3、国境視察
朝食を取っているときにカルロスが言った。
「最近、隣のトラモンタ王国がやけにしずかなのだが、なにかあったのだろうか?」
「そうですわね」
「お父様、お母様、それなら私が偵察に行ってきましょうか?」
シェリーがそう言うと、カルロスは険しい顔をしてシェリーを叱った。
「シェリー、隣国は今のところ友好的とはいえ、土地も貧しく、治安も余り良いとは言えない。娘が一人で行くところでは無い」
「だからですわ。まさか、隣国の辺境伯の娘が視察に来るとは思わないでしょう?」
シェリーが言うと、カルロスは首を横に振った。
「視察へは、アルバートを派遣する予定だ」
「え!? まさか、制裁をくわえるためですか?」
シェリーの言葉にカルロスは何も言わなかった。
代わりにグレイスがシェリーに話しかけた。
「シェリー、はやく食事を終わらせて勉強でも読書でもしていなさい」
「……はい、お母様」
シェリーは食事を終えると、自分の部屋に戻っていった。
「お父様もお母様も、私のことをまだ子どもだと思っていらっしゃるんだわ」
シェリーは家を抜け出して、隣国と接するスコジリエラの町にこっそりと出かけることにした。
「アルバート様よりも先に町に着けば、お父様もお母様もきっと私のことを見直して下さるわ」
シェリーは馬小屋から一匹の赤毛の馬を連れだし、その馬に乗ってスコジリエラの町に向かって走り出した。