63.王宮への手紙
早朝、カルロスは自室で王への手紙を書いていた。
『トラモンタ国のクラーク子爵の息子、アシュトン殿を我が家の一員として迎え入れたいと考えております。この縁組が、スオロ国とトラモンタ国の友好を深める機会の一つとなれば幸いと存じます』
カルロスは何度か文章を声に出し、内容を確認すると封筒に入れ蝋を垂らし、蝋印を押した。
「さあ、これで良いだろう」
カルロスが一息つき時計を見ると、朝食の時間になっていた。
食堂では、すでにグレイスとシェリーが席についていた。家族で食事をとっているとシェリーが口を開いた。
「お父様、今日は表情が険しいようですけれども……何かありましたか?」
シェリーの問いかけに、カルロスは驚いた様子で顔を上げた。
「シェリー、そんな顔をしていたか? そうだな、少し緊張しているかもしれないな。……今日は王宮に行って、アシュトン様を婿養子として我が家に迎えたいと王に報告しようと思っている。王への手紙は書き終わっている。きっと良い返事がもらえるだろう」
カルロスはにっこりと微笑んでシェリーを見つめた。
食事を終え、カルロスは外出の準備を始めた。
「それでは、行ってくる」
「貴方、気を付けてくださいね」
「ああ」
カルロスは馬車に乗り、王宮を目指した。
シェリーは落ち着かない気持ちでカルロスの乗った馬車を見送った。
「シェリー、昨日言っていたドレスを出しましょうか? あなたがソワソワしていても、なにも変わりませんよ?」
グレイスがシェリーに声をかけた。
「お母様……そうですわね。私が気をもんでも仕方ないですわね」
シェリーはグレイスの方を向き、笑った。
「昨日、紺色のドレスとおっしゃっていたかしら?」
「ええ。出してあげましょうね」
グレイスはメイドに指示して、グレイスが婚約のときに着た古い紺色のドレスを衣裳部屋の奥から持ってくるように言った。
「奥様、お持ちいたしました」
メイドが持ってきたドレスは、夜を思わせる紺色のドレスで、植物を思わせる刺繍が美しかった。
「まあ、素敵なドレス」
シェリーが感嘆の声を上げると、グレイスは苦笑した。
「私の母が、私の婚約の時に作ってくださったのよ。綺麗だけれど、今見ると時代遅れになってしまいましたね」
「そんなことありません」
シェリーが言うと、グレイスは首を横に振った。
「婚約に間に合うように、貴方にも新しいドレスを作りましょう」
シェリーは言った。
「このドレスを仕立て直せば十分です、お母様」
「いいえ、人生に一度のことですもの。やっぱり新しいドレスを作りましょう? そうね、朝焼けのような赤い色はどうかしら? あなたに似合うと思うわ、シェリー」
グレイスは執事に、ドレス職人を呼ぶよう手配を頼んだ。
シェリーは忙しくなっていく家の様子を見て、握った手を胸に当てた。
「私、本当に……結婚するのですね」




