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辺境伯令嬢の私に、君のためなら死ねると言った魔法騎士様は婚約破棄をしたいそうです  作者: 茜カナコ


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32/80

32,ミートパイ勝負

 食堂に着くと、まずジルが腰かけた。ジルの隣にはアシュトンが座った。

向かい側の席にメイリーンとシェリーが座る。メイリーンはジルの前に、シェリーはアシュトンの前にそれぞれ腰を下ろした。

「失礼いたします」

 メイドがジル、アシュトン、メイリーン、シェリーの前に二つのミートパイを並べた。

少し淡い色をしているのがメイリーンの作ったもので、濃い焼き色をしたのがシェリーのパイだ。


「それでは……私のミートパイからお試しください。皆様の右手に置かれているほうです」

「いただきます」

 みんながメイリーンの作ったミートパイを食べた。

「うん、しっとりとしていておいしい。肉の味が良くしています」

「ふふ」

 メイリーンは得意そうな表情でシェリーを見た。


「ジル様、いかがですか?」

「おいしいよ、メイリーン」

 シェリーもメイリーンのミートパイを一口食べた。上品な味付けで、シェリーには物足りなかったが、これはこれで美味しかった。

「次はシェリー様のミートパイをお試しください」

 メイリーンの言葉を受け、みんながシェリーのミートパイを一口食べる。

「ん! スパイシーですね。大人向けの味付けだ」

 アシュトンが微笑んだ。

「うん、これは刺激的だ」

 ジルも目をまるくして、二口目を食べている。

「ちょっと、辛すぎると思いますわ」

 メイリーンが一口食べてフォークを置いた。

「コショウとかスパイスとかを効かせたほうが、私の好みなので……お子様には辛いかもしれません」

 シェリーがそういうと、メイリーンの顔が真っ赤になった。シェリーは余分なことをいってしまったと、少しだけ後悔した。


「それでは、どちらのパイが美味しかったか教えてくださいませ」

 メイリーンがジルとアシュトンの顔を見ながら言った。

「僕は……シェリー様の作ったパイが好きかな」

 ジルが言った。

「私は……どちらもおいしかったです」

 アシュトンはそう言うと微笑んだ。


「それでは……勝負はシェリー様の勝ちですね……」

 メイリーンが涙をためて言った。

「ジル様、いつもメイリーンの作るミートパイは世界一だっておっしゃってくださったのに……」

 メイリーンが涙声で言うと、ジルは気まずそうに目を伏せた。


「あの、私、メイリーン様のミートパイのほうがおいしいと思いますわ」

 シェリーの言葉にメイリーンが目を見開いた。

「同情ですか? そんなもの、よけい惨めになりますわ」

「いいえ。メイリーン様のパイはまんべんなく焼けていて、はじが焦げている私のパイよりきれいに仕上がっていました。それにスパイスの効いたパイは、時々ならおいしいかもしれませんが、いつも食べるには刺激が強すぎます」

 シェリーは少し寂し気に微笑んでジルを見た。

「……それがシェリー様のお答えなのですね……」


「ジル様……」

 シェリーは微笑んで首を横に振った。

「メイリーン様とお幸せになってください」

 ジルは言葉もなくシェリーを見つめていた。

「ジル、いいかげんはっきりしたほうがいいんじゃないか?」

 アシュトンが静かに言った。

「ああ……シェリー様、メイリーン、僕がはっきりしなかったのが悪かった。僕は……シェリー様が好きだ」

「ジル様……」

 メイリーンの頬に涙がぽろぽろとこぼれだした。

「ジル様、私はジル様のことは友人としてしか見られません」

 シェリーの言葉に、ジルがうなだれる。


「ジル様、私ではだめですか? 私のことを一人の女性として見ていただけませんか?」

 メイリーンは小さな声でジルに尋ねている。

「メイリーン……」

 アシュトンがため息をついた。

「シェリー様、メイリーン様、今日はこれでお開きにいたしませんか?」

 アシュトンが言葉を続ける。

「ジルも、シェリー様とは縁がなかったと諦めたらどうだ? いままで通り、メイリーン様と仲良くすればいいじゃないか」


 シェリーはアシュトンの言葉に小さくうなずいた。

「私を思っても、お気持ちには答えられませんわ」

 シェリーはジルを突き放すように言った。

「また、友人としてならお会いできますけれど、恋人にはなれません」

 シェリーはジルにはっきり言った。

 力なく微笑んむジルを見て、アシュトンが言う。

「シェリー様のほうがよほどはっきりしている。ジル、格好悪いぞ」

「ああ、僕は格好悪いさ」


 アシュトンはジルを部屋まで連れて行くと、ベッドに座らせた。

 ジルはベッドの上で、シェリーに手を振ってからメイリーンに言った。

「メイリーン、君の気持ちには答えられそうにないよ」

「ジル様、私はあきらめませんわ」

 ジルの手を取って、見つめるメイリーンを横目にシェリーは言った。

「ミートパイ、ごちそうさまでした。メイリーン様はきっとジル様にとって素敵な恋人になられると思いますわ」

 シェリーが帰ろうとすると、アシュトンが声をかけた。

「よろしかったら家まで送りましょう、シェリー様」

「まあ、大丈夫ですわ」

「いえ、親友のジルの非礼もお詫びしたいですし……」

「……それでは、送っていただくことにいたしましょう」


 アシュトンとシェリーはジルとメイリーンに別れを告げると、シェリーの家に向けた馬車に乗り込んだ。



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