結婚式

「さあさあ、皆、もたもたしている暇はないわよ。持っていくものは揃ってる? シェリー、髪を綺麗にとかしましょうね。それが終わったら、ドレスに着替えて髪を結いましょう!」

 せわしないグレイスの言葉に、シェリーも気が焦る。


「お母さま、そんなにいろいろ言わないで。私だって……」

「あら、シェリー、ごめんなさいね。私ったらつい」

 微笑むグレイスを横目に、シェリーは緊張でこわばった体で深呼吸をした。


 窓から見える空は、雲の流れるスピードが速い。

「なにをぼんやりしているの? シェリー、さあ、前を向いて」

「はい、お母さま」


 少し朝食を食べ過ぎただろうか、とシェリーは思った。グレイスの「お昼は忙しくてまともに食べられないと思うわ。だから、朝はしっかり食べましょうね」という言葉で、シェリーはいつもよりスープもパンも多めに食べていた。ドレスがきつくなっていたらどうしよう、とシェリーは後から不安になった。


 バリーの連れてきた職人が、丁寧にシェリーの髪を梳き、ドレスに着替えてさせてから、髪を結い上げる。髪は何か所か真珠のついたピンで留められた。化粧が施され、今まで見たことがないような美しい顔が鏡の中で静かに微笑んでいる。


 中腰で作業していた職人が立ち上がり、シェリーとグレイスに尋ねた。

「完成です。お気になる場所はございますか?」

「……とても素敵」

 シェリーは鏡を見つめ、うっとりとしている。


「さあ、シェリー。完成ね。後は、お化粧とドレスが崩れないように気を付けて」

「はい、お母さま」

 シェリーはふと気になってグレイスに尋ねた。

「アシュトン様と食事以降お会いしていないのですけれども……」


「アシュトン様は向こうの部屋で準備をしていますよ。用意が終わったら、先に教会に向かってもらう予定です」

「分かりました」

 シェリーはアシュトンの正装を見られるのは少し先だと知って、残念に思った。


 シェリーがカルロス達と馬車に乗り、教会の前に着くと、アシュトンが誰かと話していた。


「アシュトン様のお知り合いかしら? でも、なにか様子が変だわ……?」

 馬車を降り、アシュトンに近づくと、話の内容が聞こえてきた。

「お金持ちを見つけて、とりいるのが上手いね、シェリー嬢は」

「何のことでしょう?」


 アシュトンは笑みを絶やさず、辛抱強く、カップルの話を聞いている。

 シェリーはアシュトンの話し相手を見て驚いた。

「アルバート様! スノー様! 一体何があったのですか!?」

「ああ、シェリー嬢。おまねきありがとう」


 アルバートは口の端をゆがめた笑顔でシェリーに言った。

「お金持ちと結婚したことを自慢したかったのかい? こんな大きな教会で式を挙げるのは大層気分が良いだろうね」

 シェリーがなんと返せばいいか分からず困っていると、アシュトンが言った。

「シェリー様は強い心も美しさも持っている素敵な方です。そんな素敵な女性と結婚できる私は果報者です」


 スノーが唇をかみしめて俯いた。アルバートの服の袖を引っ張って小さな声で言う。

「ねえ、もう行きましょう」

「……せいぜいお幸せに」

 アルバート夫妻は不機嫌そうに立ち去った。


「なんだったのでしょう? アシュトン様、大丈夫でしたか?」

「ええ、あのお二人は幸せじゃないのかなあ?」

「え?」

「だって、こんな時にあんなことを言うなんて。満たされている人はしないでしょう?」

「そうですね」


 シェリーはアシュトンの言葉を聞いてアルバートの今を思い、少し気分がふさいだが、自業自得だと思いなおした。


「シェリー様、何を考えているのですか?」

「え?」

「暗い顔をされたから」

「なんでもありません」


 シェリーはにっこりと笑ってアシュトンを見つめた。

「今は私のことだけを考えてほしいだなんて言ったら、貴方はあきれてしまうでしょうね」

「……嫉妬なさっているの?」

「……少し」

 シェリーは破顔した。アシュトンが嫉妬するなんて、考えたこともなかった。


「シェリー、アシュトン様、そろそろ教会の控室に行く時間ではないかね?」

「ああ、いけない。もうそんな時間だったのね」

「急ぎましょう」

 

 シェリーとアシュトンはそれぞれの控室に、足早に向かって行った。



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