36.王宮の舞踏会
シェリーが家に引きこもってから一か月が過ぎた。
家にいる間は、母から家の仕事を教わったり、お菓子を作ったり、本を読んだりしてシェリーは、おとなしくしていた。
「シェリー様、お手紙が届いております」
「まあ、ありがとう」
シェリーはメイドから手紙を受け取ると、差出人を見て驚いた。
「お父様、王女さまからお手紙が来ましたわ」
「何と書いてあった?」
「今、開けるところです」
シェリーが手紙を開けると、そこには舞踏会の招待状が入っていた。
「今週末の夜の舞踏会の招待状が入っていました」
「そうか。舞踏会に行く相手はいるのかい?」
「ええと……」
シェリーは困ってしまった。
今一番仲の良い異性はアシュトン子爵だが、王宮の舞踏会に隣国の子爵を招いてよいか迷っていた。ただでさえ、スパイ疑惑をかけられているのに、そんなことをしたら何と言われるかわからない。
シェリーが黙っていると、父親のカルロスが言った。
「今回は家族だけで参加するか?」
「……そうしますわ、お父様」
シェリーは舞踏会に来ていくドレスを選び、週末を待った。
舞踏会の当日はよく晴れていて、月が綺麗に輝いていた。
「さあ、行こうか、シェリー」
「はい、お父様、お母様」
シェリーたちホワイト一家は馬車に乗り王宮に向かった。
王宮に着くと、もう人々が大広間に向けて歩いていた。
「たくさんの人が来ていますね、お父様」
「ああ、そうだな」
シェリーたちも舞踏会の会場である大広間に向かって歩き出した。
舞踏会の会場では、王に挨拶をしようと貴族たちが列をなしていた。
「さあ、わたしたちも並ぼう」
しばらくして、王に挨拶をする順番が来た。
「カルロス・ホワイトです。ご無沙汰しております、ロイス・レスト王」
「ああ、久しぶりだな、カルロス」
「こちらは妻のグレイスと娘のシェリーです」
「ご機嫌麗しゅう存じます、ロイス王様」
母が挨拶をした後、シェリーも続いた。
「お目にかかれて光栄ですわ、ロイス王様」
「お噂は私の耳にも届いております、シェリー様」
「シャラ王女様……!? どんな噂か、心配ですわ」
「ふふっ、もっと悪女めいた方を想像しておりましたわ」
「……!」
シェリーが顔を赤くしてうつむくと、シャラ王女は付け加えるように言った。
「ごめんなさい、隣国のジル様と懇意だと聞いていたので、からかってみただけですわ」
シャラ王女はいたずらな笑みをうかべてシェリーに言った。
「ジル様には婚約者がいらっしゃいますよ」
シェリーが笑顔で答えると、シャラ王女は気まずそうにつぶやいた。
「あら……それは……なんといえばいいのかしら……」
とまどうシャラ王女にロイス王が声をかけた。
「シャラ王女、後がつかえている。そろそろ次の方に……」
「あら、失礼いたしました、お父様。それではシェリー様、またお会いいたしましょう」
「はい。失礼いたします」
王たちに挨拶を終えたシェリーは、父と母と一緒に舞踏会の会場に戻った。
「さあ、シェリー。飲み物を取っておいで」
「はい、お父様」
シェリーは大広間の隅の飲み物が置いてある場所に移動した。
シェリーが葡萄酒を手に取り、ぼんやりと立っていると声をかけられた。
「シェリー様、お元気ですか?」
「……まあ、ジル様? ということは……」
「今晩は、シェリー様」
ジルの陰から、メイリーンが現れた。メイリーンはジルの右腕の袖をぎゅっと握っている。
「今晩は、メイリーン様。ジル様のけがはもう大丈夫なのですか?」
「はい、おかげさまで。今夜は婚約者をロイス王に紹介しにきたのです」
「それでは、正式に婚約をしたということですか?」
シェリーの問いかけに、メイリーンが答えた。
「来月の終わりに結婚式を挙げる予定です!」
シェリーは持っていた葡萄酒を一気に飲み干してから、ふうと息をついて、笑顔で言った。
「おめでとうございます、ジル様、メイリーン様」
「……ありがとうございます、シェリー様」
ジルは頬を染めてにっこりと笑った。その笑顔は少し寂しげだった。
「ジル、なにをしているんだい?」
「アシュトン、シェリー様に挨拶をしていたんだ」
「シェリー様……お久しぶりです」
アシュトン子爵は照れたように微笑んでシェリーに軽く会釈をした。
「アシュトン様、先日はどうも……」
シェリーも頬を染め、アシュトンに声をかけた。
「あれ? 二人とも何かあったのかい?」
「別に」
「大したことではありませんわ」
音楽が鳴り始めた。
「さあ踊ろうか、メイリーン」
ジルとメイリーンは、アシュトンとシェリーにお辞儀をしてからダンスの輪に加わった。
「アシュトン様は踊らないのですか?」
「私は……踊りは苦手でして……。そういうシェリー様は踊らないのですか?」
「一人では踊れませんわ」
シェリーとアシュトンは広間の壁のそばにたち、料理をつまみながら世間話を始めた。




