77.結婚式前日
結婚式を明日に控え、シェリーはソワソワしながら廊下を往復しては窓の外を眺めていた。
「お父様、アシュトン様たちはまだいらっしゃらないのかしら?」
「まだ早いだろう。シェリー、気持ちがはやるのは仕方がないが、お茶でも飲んで一息ついたらどうだい?」
「……そうしますわ」
シェリーはメイドに紅茶を持ってくるように頼むと部屋に戻った。
夕方になり、クラーク家の馬車が到着するとシェリーは玄関に駆け付けた。
「お待ちしておりました、クラーク子爵。ご家族もようこそいらっしゃいました」
挨拶するカルロスの後ろで、シェリーも微笑んだ。グレイスもにこにことしてカルロスと並んでいる。
「ありがとうございます。お言葉に甘えて一家でまいりました。よろしくお願いいたします」
シリルがカルロスに挨拶をし、長男とその妻を紹介した。
「ブラッドとアボットです」
「初めまして。カルロス・ホワイトです」
カルロスは右手をブラッドに差し出した。
「初めまして。立派な方だとお噂はうかがっております」
ブラッドは差し出された手をしっかりと握りしめた。顔を上げたブラッドと、奥にいるシェリーの目が合った。
「やあ、シェリー様。お久しぶりです」
ブラッドがシェリーにお辞儀をした。
「お元気そうでなによりです。これからよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。弟をどうぞよろしくお願いします」
シェリーがお辞儀をするとブラッドは軽くお辞儀をしてから、シリルの後ろに下がった。
「アシュトン様。これからよろしくお願いします」
カルロスがアシュトンに歩み寄った。アシュトンは差し出された手をにぎり、やや緊張した面持ちでぎこちなく微笑んだ。
「ホワイト辺境伯、どうぞよろしくお願いいたします」
アシュトンは手を離すと深く頭を下げた。
「そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ」
カルロスは微笑み、アシュトンの腕を優しく叩いた。視線を上げたアシュトンの頬はわずかだが紅潮している。カルロスの後ろから、シェリーは覗き込むようにアシュトンを見た。
アシュトンはシェリーを見ると、破顔した。シェリーはアシュトンの腕の中に飛び込みたい衝動にかられたが、最大限の理性でもって、代わりに自分の体を抱きしめるように腕を組み、微笑むにとどめた。
「荷物を運んでもよろしいでしょうか?」
シリルの連れてきた執事がシリルに尋ねる。シリルがカルロスを見ると、カルロスは微笑んだまま頷いて、召使に「お客様の荷物を頼む」と言った。
召使が扉を開くと、雨の降る音が聞こえてきた。
「降り出しましたね」
シリルは渋い顔をして、空を見つめた。
「明日には雨も上がるでしょう」
カルロスは気軽く言った。
「さあ、どうぞ中へお入りください。お疲れでしょう」
「失礼いたします」
シリルたちは順番にカルロスとグレイス、シェリーに会釈をした。一行はカルロスの案内で広間に進んだ。全員が広間に集まると、シリルがシェリーに声をかけた。
「シェリー様、アシュトンをよろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
召使がカルロスに告げた。
「お荷物をお部屋に運びました」
「ご苦労。ありがとう」
カルロスは視線を召使からシリルに移すと、一言言った。
「それでは執事が、皆様を順にお部屋にご案内いたします」
カルロスは召使を執事を呼び、シリルたちを部屋に連れていくよう指示した。
シェリーがアシュトンに目をやると、アシュトンと視線が合った。二人は一瞬戸惑った後、頬を染め微笑みあった。




