75.準備開始
翌日、朝食を終えたクラーク家は、午前中にホワイト家を後にすることにした。
「大変お世話になりました。これから、よろしくお願いいたします」
「シリル子爵、こちらこそよろしくお願いいたします。次に会うのは結婚式の前日になりますかね」
「そうですね」
カルロスとシリルが馬車の前で別れの挨拶をしている。
「シェリー様、これから忙しくなると思いますが、無理はなさらないでくださいね」
「ええ、気を付けます。結婚式が楽しみですね」
アシュトンはシェリーの頬を優しくなでると、少し寂しそうに微笑んだ。
クラーク家がいなくなった屋敷は、以前より静かに感じられた。
「はやく、アシュトン様と一緒に過ごしたいわ」
「その前に、やることがたくさんあるわよ? シェリー」
グレイスがシェリーの肩を軽くたたいた。
「結婚式で使うサムシング・ボローだとか、サムシング・ブルーだとか……いろいろと集めないといけないし。でも、それより大変なのが招待状ね。クラーク家の招待客とうちの招待客が我が家に入り切るかしら? 教会の予約やドレスやフロックコートの試着もしなくてはいけないし……」
「お母様、結婚式に間に合うかしら?」
「間に合わせるのよ」
シェリーは、母グレイスの指示に従って結婚式の準備にとりかかった。
「シェリー、貴方が呼びたい人もリストアップしてね」
「はい、お母さま。……王家の方々も招待状は送らなければいけないかしら? あ、あと……あの不愉快な人にも……立場的には送らざるを得ないかしら」
シェリーはため息をついてから、招待客リストに一組書き足した。
アシュトンの礼服はバリーがクラーク家に運び、試着をすることになった。
一足先に、バリーはホワイト家にシェリーのドレスを持って現れた。
シェリーは試着したドレスの美しさにため息をついた。
「アシュトン様も気に入ってくださるかしら?」
グレイスとシェリーはバリーにドレスの仕上げを頼み、ドレスに合うネックレスやイヤリングを宝石商に頼んだ。
結婚式当日は、教会で式を挙げた後、ホワイト家を解放して立食パーティーを行う予定になっている。中庭と大広間、応接室、それぞれにご馳走を用意して、楽団を呼ぶ予定だ。
「結婚式って、ずいぶん手間とお金がかかるのね…」
シェリーのため息を聞いて、グレイスが笑った。
「一生に一度のことだもの。気にしなくて大丈夫よ」
そして、結婚式の一週間前。
街には大雨が降っていた。
「なんてことかしら……。結婚式は大丈夫かしら?」
結婚式に向けてピカピカに磨かれた家の中で、シェリーは不安そうに窓から外の様子を見つめていた。




