20、勝利の行方
武術大会二日目。
スオロ王家とトラモンタ王家が観戦に来た。
「これはトラモンタ王、よくいらっしゃいました」
「スオロ王、お招きありがとうございます」
王家同士の挨拶が終わると、トラモンタ王がホワイト辺境伯に声をかけた。
「ホワイト辺境伯。お久しぶりです。先日は子ども達がお世話になりました」
「いえ、こちらこそ身分の違いをわきまえず失礼致しました」
大人同士の話し合いのわきで、スオロの王子ポールと王女シャラが、トラモンタの王子ユリアスと王女セリシアと話している。
「シェリー嬢、こちらへ」
「はい、ポール王子」
ポール王子はシェリーを勇敢な女性だとユリアス達に紹介した。
「存じております」
ユリアスとセリシアが言うと、ポールは苦笑した。
「シェリー嬢、貴方のおてんばは有名なんですね」
「……」
シェリーは顔を赤くして俯いた。
「お兄様、そんな言い方をしてはシェリー様に失礼ですわ」
シャラ王女がシェリーをかばった。
「噂は色々ときいておりますよ、シェリー様」
ポール王子はそう言って、王達のもとへ戻っていった。
「シェリー様、お気になさらないで」
「セリシア様、ありがとうございます」
「ところで決勝には、あのアルバート殿が出てくるそうですね」
ユリアスに言われ、シェリーは口元を隠してため息をついた。
「……ええ、強さは本物ですから」
そのとき、ファンファーレが鳴り響き、決勝が始まった。
決勝戦はスオロの騎士バートと炎の魔術師ロナ、そしてアルバートの三人が一度に戦う事になっていた。
「ご覚悟を! アルバート様!」
「その言葉、そのまま返す! バート」
「私を舐めない方がいい!! アルバート!」
バートとロナは同じタイミングでアルバートに襲いかかった。
アルバートはロナの放った火球を避け、一つを剣で切り裂いた。
同時に、左手に持った盾でバートの剣を受け流す。
その身のこなし方には無駄がなく、美しささえ感じた。
「アルバート様、強くなっていらっしゃる……」
シェリーはなにか苦いような感情が心の奥の方からにじみ出てくるのを感じた。
「アルバートなんて倒してしまいなさい!」
「……セリシア様!?」
シェリーは大きな声を上げたセリシアを、びっくりして見つめた。
「アルバート殿は本当に戦闘能力は高いのですね」
「はい、ユリアス王子。我が国では一番の魔法騎士です」
闘技場ではロナが倒れ、アルバートとバートが剣を交えていた。
「バート殿も強いのですが、アルバート殿のほうが戦いの流れを読むのがうまい」
ユリアス王子はアルバートの強さが気に入ったようだった。
力で押していたバートだったが、アルバートの風魔法に動きを封じられた結果、優勝したのはアルバートだった。
「……アルバート様の優勝ですね」
「ええ……」
セリシアの言葉に、シェリーは頷いた。
「それでは、これから親善試合を行う。トラモンタ国の王宮錬金術師であり、特別騎士のジル・スウェード、こちらへ」
「はい」
ジルとアルバートの戦いが始まった。
「魔法騎士と錬金術師の戦いか。興味深いな」
ユリアス王子とセリシア王女は、王家の席へと移動していった。
シェリーは父や母と、試合の行き先を見守った。
『ジル様、アルバートなんて倒しちゃって下さい……』
シェリーは心の中で願った。
アルバートは風の魔法でジルの動きを封じようとしたが、それより先にジルはアルバートの目の前から消えた。
「何!? 私より速く動けるのか!?」
アルバートは動揺しつつも、ジルの気配を追った。
ジルはアルバートの脇に滑り込むと、その剣をアルバートの首元に当てた。
「アルバート様、女性を泣かせるのはあまり感心しないなあ」
「は!? 何を言っている? 私はスノーを泣かせたりしない」
シェリーは二人が何か話している様子を見て、首をかしげた。
「さあ、とどめを刺そうか!?」
ジルが剣をぐっとアルバートに押しつけた。
「そこまで! 勝ったのはジル・スウェード!!」
歓声が轟いた。
「ジル様!!」
「素敵!!」
「アルバート様、素敵でした!!」
客席からは黄色い声が響いた。
ジルが王家と観客達にお辞儀をしてから、アルバートを立たせると再び歓声が上がった。
「シェリー様、ジルは強いでしょう」
「ええ、驚きましたわ。あのアルバートが手も足も出ないなんて……」
ジルは王家の席のわきに立っているシェリーを見つけると、手を振ってからウインクをした。
「シェリー様、かたきはとりましたよ!」
ジルは大きな声でシェリーに言った。
「……ジル様ったら!!」
シェリーは真っ赤な顔をジルから背けた。
『でも、胸のつかえはとれたみたい……』
シェリーはがっくりとうなだれているアルバートと、それをなぐさめるスノーを見て、体の力が抜けるのを感じた。
しばらくして、表彰式が行われた。
優勝したアルバートには記念のメダルが贈られたが、アルバートの表情はさえなかった。
「シェリー、ジル様が戻られたようですよ」
「はい」
王家への挨拶を終えたジルが、シェリーに会いに来た。
「どうです? 実は私も強いって嘘じゃなかったでしょう?」
「ええ。驚きました。アルバート様でさえ歯が立たないなんて思いませんでした」
シェリーは素直にジルの強さをたたえた。
「アルバート様に勝った私に祝福のキスは無いのですか?」
「……!!」
シェリーは真っ赤になって、ジルの足を軽く蹴った。
「何を言うんですか!? ジル様!?」
「いたた……乱暴だなあ、シェリー様は」
ジルはそう言うと、笑ってトラモンタ王家の席に戻っていった。
「楽しそうに何を話していたんだい?」
「お父様、何でもありませんわ」
シェリー達は戦いの終わった闘技場を後にした。
そしてその夜はスオロ王家で、トラモンタ王家とジル達の歓迎パーティーが行われた。
ホワイト辺境伯夫妻とシェリーもそのパーティーに招待されていた。




