５７．結婚パーティー
パーティーの会場はジルの屋敷だった。
「あら、私たち、移動するのが少し遅かったかしら？」
シェリーは父のカルロスに聞くと、カルロスは笑って答えた。
「そうかもしれないな。皆、ジル様とメイリーン様のお祝いをしたいのだろうね」
ホワイト家は並んだ馬車が途切れたところに馬車を止めた。
「さあ、気を付けておりなさい」
「ええ」
グレイスとシェリーは先に馬車を降りたカルロスに手を取ってもらい馬車を降りた。
建物の脇を歩き、ジルの家の門に近づく。門の中には少しエキゾチックな雰囲気の建物が立っていて、中庭が解放されている。
「ホワイト辺境伯！ 皆さま！ よくいらっしゃいました！ 息子の祝いの席に足を運んでいただいてありがとうございます！」
ジルの父母がカルロス達に挨拶をした。
「ジル様にはうちの娘が大変お世話になりました」
「いえ、あの……うちのジルがお嬢様にご迷惑をおかけしていなければよいのですが……」
ジルの父親はそういうとシェリーに手を差し出した。
「今日はよくいらっしゃいました、シェリー様」
「おまねきありがとうございます」
シェリー達の挨拶が終わると、ジルの両親は挨拶をして、また別のゲストのところへ歩いて行った。
「ジル様のご両親は落ち着いた方々なのね」
シェリーがカルロスに言った。
「シェリーは会ったことがなかったのかい？」
「ええ」
「あ、シェリー様！」
可愛らしい声がシェリーを呼んだ。
「まあ！ メイリーン様、それにジル様！ おめでとうございます」
「ありがとうございます」
メイリーンはジルの腕に腕を絡ませたまま、にっこりと笑った。
「おめでとうございます、ジル様、メイリーン様」
「ホワイト辺境伯！ 来てくださったんですね！」
「うちの娘がおせわになったようで」
「いいえ、シェリー様のおかげで結婚できたようなものですわ」
メイリーンはにこやかにカルロスに言うと、ジルの頬にキスをした。
「お二人とも、お似合いですわ」
シェリーが言うと、メイリーンは得意げに答えた。
「そうですよね」
メイリーンはジルに寄り添って、ジルの顔に自分の顔を近づけた。
「やあ、ジル、メイリーン様、おめでとう」
「アシュトン！」
シェリーの後方から、アシュトンの声がした。
「ずいぶんたくさんの人が来ているね。人酔いしてしまいそうだ。君たちを祝いたい人がこんなにいるなんて、素敵じゃないか」
「ああ、ありがたいね」
ジルはそう言った後、シェリーとアシュトンを見比べた。アシュトンとシェリーがおそろいの色のハンカチやネックレスをしているのに気づいたジルは、なにかを悟ったような顔をした。
「君たちは……婚約したのかい？」
「いや、まだ正式にはしていない」
アシュトンが言うと、ジルは複雑そうな表情で微笑んだ。
「まあ！ アシュトン様とシェリー様も結婚するの！？ おめでとう！」
メイリーンが目を見開いて、驚いている。
「ありがとう。すぐに正式に婚約する予定なの」
シェリーはメイリーンに答えた後、アシュトンの表情を見た。
アシュトンは照れくさそうに口に手を当てて微笑んでいる。
「それじゃあ、結婚式の時に私のベールを貸してあげるわ！ サムシング・ボローが必要でしょう？ 幸せな既婚者から借りたベールが必要だって、私は知ってるわ！ 私達、貴方たちのお手本になるような幸せな家庭を築くから！」
メイリーンは上機嫌で言った。
「素敵な提案ありがとう、メイリーン様。その時はよろしくお願いします」
シェリーは苦笑しながら、メイリーンに頼んだ。
「あら？ あちらにもジル様とメイリーン様を待っている方たちがいるみたいですよ」
シェリーはメイリーンたちに手を振っている若者たちを見て、言った。
「まあ、大変。それじゃ、失礼します」
メイリーンはジルを引っ張る様に、早足で立ち去ろうとした。
ジルは最後にシェリーを見て、少し寂しそうに微笑んで言った。
「お幸せに」
「ええ。ジル様もお幸せに」
ジル達が立ち去ると、アシュトンが大きく息をついた。
「ジルもメイリーン様も幸せそうだね」
「ええ」
アシュトンがシェリーの肩に優しく手を乗せて、囁いた。
「飲み物をもってきましょうか？」
「ありがとうございます。お願いします」
カルロス達はその様子を見て、シェリーに言った。
「私たちは知り合いに挨拶に行ってくる。アシュトン様とパーティーを楽しみなさい」
「ありがとう、お父様」
シェリーは両親が大広間に歩いて行くのを見送った。
すぐにアシュトンが戻ってきた。両手にシャンパンを持っている。
「シェリー様、どうぞ」
「ありがとう」
アシュトンとシェリーはシャンパンを飲みながら、みんなから祝福されているジルとメイリーンを穏やかな気持ちで眺めていた。
