46.散歩
「こちらです」
「……まあ、素敵なお庭ですね」
中庭には季節の花々が咲いていて、葉の緑の中にきらめいている。
少し進むと、ローズガーデンがあった。
「ここは、春と秋にはバラが咲き乱れて、とても良い香りに包まれます。シェリー様にお見せする日が楽しみです」
「それは……素敵ですわね」
アシュトンはローズガーデンから離れ、木陰のベンチにシェリーを連れて行った。
「少し座りませんか?」
「ええ」
アシュトンはベンチの上をハンカチで軽く払い、シェリーに座るよう勧めた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
シェリーがベンチに座ったのを確認して、アシュトンも隣に座った。
「失礼いたします」
シェリーとアシュトンは夕暮れの赤色に染まっていく庭の様子を眺めた。
「今日は穏やかな一日でしたね」
「ええ」
ぽとり、となにかがシェリーの頭に落ちた。シェリーが手を頭に当てる前に、アシュトンがシェリーの頭から、何かをつまみ上げた。
「さるすべりの花です。ほら」
アシュトンがちいさな花を乗せた右手をシェリーの前に突き出した。
「まあ、濃いピンクでかわいらしい花ですね」
「夏の盛りも過ぎるということでしょうか」
シェリーは思いがけず顔を近づけたアシュトンに、どきりとした。
「……シェリー様」
アシュトンはさるすべりの花を手から地面に落とし、シェリーを見つめ、その右手を取った。
「……どうやら私は、嘘はつけないようです」
そういうと、アシュトンはシェリーの右手に口づけをした。
「……私も……嘘は……いやですわ」
シェリーはアシュトンのほほに右手を当て、アシュトンのおでこにキスをした。
「シェリー様……」
アシュトンの顔が真っ赤に染まっているのは、夕日のせいだけではないようだ。
「ふふっ」
シェリーも桜色に染まった頬をかくすこともなく、アシュトンと見つめあっている。
「アシュトン様、シェリー様、お夕食の用意が出来ました」
召使が二人を呼びに来た。
「今行きます」
アシュトンは立ち上がると、シェリーに手を差し出した。
「いきましょう、シェリー様」
「ええ」
シェリーはアシュトンと手をつないだ。
アシュトンはシェリーに微笑みかけたあと、食堂に向かって歩き出した。




