78.夕食
夕食の時間になると、皆は食堂に集まり席に着いた。
食前の祈りが終わると、カルロスが口を開いた。
「明日からは皆、家族ですね」
「ええ」
「よろしくお願いします」
カルロスの言葉にクラーク家の人々もホワイト家の人々も笑顔で頷いた。
「アシュトンは結婚の日が近づくほど落ち着きがないというか、様子がおかしくなってしまって」
シリル子爵の唇が笑いをこらえるように、いびつな弧を描いている。
「父上、そんなことはありませんよ」
アシュトンが、口の右側だけ上げてぎこちなく微笑んだ。
「いや、確かにお前は変だった。紅茶に砂糖を5杯も入れるし、急にニコニコしたと思ったら、次の瞬間には渋い顔をして何か考え込んで……」
「兄上まで。そんなこと、言わなくても良いでしょう」
アシュトンはうつむいて皿の上のウズラのローストをぎこちなく口に運んだ。
シェリーが少し笑って「私と同じですね」と言うと、アシュトンは顔を上げてシェリーに仕方ないよね?と言うように肩をすくめた。
「アシュトン様には、辺境伯の仕事を色々と覚えてもらわないといけない。結婚したら忙しくなるが、大丈夫ですか?」
カルロスの急な問いかけに、アシュトンはピンと姿勢を正し、緊張した面持ちで頷いた。
「全力を尽くします」
「仕事も大事だけど……早く孫にも会いたいわ」
グレイスの言葉に、アシュトンは姿勢を正したまま頷いた。
「全力を尽くします」
「お母様! アシュトン様も! もう!」
シェリーは赤面して両手で顔を隠した。
アシュトンはハッとし、顔を真っ赤にして「神のお召のままに」と付け加えた。
ディナーは穏やかな雰囲気で終わった。
「明日は早い。今日はもう寝たほうが良いだろう。アシュトン様、シェリー、おやすみ」
カルロスが二人に挨拶をする。
アシュトンとシェリーは食堂を一緒に出て、廊下を歩いた。
窓の外から見上げた空は、雲にさえぎられて暗かった。
不安げなシェリーの手を取り、アシュトンが囁いた。
「これからよろしくお願いします」
「ええ。こちらこそ。まずは明日の結婚式ですね」
「そうですね」
二人は見つめあった後、優しい笑みを浮かべた。
アシュトンとシェリーはそれぞれの部屋に戻るとベッドに入ったが、二人とも、なかなか寝付けなかった。
二人がようやく眠りに落ちたのは、もう日付が変わる頃だった。




