悪役令嬢の婚約者は硬派なBL男子(?)
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で、連載始めました。↑を宜しくお願いします!
──この世界には5つの種族が存在する。
「人族」「妖怪」「ドラゴン」「神獣」「鬼」
人間はドラゴンと絆を深め、
妖怪とは交流をし、
神獣は神として崇めたてた。
人間が唯一共存出来なかったのが「鬼」。
彼らは残忍で邪悪な悪の化身を連想させるような姿をしていた。人を喰らい不思議な力である「異能」で生きるもの全てを支配しようとしたのだ。
その異能に対抗する様に人間も異能持ちが現れ鬼を倒す組織「琥珀」が設立された。鬼が有利な状況からは一変し何千年も攻防を続けた。
✱✱✱✱✱
ブルクルム家が治める辺境地は鬼との戦いが激しい「東のエディン」と接しているため、中央都へあがる事はほとんど無い。だが、勘違いしていけないのは辺境伯だからと言って田舎の貧乏貴族ではないという事。
辺境地を護っている伯爵は「琥珀」に所属しており基地のある中央都から「東のエディン」は離れた場所にあることから指示を仰ぐのにも一苦労。その為、独自に指揮を取る事と大きな権限を認められた地方長官なのだ。
そんな地方長官である、アルヴィン・ブルクルム辺境伯とサリエナ辺境伯夫人の間に産まれたのが 後に悪役令嬢と謳われる「ミルエラ」だ。
「なんて愛らしいのかしら、アル様に似てコバルトブルーの瞳は綺麗ね」
「こうも私に似てるんじゃこの子が可哀想だ」
「何を言いますか、私はミルエラがアル様に似て下さって嬉しく思います」
「...君に似てくれた方が嬉しかったが...」
サリエナ辺境伯夫人は夫のアルヴィンをとても愛している、愛しているからこそフィルターが掛かっているのだ。
アルヴィンの銀色の髪は鬼の返り血を映えさせ、まつ毛の多い切れ長の目は綺麗なコバルトブルー色だが三白眼のお陰で「人を殺しそうな眼」だと良く言われている、中央都では鬼を殺すマーシン「殺人鬼」とも言われ放題だ。
それに比べて妻のサリエナはウェーブの効いた腰まである撫子色の髪と、瞳は慈愛の篭った丸い形に撫子色の垂れ目。愛らしい顔をしている彼女はマドンナ的存在でもあったがアルヴィンが射止めた為、脅されて仕方なく嫁いだとの噂もある。だが、実際はサリエナの猛アタックで結婚まで持ち込んだのだ。今ではアルヴィンもサリエナにベタ惚れで、2人には待望の第1子が生まれた。
「この子は、如月家臣下の陰一族に嫁ぐ事になる。...きっと神はこの子を祝福してくださったんだ」
「陰一族に嫁げるならブルクルム家の名誉も大幅にあがりますね」
この世界は洋風と和風を取り入れた形になっている、ひとつの大陸で繋がれているが国王や皇帝に仕えるのが貴族。琥珀に勤める者、国の防衛、警備を和の名家が務めている、名家達は貴族同等の地位を保有している。
琥珀・国家・神獣を祀る神殿は三権分立となっているが 琥珀の権威はその2つを凌駕するものとなっている、その琥珀総元帥の直属の部隊「白龍隊」隊長を務めるのが如月家。御三家の1つでもあり、他の名家に比べて群を抜いてトップに君臨する、そんな如月家に臣下として代々就いている陰一族。
アルヴィンのせいでブルクルム家は「悪魔の貴族」と言われているが陰一族と婚姻関係が出来ればその名誉も回復できる、その事に対してサリエナは喜んでいた。
「旦那様、陰一族のご当主様よりお祝いの言葉と品々が届いております」
早速届いたミルエラ宛の祝いの品はとても高価な物ばかりな上に婚約者である「守」が後継する予定である資産の一部も贈られてきた。
陰一族の男児は産まれた時に幼名を与えられる、" 守 " も幼名である。幼名とは幼児である期間につけられる名前で、成人したと認められるまで"成弥"の名を襲名出来ないのだ。陰一族の成人男性は皆「成弥」の名を代々継いできた。
ブルクルム辺境伯とて国からは丁重に扱われて居るが陰一族の財力には圧巻されるほど。
(公爵家を凌ぐ財力...凄い、本当に我が娘で良いのだろうか)
もっと陰一族に見合った婚約者を探すべきではないのかとも思ったが、陰一族から持ち掛けられた話を辺境伯と言えど断れる訳もなく了承するしかなかった。現当主である「成弥」様はとても優秀な方で戦地において彼の指示は的確で天才軍師でもある。
ミルエラはすくすく育っていき5歳を迎えた、花嫁修業も始まったが未だに守とは会えずじまい。毎年誕生日には豪華なプレゼントが届くし2ヶ月に1回花が届くが本人が来た事はなかった。
「お父様...守様は来られないのかしら?」
アルヴィンは物心の付いたミルエラからの質問に困った、誕生日パーティの招待状を送っても返ってくる来るのはプレゼントだけ。交流をしようとお茶会に誘っても「守は如月家のご子息の付き添いで参加は難しい」との返事。まだ見ぬ婚約者へ会えるのを楽しみにしているミルエラが返事を見る度に落ち込むのは見ていて辛かった。
「訓練でお忙しいみたいだ、今年は令嬢達も呼んだから去年より楽しいはずさ」
「そうですね...」
「来年こそ呼べるようお父様も頑張るから許してくれるか?」
「ふふ、お父様は悪くないわ」
ミルエラはフリフリの付いたピンクのドレスを揺らして誕生パーティの会場である広い庭園へ向かった、主役であるミルエラの登場で参加者達は祝福の言葉とプレゼントを我先にと渡してくれた。婚約者の参加がなくても友人の令嬢達と話すのは楽しくて夢中になっていたが地味目の子爵令嬢であるエリーナが守の話をした。
「先日、ミルエラ様の婚約者様にお会いしました」
「...えっ」
「馬車の車輪が壊れた所をたまたま通りかかった陰一族の方が助けて下さり、車輪を直してくださる間にお話をしたんですが...その、とてもかっこいい方でした」
その日、ミルエラは初めて怒りで腸が煮えくり返った。持っていたオレンジジュースの入ったグラスをエリーナ嬢のドレスにかけた後、態とらしく笑顔になり手が滑ったのだと告げた。
自分は会ったこともないのに自分より身分が下の子が守様に会ったことあるのが悔しかった。
(どうしてこの子は頬を染めているの?私の婚約者に対して好意を寄せているなんて失礼にも程があるわ...悔しい。会いたい...)
毎日毎日恋焦がれて居た相手に会えないのが辛くて頬に涙が伝う。他の子供達もこのピリついた空気に泣き出してしまい誕生パーティはお開きとなった。
エリーナは本当に手が滑ったと信じ込んでおり守と会ったことの話をした事でミルエラを怒らせたなんて気付いても居なかった、だがミルエラの評判が落ちていったのはその後だった。
婚約者に会えていないとは知らずにミルエラに守と会った話をする令嬢達を虐めるようになったのだ、辺境伯令嬢とは言え国家からすれば戦地との境目を守る重要な貴族故に無下には出来ず、何より父親のアルヴィンが「悪魔の貴族」と言われているほど恐れられており誰もミルエラの行いに口を出す事は出来なかった。
7歳になったミルエラはウキウキしていた。
初めて守からお茶会に参加すると言う趣旨の返事が届いたから朝からお肌のマッサージやドレス選びに時間を掛けた。予定の時間に間に合わせるように早めに支度を終わらせてアルヴィンと共にサンルームで待つことにした。
「守様は...気に入って下さるかしら...?」
「嗚呼、お前は世界一美しいからな」
父のアルヴィンに褒められて照れ臭そうに待っていると守が執事に案内されてサンルームにやってきた。
まだあとげ無い顔をしているのにないのにその鋭い眼は鉄の壁も壊す冷たさを持ち、つり上がった眉の眉間がキュッと寄ってるせいで硬派な印象を受けた。幼いながらにがっちりとした無駄な肉のない体は夫人達を虜にするのだからミルエラと同い年の令嬢達が惚れてしまうのも無理はない。
「お招きいただきありがとうございます、初めましてブルクルム辺境伯令嬢。」
「わ" ...わた...」
初めて緊張で吃った。
2年もしまい込まれていたものが内側から溢れ出てきて、これが一目惚れというものだと初めて知った。他の令嬢達が惚れてしまうのも無理はない、守は7歳にして大人びており俗に言うイケメンなのだから。
「私の、事はミルエラとお呼びください...!将来、夫婦になる...ので、...すから...」
「それでは私のことも守とお呼びください。」
こんなにかっこいい方が婚約者だという事に今更ながら照れてきて声は小声になっていく。その反応とは正反対に守はとても冷めていた、持参できた髪飾りをミルエラにプレゼントとして渡すがその行動は作業的なもの。
「では私は屋敷に戻っていますので此処は小さいお2人で楽しんでください」
アルヴィンは守に一礼すると邪魔をしないように屋敷へ戻って行った、だが "小さいお2人"の言葉に守は不機嫌そうな顔を一瞬すると浅いため息をついた。
「私つい最近、守様の事を好きだと話している令嬢達が許せず、叱ってしまいましたわ。だってそうでしょう?...守様は私の婚約者なのに他の令嬢が好意を露にするのはこの私に失礼よ」
(この女、エリーナ嬢の言った通り酷い女だな)
中央都ではミルエラは悪女として有名でその噂は守の耳にも入っていた、そして以前助けた事がきっかけで偶に会うようになったエリーナ嬢からミルエラが自分を虐めたと聞いていた。だから今回会うことにしてミルエラを見極めようと思ったが噂の通りに傲慢で性格が宜しくない。人を虐めた話を "叱った"と言う辺りで守ら呆れてしまい、共にお茶をするのも不愉快に感じてきた。
「ミルエラ嬢、どうやら貴方は私の婚約者には相応しくないようだ」
「えっ...?」
「陰一族に相応しくない貴方といるのは気分が悪くなる。この婚約は考え直させてもらう。それに俺は"女性に興味などない 私が好きなのはリュウ様だけだ"」
守は厳しい口調で叱りつけた後、ミルエラをサンルームに置いて出て来た。女性に興味が無いという発言に思考は固まり動けなくなってしまった、婚約者が好きなのは婚約者の主君であり男の子だったから。これが綺麗な女性なら納得出来たが理解するのに時間がかかり我に返って慌てて追い掛ける。なのにミルエラの方を振り返ることもなく、呼び止める声に耳を貸すことなく馬車に乗り込むと御者台にいる者に出発する様に命令をした。
守がブルクルム家に滞在した時間は経ったの10分、ミルエラが怒らせて帰ってしまったという噂は忽ち広がりミルエラの悪い噂は更に加速をする事となった。その噂を主に広めたのは守に恋をしているエリーナ嬢とその取り巻きの令嬢。
和屋敷に戻った守は早速婚約破棄の話を父親にした。
「この婚約、無かったことにしてください」
「何故?」
「ミルエラ令嬢は人を貶めるような人物だからです。」
「陰一族にはそういう人物も必要だ、何故我らが"陰"と呼ばれるか分からないのか?主の為 陰で暗躍する役割があるからだ。その為には人を貶めることも必要だ。そんなくだらない事で7年もの婚約を無かったことにしたいならそれ相応の対価を払え。」
「対価...とは?」
時間など与えられるわけがない、そんな異能もない。ましてや婚約を決めたのは俺ではないのに何故自分が対価を払わなければならないのか。守にはそれが分からなかった、婚約は家同士の契約であって守の一存でどうにかできるもので到底ない、それを理解できない年頃の守は最後まで納得しなかったが父親に部屋を追い出された。
「ミルエラ、大丈夫よ。きっと守様は誤解をしただけだわ」
「でもお母様...守様は私を嫌いになったに決まってるわ...それに守様の好きな御方は...」
ただ会いたかった。
ただ好きになって欲しかった。
ただそばに居るだけでよかった。
どうしてこうなってしまったのか、守が女性に興味が無いなら自分はどうなるのか、男性同士では世継ぎが出来ないから自分は子を産むための道具なのだろうか、色々な悲しみでミルエラが部屋から出てくる事は無かった。7歳のミルエラには初恋の人に嫌われるという事実は辛くて食事も喉を通らず遂には倒れてしまった。
「お嬢様、お食事を食べてください」
「... ...要らない」
お粥ですら食欲がわかない喉には通らない。
心配になったアルヴィンは陰一族と連絡をとる事にした、そして陰一族のご当主様から返事が書かれた手紙を持って来たのは守だった。
「守様...我が娘の見舞いに来てくださったのですか」
「そうだ。」
自分のせいで倒れてしまったのを父親から聞いた守は主君になる如月家の後継者 如月リュウと共にいる時間をお見舞いに裂かれてイラつきも抱えていた。
そんな事も気付かないアルヴィンはミルエラの部屋まで案内をし、ノックをしてから扉を開けた。部屋の中は一面ピンクと白を基準とした女の子らしい部屋になっておりベッドの上には顔色を悪くして横になっているミルエラの姿があった。
悪女だから仮病でも使って自分を呼び出したのかも知れないとエリーナ嬢から聞いていた、それが嘘だと疑う余地がないほど守の中でミルエラは悪役令嬢だった。
「守様、来て下さったの、ですね...」
無理をして起き上がろうとするミルエラをアルヴィンは支えて寝かせようとするも、ミルエラは守の前では完璧なレディで居たいようでアルヴィンを拒否。けれど辛いのか呼吸は上がっており唇は真っ青、具合が悪そうなミルエラを見て罵倒する言葉を頭の中で考えていた守は口を噤む、ただそれは演技が上手すぎるのを感心したからであって心配をした訳では無い。
「倒れたと聞いた」
「大丈夫です、守様のお姿を見れただけで幸せです」
「... ... 食事は食べれているのか」
「心配して下さるのですね」
向日葵のように暖かい笑顔を見せるミルエラと視線を合わせられなかった、聖女の様に笑うミルエラに不快感を感じたのだ。
エリーナ嬢は、ミルエラのあることないことを守に吹き込んでおりその話を守の主君である如月リュウが面白がって興味津々に聴いているから恥ずかしかった。
──守の婚約者は悪女だ!
主君にそう言われた時の惨めな気持ちはきっとミルエラには分からないだろう、齢4歳の主君に笑われて恥をかいたのが屈辱なのだ。
「陰一族に弱い者は要らない、それでは主君を支える事も出来ないだろう」
「...申し訳ございません」
アルヴィンは2人の関係に口を出すことはしなかったが弱っている娘に厳しい事を口にする守は一族を守る次期当主としては立派だが夫としては最低だと思った。まだ子供だから気遣いが出来ないだけでミルエラを嫌っているなんて微塵も思わなかったが言いたい事だけ告げて帰って言った守を見送ったアルヴィンは陰一族との婚約を無かった事にしてもいいと話した。
「どうして?私は守様が良いの。好きなの...守様に見合う女性になるわ、守様が私に興味をなくても頑張るわ...だから...そんな事言わないで...」
コバルトブルー色した大きな瞳から涙を溢れさせるミルエラは心から守を愛していた、その気持ちは今の守には届く事など無いのにただただ一途に守を支えられる女性になれるようになるからそんな事言わないで欲しいとアルヴィンに泣いて縋った。
その日から、ミルエラは元の心優しい子に戻った。
体調が回復してからは花嫁修業を続けて、守へ無理を言う事も無くなった。
✱✱✱✱✱
10歳になりミルエラはエリートや金持ちしか入れない"王立ロゼストン学園"に入学した。大陸から2000kmも離れた孤島というには大き過ぎる一国の面積がある島に学園は建っている、そのため「要塞」としても有名だった。様々な学科があるが琥珀学科が1番の難関であり先祖代々通う者、琥珀上層部の子や琥珀に入る才能のある者が多く入学している。
「守様も居るだろうね、挨拶しなくていいのか?」
「良いんです」
入学式が始まる前にアルヴィンに話し掛けられるがミルエラは守に嫌われたくない気持ちが前のめりして会う事すら怖くなってしまっていた。
学園の中はお城と似た造りになっており入学式の会場である歌劇場の外観は外観や内装も目を見張るほど素晴らしい造り。中のバルコニー席は5層になっており、基本的に自由席となっているから何処に座ろうか迷って居ると陰一族の当主 成弥と守の姿が見えた、向こうもこちらに気付いたのか近づいてきた。
「お久しぶりですアルヴィン辺境伯、最近はお茶会やパーティの誘いが無くて寂しかったですよ」
「お久しぶりでございます、成弥様。頻繁に誘い過ぎて居たと自重していたんです」
「ハハハッ、何をおっしゃる。何れ夫婦になる2人のなのですから会わねば。この子は如月家のご子息ばかりと居るせいでレディの扱い方が分かっていないんです、それは父として私の責任でもある。申し訳ない」
守にそっくりの姿をしている成弥はとても気さくな人で、ミルエラの噂も聞いているのに噂は噂だと飲み込まずにミルエラの優しさを見抜いている男の1人。ミルエラは守に抱きつこうとせずに視線を伏せたまま淑女の挨拶を行ったあと父の傍に着いていた。ベタベタと馴れ馴れしく触ってくることも無ければ淑女として成長したミルエラは美しく、守は戸惑った。
「また後ほど話しましょう」
父親同士の会話が終わるとミルエラは軽く会釈をして傍を離れた。
守に嫌われたくない一心で好いてもらおうと行動した今の行為は合っていただろうか、何か粗相を侵してはいないか、守を不愉快にさせていないか、全てが不安で押し潰されそうになったがアルヴィンが手を引いて歩いてくれるお陰でミルエラの顔に笑顔が戻る。
入学式が終わり、ミルエラは悪評のお陰で一人ぼっちだったがその方が気が楽でよかった。噂話が好きな令嬢達は未だにミルエラの陰口を口にしておりその筆頭がエリーナ嬢だ。
「ご婚約者の守様に婚約破棄を突き付けられて泣き脅しで今も関係を続けてもらっているとか...同じ貴族の娘として恥ずかしいわ」
「ふふ、辺境伯令嬢には初めから勿体なかったのよ」
「守様と別れても悪魔の娘となんか誰とも結婚したくないでしょうね」
渡り廊下を渡る令嬢達の会話は中庭の噴水の傍に座っているミルエラに聞こえたが彼女達はミルエラに気付いて居ない、そんな噂まであるのかとミルエラ自身も驚きだった。こんな噂があるから守が自分を嫌っているんだとも理解した、初めから守は自分のことを信じて居なかったのだ。
「頑張っても無駄なのかしら...」
ミルエラは指に止まるチョウ型モンスターに話し掛けた。チョウ型のように人に害を与えないモンスターを無害奇形という、その反対に人に害を与えるモンスターを有害奇形という。そのチョウ型モンスターを愛でている向日葵のように優しい笑顔を守は渡り廊下から見掛けた、ミルエラの嘘偽りのない笑顔は純粋に綺麗だと見惚れてしまうものだった。
「守、行こう。」
「ああ、今行く」
友人に声を掛けられた守はミルエラから視線を逸らすとその場から離れて移動教室先に向かう。その日、学園の生徒はデビュタントの話を教師からされた。
デビュタントは初舞台となる舞踏会のことを総称している。伝統的なだけに参加資格は厳しく、家柄や学歴だけでなく優秀な者しか参加は許されていない。その点、ロゼストン学園にいる子女(息子と娘)は家柄も学歴も申し分なく琥珀の幹部の子も多い。当然、参加する子女にはエスコートしてくれる相手が必要だ、婚約者や許嫁がいる子はその相手と参加するが1年生は親にエスコートしてもらうのが習わし。
守は出席しないつもりだったが、実家からミルエラを誘うようにという命令が出て仕方なく誘うため授業終わりにミルエラの居る教室に赴いた。
「やめて!!」
ミルエラの声が聞こえてきて教室の中を覗くと、エリーナ嬢を突き飛ばしている場に遭遇した守は何をしているのかと眉間にシワを寄せた。エリーナ嬢はミルエラに声をかけただけで突き飛ばされたと己に言ってくるがそれに対し弁解をしようともしないミルエラに苛立ちを覚えた。
「事実なのか」
「...どうせ、貴方様は何をおっしゃっても信じてくれないではないですか」
ミルエラはエリーナ嬢に嵌められた自分を嘲笑った、守が来るのを分かっていてミルエラの可愛がっていたチョウを踏みつけようとしたのだ、それを止めるには突き飛ばすしか無かった。尻もちを着いてしまったエリーナ嬢の打ち所が悪かったら大怪我をしていたかも知れないが自分を中傷する声に疲れたのだ、反抗だってしたくなる。
「...。デビュタント当日、寮の前まで迎えに行く。」
「... ...え?」
「実家からの命令だ、俺だって行きたくはない」
守の行きたくないは、パーティ自体が嫌いだからであってミルエラと行きたくないという訳では無い。だが、ミルエラは勘違いをした。
「...ならば行かなければ良いのです」
「なに?」
「...いいえ、なんでもありませんわ」
ミルエラは守に頭を下げたあと先に寮へと戻った、エリーナ嬢と2人で残された守だが手を差し伸べることも無く背を向けて学園にある稽古場へ足を向けた。
デビュタントは憂鬱だったが 久しぶりに3歳年下の主君 如月リュウに会えると言うことで守は浮かれていた、当日を迎えるとミルエラは髪を編み込みで纏め、ピンクを基準とした大人しいドレスを着て待っていた。
「待たせたか」
正装姿で現れた守は美しいと思えるほど完璧でミルエラは頬が染まって行くのを感じてしまった。
(ダメよ、この人は男の人が好きなの。私は仮の妻になるだけ)
「...どうした?」
「いいえ、待ってなどいません。」
「行こうか、リュウ様はもう来てるはずだ」
ダメだとわかっていても好きという気持ちは止まらない、もしかしたら今日だけは自分を見てくれるかもしれないと期待をしたミルエラの心にドッと岩が落ちて来たように苦しく感じた。
会場のダンスホールに到着して守にエスコートされながら中へ入ると煌びやかな内装に似合った音楽が優雅に流れており此処が学園だと忘れてしまうほど時の流れが違うようだった。
「守〜 !見つけた!」
人の波を逆らうように出入口へと走ってくる少年は守に抱き着いた、女の子のように可愛らしい顔立ちをしているが正装着は男性用。守が膝を着いて挨拶をする相手は如月家の者しか居ない、ミルエラは直ぐにこの子が如月リュウなのだと気付いた。
「お初にお目にかかります、ミルエラ・ブルクル...」
「お前が悪女か!」
ミルエラの挨拶を遮ったリュウの声はこの会場の中に響き渡った。流石の守もそれには驚きを隠せず、ミルエラへ視線を向けると彼女は笑っていた。周りの視線が刺さるように向けられる中で優しく微笑む彼女は綺麗だった。
(まるで...噂が嘘のようだ...)
守は自分の心の中の呟きに固まった、何故自分は噂を本当だと信じたのか。それが嘘だとどうして疑わなかったのか。エリーナ嬢が嘘を着いていたとしたら今まで自分は彼女の何を見てきてのか分からなくなってしまった守にとって、貴族達との挨拶だけでなくこの会場に居るのが苦痛になってしまった。
反響ありましたので 次話書こうとおもいます!
少々お待ちを!!!
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「世界一嫌われる子供に素行の悪い神様が転生?!〜転生前は良い子ちゃんで死んだのでとことん悪役を目指す事にした!〜【仮】」の番外編となっていますが此方のお話だけでも大丈夫なように書いています!