62.夜食
食堂に着くとすでに父と母は席に座っていた。
「今日は素晴らしい式だったな」
父のカルロスがシェリーに声をかける。
「ええ、とても素敵でした」
シェリーの椅子を召使が引き、シェリーはそこに腰かけた。
「ジル様もメイリーン様も幸せそうでしたね」
母のグレイスが言う。シェリーもそれを聞いて微笑む。
「さあ、今度はシェリーとアシュトン様の結婚式に向けて、色々と準備を始めないといけないな」
カルロスの手元のグラスにワインが注がれた。
「そうですね。まずは正式な婚約の手続きをして、王家にも結婚をすることを報告しなくては」
グレイスはカルロスと視線を交わした後、シェリーを見つめた。
「私は何をすれば良いのかしら?」
シェリーはグレイスとカルロスを交互に見た。
「婚約の手続きが終わったら、結婚式の準備をすればいい。誰を結婚式に呼ぶのか、グレイスと相談して選んだり、ドレスを選んだり、式場を選んだり、式では何をするかを決めたり……やることはいろいろありそうだな」
カルロスはそう言うとワインを飲んだ。
テーブルにチキンスープとパンが運ばれてきた。
シェリーはスープを一口飲み、息をついた。
「メイリーン様が、今日つけていたベールを貸してくださると言っていました」
「そうか。どうするんだ? シェリー?」
カルロスの問いかけにシェリーはあいまいな笑みで答えた。
「どうって……ほかにあてもありませんから、お借りしようと思います」
「そうなの? 嫌なら他のお友達に借りてもいいのではないかしら?」
「ジル様はアシュトン様の古いお友達でもあるし、メイリーン様の申し出を無視することはできませんもの」
シェリーは少し困ったような顔で笑った。
「まあ、その前にアシュトン様と正式に婚約し、婿入りの書類を書いていただかなくてはな」
カルロスもスープを口に運びながら、確認するように声に出した。
「婚約の手続きはいつにしますか?」
グレイスがカルロスに尋ねる。
「王へシェリーが結婚するであろうことを報告し、許しが出てからになるだろう。ひと月あれば、婚約の日取りが決められるのではないかな」
グレイスは頷きながらカルロスの話を聞いている。
「お母様。婚約の時、ドレスは何を着ればよいかしら?」
「そうですね……。私の紺色のドレスを仕立て直しましょうか? 私がお父様の家にご挨拶に行った時のドレスがありますから」
「それは素敵ですわ。色あせていないと良いのですけれど」
「明日、シェリーに似合いそうか見てみましょう」
「はい、お母さま」
一通り明日の予定を立てると、カルロスとグレイスは今日の式のすばらしさをたたえながらワインを口に運んだ。
シェリーはスープとパンを食べ終え、食後の紅茶を飲むと両親に言った。
「私はそろそろ寝ます。お父様、お母様、お先に失礼いたします」
「ああ」
「お休みなさい、シェリー」
シェリーは部屋に戻りベッドに入ると、目を閉じて考えた。
「お母さまのドレス、私に似合うかしら?」
じきに眠気が襲ってきた。
「……アシュトン様と、私の結婚式……どうなるのかしら……」
シェリーは抗うことなくまどろみに身を任せた。




