31.顔合わせ
翌日、ミートパイを作り終わったシェリーは両親に声をかけた。
「お父様、お母様、明日はジル様のお屋敷に行きます」
「おや、そうかい。ジル様とはもう縁が切れたのではないのかい?」
シェリーの父親が困ったような表情でシェリーにたずねた。
「お友達としては、面白い方ですから」
シェリーはメイリーンとの勝負のことは伏せておいた。
「それでは、失礼の無いようにするんですよ」
「はい、お母様」
シェリーはミートパイをさまし、一つはバスケットに入れ、もう一つは夕食の際に料理長に切り分けてもらった。
「このミートパイはシェリーが作ったのか?」
「はい。お味はいかがでしょうか?」
シェリーは少し不安に思って、父親の反応を伺った。
「うん、おいしくできているよ」
「よかった」
シェリーも目の前に置かれたミートパイを一口食べた。
すこしコショウを効かせてあるのは、シェリーの好みだった。
「明日もお見舞いかい?」
「ええ、それとジル様の婚約者様にも、またお会いする予定です」
「……そうか」
父親と母親の表情が曇った。
「私は大丈夫ですよ?」
シェリーは笑って、ミートパイをもう一口食べた。
食事を終え、ジルの家に行く準備を済ませるとシェリーは寝ることにした。
「ジル様も、メイリーン様も、人騒がせなこと……」
シェリーはベッドの中で呟いてから、目をつむった。
朝、外を見ると空はどんよりと曇っていた。
「ああ、まるで私の心模様みたいですね」
シェリーはため息をつくと、朝食を済ませて馬車でジルの家に向かった。
「ミートパイは作ったけれどもこれでよかったのかしら?」
馬車の中で、シェリーは外の様子を見た。
雲は一層重く立ち込めていて、シェリーの気分を暗くさせた。
「さあ、ジル様の家につきますわ」
ジルの家に着くと、シェリーは馬車を降り、ジルの家のメイドがシェリーをジルの部屋に案内した。
「ごきげんよう、シェリーです」
「どうぞお入りください」
シェリーはミートパイの入ったバスケットを抱えてジルの部屋に入った。
ジルの部屋には、メイリーンと、初めて見る男性がすで集まっていた。
男性は金色の髪にダークグレーの目をしていて、あまり愛想はよくなかった。
「シェリー様、こちらはアシュトン・クラーク子爵です。私の古くからの友人です」
「はじめまして、アシュトン・クラークです」
「はじめまして、シェリー・ホワイトです」
アシュトン子爵は、シェリーにはジルと同じか少し上の年齢に見えた。
「今日の勝負に立ち会ってくださるっておっしゃってくださったのよ」
メイリーンがアシュトン子爵に向かって、笑みを浮かべた。
「不正があっては困りますからね」
メイリーンが悪びれずにそういうと、ジルがたしなめた。
「シェリー様はそんなずるはしませんよ」
「あの、私、ジル様には恋愛感情はありませんから」
シェリーはミートパイを出しながら、メイリーンとジルに言った。
アシュトン子爵は首をかしげている。
「ジル、君は二人の女性を天秤にかけているのかい? ずいぶんじゃないか」
「アシュトン、そういわないでくれ。まあ、最初からはっきりしていなかった私がわるいのだけれども……」
アシュトン子爵はあきれ顔でジルを見つめていた。
「私のミートパイもみてください、ジル様、アシュトン様」
メイリーンもかごからミートパイを出し言った。
「美味しそうですね。それではメイドに切ってきてもらいましょう」
ジルはメイドを呼ぶと、メイリーンとシェリーのミートパイをそれぞれ切り分けるよう指示した。
「パイの準備が出来たら、食堂に行きましょう」
「はい」
「わかりました」
「……」
待っている間、ジル達は昔話に花を咲かせた。
「シェリー様と初めて会った酒場は、まだ行かれているのですか?」
ジルがたずねたのでシェリーは答えた。
「いいえ。あれっきりですわ」
「酒場!? そんなところに一人で行かれるなんて信じられませんわ」
メイリーンが目を丸くしている。
「まあ、人の行動をどうこういうのは、よくないかもしれませんよ」
アシュトン子爵は興味のない様子で、メイリーンに言った。
しばらくすると、メイドが戻ってきた。
「ジル様、皆様、食堂にミートパイと紅茶を用意いたしました」
「ありがとう。すぐ行くよ」
ジルはアシュトンの肩を借りて、食堂に向かった。
メイリーンとシェリーは横目でお互いを見てから、ジル達の後に続いた。




