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3.

ええーっっと。私の記憶が確かなら、レイ様とやらには会わなくてよかったのでは?




でも、目の前にいるのだが?




ニコニコとこちらを見ながら笑うレイ様とその部下なのか秘書なのか、お付きの人がいる。



両親はレイ様に会えた興奮でテンションがおかしくなっており、こちらの抗議の目には気付いていない。



結局、両親は私が「レイ様」と同じ天才かもしれないということに舞い上がり、近所でも親戚でも「うちのユーリちゃんがすごいの!」と匂わせまくっていたのだ。その結果、誰かがレイ様に手紙を送り「我が町の天才少女に会って欲しい」と通報した。



手紙を送った、と聞いた時は眩暈がしたが、そんな手紙で会いにくるわけがないと思っていた。しかし、レイ様は数日も空けず、こちらに訪ねてくると返信してきた。これには町中が大騒ぎになった。



私はとうとう断れなくなり、両親の意向でとびきりおめかししてレイ様と会うことになった。



母親が気合いを入れて掃除したリビングで、父親が緊張しながら汗をかきかき話している。成立していない雑談を聞いてるだけで顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。



「ところでご両親、手紙に書いてあった少女というなはこの子のことですか?」

「はっはひぃ!」

「そうか…とても聡明そうな子ですね」

「そ!そうなんです」

「何歳かな?」

「もうすぐ6歳です」

「ふむ…僕は生まれてまもなく転生に気付いたのだけど、この子はどうだった?」

「ちょうど1カ月前くらいですかねぇ、ある日突然ですね。夜中にパッと起きて私たちの知らない言葉を喋り出して。それで、いつも話してる言葉もその時は忘れちまったみたいで…」

「そう……」


レイ様に会って驚いたのが、思った以上に若かったこと。20歳くらいだろうか、勝手におじさんだと思っていた。仕立ての良さそうな服も着てるし、育ちも良さそう。その才能と生まれの良さで苦労なく生きてきたんだろう。母親にしがみつきながら、ジロジロと隙間から見ていた。



レイ様はクスッと笑って口を開く。



『日本から来たんだね?』

「……!?」



思わぬ日本語に体がこわばっている。ダメ、反応しちゃ。絶対に



『僕の名前は、高橋悠太。19○○年に東京で生まれた。生まれてまもなくこちらの世界に転生したことに気付いて、それからずっと同じような境遇の人を探してるんだ』

「……」

「ユーリちゃん、分かる?レイ様の言うこと」

「ママー!!」



バカ!私!震えるな、絶対に悟らせるな!!母親にぎゅっとぎゅっとしがみついて、何も分からなかったように必死で演技した。この人とは絶対に、絶対に、絶対に関わりたくない。



レイ様はガタンッと椅子を倒しながら急に立ち上がると、こちらに近づいて母親にしがみつく私の顔だけをグイッと掴んで自分に向けた。



きれいな顔が陶器みたいに青白い。私の顔を掴む手も心なしか震えている。じっと私の顔を見ると、まるでお人形みたいな、全然感情のない声でこう言った。



『君も転生したんだな?』

「………ママー怖いのぉーーー嫌なのぉ!!!!ママぁ!」

『やっと会えた。どうして隠すの?』

「嫌だーーーー助けてぇ!!!!!」

『ねぇ、君は誰?どこから来た?』



異常な光景に、そこにいた誰もが息ができないほどあっけにとられていた。


「もうやめてください、娘が泣いてます」


父親が私とレイ様の間に入って、グイッと押し出した。


「やめてください」

「あっ…」



私の泣き声だけが気まずく響いている。



「ママ、ユーリを連れてあっちに行って」

「わ、わかった」



『君のことは諦めないから』



今度は母親が私をぎゃっと抱きしめた。



「ママたちがバカだった、ごめんね」




目を覚ますと、両親はベッドにはいなかった。きれいにはしているけれど、庶民的な部屋。ここに来てから毎日、家族3人、川の字で寝ている。


私の隣には見たことない、クマのぬいぐるみが置いてあった。そのぬいぐるみを抱きしめてみる。ふわんと安心する匂いがする。



窓の外を見ると薄暗くなっていた。だいぶ寝てしまったみたいだ。



「まぁ、もうおばあちゃんだったものねぇ。ピンピンコロリならまぁいいわ。ヘルパーさんをびっくりさせちゃったわね…申し訳ない」



ふと、転生直前に自分がどうなったのか考えてみる。



覚えているのは、私は86歳だったこと。でも認知症になっていたら、もっと生きてたのかも?皮肉にも夫の残した財産と遺言で不自由なく暮らせていた。いや、不自由どころか裕福に。



「…起きた?」




母親が声をかける


「うん!」

「今日も世界で一番かわいい私たちの宝物!」



大袈裟にそう言うと、ギューっと力強く抱きしめてきた。ちょっとだけぽっちゃりしてて、金髪にグリーンとグレーが混ざったような瞳。大袈裟なノリも、感情の出し方も外国の人みたい。



「パパも心配してる、行こう!」


こちらに来てから驚いたのは、その暮らしぶり。私が生きていた時代よりもさらに「過去」のようだった。トイレはぼっとん便所だし、蛇口からは水しか出ない。当然、ガスコンロもない。



テーブルの下には、大きな犬がいた。物憂げにこちらをチラリと見る。



暮らしにくいのかもしれないけど、転生前より穏やかで豊かな気がする。このまま、誰にも転生のことを知られず、目立たずに暮らしたい。



「パパ!」

「おーユーリ、どうだー大丈夫か」

「うん!レイ様帰った?」

「帰ったぞー」

「もう来ない?」

「ん?ん……モゴモゴ」

「もう来ないよね?」

「なんだろなぁーどうだろなー」

「パパ!?」



高橋悠太。忘れるはずがない、生まれた年も同じ。よくある名前だし、偶然かもしれない。でも夫と同じその名前の人間がこの世界にいる。怖い。関わりたくない。

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