59.結婚パーティー3
シェリーが広間の隅で休んでいると、近づいてくる人影に気づいた。
「シェリー様、お疲れですか?」
「まあ! ジル様! 主役がこんなところで何をしているのですか?」
ジルはシェリーに冷えたカクテルを渡し、空いたグラスを受け取ると近くのテーブルに置いてきた。
「衣装を着替えて戻ろうとしたらシェリー様がいるのに気が付いたので、声をかけてみたのですが。迷惑でしたか?」
「いいえ。でも、メイリーン様が嫌がるのではないかしら?」
「何もやましいことはありませんから、大丈夫です」
ジルはそう言って、手にしていたシャンパンを口にした。
「シェリー様がアシュトンと仲良くなっていたとは気づきませんでした。おどろきました。あの、他人が苦手なアシュトンが、こんなに早く恋に落ちるとは思いませんでした」
ジルはシェリーの目をちらりと覗いた。
「まあ、そうですわね。私も……意外でした」
シェリーは冷えたカクテルを一口で飲み干して、席を立とうとした。
「シェリー様、アシュトンは良い奴です。そのことを私は誰よりも知っているだけに……祝福せざるを得ません」
ジルは優しい笑顔でシェリーに囁いた。
「どうか、お幸せに」
「それは私のセリフですわ。ジル様ったら」
シェリーとジルが見つめあったまま微笑んでいると、広間の反対側から女性の声が聞こえた。
「ジル様! そんなところで何をなさっているの! 誰のものにもならないって言っていたのは嘘だったのですね!」
「私たちのことを、どう考えていらっしゃったのかしら!」
「さあ! 言い訳ならいくらでも聞きますわ!」
女性たちの笑い声と、すこし意地の悪い言葉で呼ばれたジルは、シェリーに軽くお辞儀をしてシェリーのもとを去った。
シェリーは座ったまま、女性に取り囲まれ苦笑しているジルを眺めていた。
「本当に、人騒がせな方」
シェリーは一人つぶやくと、空になったグラスをテーブルに置き、アシュトンたちがいる中庭に戻っていった。
アシュトンは中庭の隅で、にぎやかな人々を眺めていた。
「アシュトン様、戻りました」
「ああ、シェリー様。大丈夫ですか?」
「ええ。途中でジル様に会いました。たくさんの女性に詰め寄られていました」
ああ、とアシュトンはため息をついて、シェリーの目を見つめて真剣な顔で言った。
「ジルは……悪い奴じゃないんですよ?」
アシュトンは困ったような表情でシェリーに説明しようとしたが、上手い言葉が見つからないらしく、口をもごもごさせたあとに、もう一度言った。
「ジルは良い奴なんです」
「ええ、存じております」
シェリーは一生懸命なアシュトンを見て微笑ましく思った。
「ジル様は貴方の古くからのお友達ですし、私もジル様には助けて頂いたことがありますし。悪い人ではないはずですわ。ただ、女性にとっては危険な方かもしれませんが」
シェリーはそういうとアシュトンの目をちらりと見た。
アシュトンは、ほっとしたような柔らかな表情でシェリーの目を見つめ返した。




