38.王宮の舞踏会3
シェリーとアシュトンが談笑していると、声をかけられた。
「シェリー嬢、楽しそうですね」
「……! ポール王子! お久しぶりです!」
シェリーはあわててポール王子にお辞儀をした。アシュトンもシェリーに続いてポール王子に挨拶をした。
「お久しぶりです、ポール王子様。トラモンタ国での舞踏会でお会いして以来ですね」
「アシュトン子爵、あの時はご挨拶だけでしたね」
シェリーはポール王子に話しかけられて緊張していた。シャラ王女が話しかけてくるのは、恋愛話が好きな王女のことだからなくはないとも思えたが、ポール王子がわざわざシェリーに話しかけてくる理由に心当たりがなかったからだ。
「ところでシェリー嬢はよくトラモンタ国に行ってらっしゃるようですね」
「……はい」
シェリーは嫌な予感がした。
「臣下には、シェリー嬢がトラモンタ国のスパイをしているのではないかと疑う者も出てきているのはご存じですか?」
ポール王子は笑顔だったが、シェリーは背筋が凍る思いだった。
「噂にはきいております……でも、私はそんなことしておりません……」
心細そうに答えるシェリーを見て、アシュトンは言った。
「ポール王子様、シェリー様は私の友人ジルにふりまわされていただけでございます。我が国トラモンタは、確かに先代の王は好戦的で戦で領土を広げることに熱心でした。しかし、今のトラモンタ王は自国の平和を重んじ、民の生活を豊かにするよう国政に力をいれております。このスオロ国に敵対することはないと思います」
「そうですか。……それなら良かった」
ポール王子は笑顔で二言三言アシュトンと話をし、最後に言った。
「シェリー嬢が退屈しのぎのため隣国をおとずれていることはよくわかりました。でも、この国もつまらない国というわけではないですよ?」
ポール王子に言われて、シェリーは頬を赤く染めた。
「……存じております」
「それでは、次にトラモンタ国に行った際には、この国の良いところをお話しいただけますようお願いしますね」
ポール王子はそれだけ言うと、アシュトンとシェリーに軽く目礼をして去っていった。
「ああ、心臓に悪かったですわ……。アシュトン様、助けてくださってありがとうございました」
「いいえ、ポール王子に嫌われては困りますからね」
「そうですわね」
シェリーは苦笑し、アシュトンと長く一緒にいすぎたように思った。シェリーはアシュトンに、また会う約束をしてから両親のもとに戻った。
「ただいま、お父様、お母様」
「おかえり、シェリー」
シェリーは飲み物を取ってきて一口飲み、父親に言った。
「王女と王子に話しかけられました。王女は世間話をされただけですが、王子にはスパイの件を聞かれました」
「そうか……。それで、お前は何と答えたのかい?」
「スパイなどしていないと申し上げました。そして、アシュトン子爵がフォローしてくださいました」
「……アシュトン子爵にお礼を言わなくてはいけないな」
「もう言いましたわ、お父様」
シェリーたちは舞踏会が終わるまで、静かに過ごした。
「そろそろ帰ろうか」
「はい、お父様」
シェリーたちホワイト一家は、華やかな舞踏会を後にして、馬車で自宅に帰っていった。
「なんだか……疲れました」
シェリーはつぶやいてから、アシュトンの鮮やかな踊りを思い出し、ちいさく息を吐いた。
「でも、楽しかった……」
シェリーは次にアシュトンに会える日を思うと、自然とほほが緩んだ。




