45.訪問
翌日のお昼過ぎに、シェリーは馬車でアシュトンの屋敷に向かった。
「アシュトン様のご家族って、どんな方かしら?」
シェリーは流れていく景色を見ながら、ほんのすこし不安な気持ちになった。
「つきました、シェリー様」
「ありがとう」
シェリーは御者に礼を言うと、アシュトンの屋敷の前に立った。
「相変わらず……大きなお屋敷……」
シェリーがアシュトンの住む屋敷を見上げていると、ドアが開き使用人が現れた。
「シェリー・ホワイト様ですか?」
「はい」
「お待ちしておりました。ようこそ当家へお越しくださいました。こちらへどうぞ」
「はい」
シェリーは手にアプリコットパイをもって、使用人の後に続いた。
「こちらでお待ちください」
「あの、こちら、皆さまでお召し上がりいただければ……」
「ありがとうございます、ご主人様にお伝えいたします」
使用人はシェリーからアプリコットパイを受け取ると、シェリーを応接間に残し、去っていった。
「ふふっ、この前見せていただいた貴石でできた花の絵……一番いい場所に飾っていらっしゃるのね」
応接間の奥に飾られた花の絵を見て、シェリーは微笑んだ。
ドアがノックされた。
「はい」
「失礼いたします」
部屋に入ってきたのはアシュトンだった。
「シェリー様、お越しいただきましてありがとうございます」
「アシュトン様、本日はよろしくお願いいたします」
アシュトンの後から、二人の男女が現れた。
「はじめまして、シェリー・ホワイト様。息子がお世話になっております。アシュトンの父のシリル・クラークです」
「はじめまして、シェリー様。アシュトンの母のシンディー・クラークです」
シェリーは立ったまま、二人と握手をして言った。
「シェリー・ホワイトです。アシュトン様には大変お世話になっております」
「シェリー様、どうぞおかけください」
クラーク夫妻の後ろから執事が現れ、シェリーに席を勧めた。
「それでは、失礼いたします」
シェリーが席に着くと、アシュトンたちも席に着いた。
「あの、今日はアプリコットパイを焼いてきました。お口に合うとうれしいのですけれど……」
「ああ、それならお茶を入れさせましょう」
シリルは執事に言ってお茶の準備をさせた。
「少々お待ちください」
シンディーが笑顔でシェリーに話しかけた。
「ところでシェリー様、アシュトンはいつもちゃんとしていますか?」
「……ちゃんと? はい、アシュトン様はお優しいですし、立派な方です」
「まあ、アシュトンが? ずっと子どもみたいだと思っていたのに……」
「いつまでも子ども扱いは困りますよ、お母さま」
アシュトンはほんのりほほを染め、母親に言った。
「アシュトンとは、どんなことを話すのですか?」
シリルがシェリーに尋ねた。
「アシュトン様とは……貴石の話や、ジル様の話をすることが多いですね」
アシュトンは気まずそうに、話に割って入った。
「シェリー様、お茶の準備が出来たようですよ」
「まあ、わたくしの焼いたパイもだしてくださったのですね」
「きれいに焼けていて、とてもおいしそうですね」
「そう言っていただけると嬉しいです」
シェリーははにかんで笑った。
シンディーがシェリーにお茶を勧めた。
「どうぞ、お召し上がりください……というのも違うかしら? いただきますというべきかしら?」
「いただきます」
シェリーは紅茶を一口飲んで微笑んだ。
シンディーも紅茶を飲み、アプリコットパイを一口食べた。
「まあ! とっても美味しいわ! シェリー様はパイづくりがとても上手だとアシュトンが言っていたけれど、本当ね」
シェリーは、アシュトンが何をどこまで両親に話しているのか、心配になった。
「ジル君のことは……シェリー様には酷だったかもしれないが……アシュトンにとっては良かったのかもしれないな」
シリルが言った。
シェリーは真っ赤な顔で、アシュトンをちらりと見た。アシュトンはのんきにアプリコットパイをほおばって微笑んでいる。
「カルロス・ホワイト辺境伯にはしばらくお会いしていないけれど、お元気ですか?」
「はい。父も母もとても元気ですよ」
「それは良かった」
シリルとシンディーはにっこりと笑った。
「それにしても、シェリー様が実在の人物でよかった」
「え?」
シェリーの戸惑いをわきに、シリルは言葉をつづけた。
「アシュトンはあのとおりの人間だから、てっきり貴石に名前を付けて、愛をかたっているのではないかと心配していたのですよ」
「ひどいですよ、お父様」
アシュトンは苦笑している。
「さあ、お茶の時間も、そろそろ終わりにしましょう。アシュトン、夕食の準備が整うまで、シェリー様をお庭にお連れしてはいかがかしら?」
シンディーの言葉を聞いて、アシュトンは頷き、立ち上がった。
「シェリー様、散歩はいかがでしょうか?」
「ええ、まいります」
シェリーは差し出されたアシュトンの手を取り、アシュトンの後に続いた。




