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罪の記憶

 むせるほどの血の臭いが鼻をつく。


「アハハハハッ! ハッハハハハハハハ!」


 無数に聞こえる悲鳴が、耳をつんざく。

 脳無しのNPCのくせに、同じような声で()くんだな――そう冷めた頭で思うが、胸は少しも痛まない。だってこいつらは文字通りの脳無しだ。ピンク色の中身が見えようが、それがドクドク動いてようが、赤い血がどれだけ流れようが、機械の中身と同じ。似ているだけのニセモノだ。


「ハハッ、おっもしれぇ!」


 なんでこんな面白いことを知らなかったんだろう。

 早くこうすれば良かった。そうだ、きっとククリアもこの為に能力を授けてくれたに違いない。


「最ッ高だよこの遊び!」


 二振りの剣が、指の動きに連動してあちこちを舞う。

 血しぶきが飛び、肉が崩れ落ちて折り重なり、動かなくなる。


「お、的が無くなってきたな」


 辺りにはおびただしい数の死体が、山となって積まれていた。

 さすがに城の近くは狩り尽くしてしまったらしい。何人か逃してしまったので、もしかしたらすでに城下町の端までウワサが広まっているかもしれない。

 逃げられる前に、もう少し楽しみたい。


「まだまだ遊び足りねぇよ」

『……ね、楽しい?』


 ふと気付けば、傍にレリナが立っていた。

 半透明のその姿は、赤い水溜りを透かしている。


『これ、本当にジェクスが願った事だった? わたしとの約束、忘れちゃった?』

「うるっせぇなあ!」


 幻影めがけて双剣を振るう。

 だが辺りの肉塊と違い、少しだけ姿がブレただけだった。レリナはまた喋りはじめる。


『うるさいなんて言わないで。ちゃんと聞いて』

「うるせえ消えろ! 幻覚のくせにッ!」


 金の目が見開かれ、そこからポロポロと涙が零れた。


『ひどい……。どうしちゃったの、ジェクス』

「とっとと消えろって言ってんだろ! うざったい幻覚も……目障りなNPC共もっ……! 全部全部、消えてなくなっちまえッ!!」


 強く念じたせいか、レリナの姿は今度こそ掻き消えた。

 後に残ったのはジェクスと、散らばる肉塊だけだ。


「こんな世界、ブッ壊れちまえばいいんだよッ!!」


 彼女が、レリナがいないなら。


「いらねえよ、こんなクソッたれな世界ッ!!」


 いつかは夢に見ていた。

 世界を救う己の姿を。

 愛した女性と共に幸せになる、未来を。


 幼い子供のように、

 呆れるほど、純粋に。


 その夢が踏みにじられた時。


 人はこうして、化物になる。



  ◆◆◆



【〝憤怒〟。それがお前に与える罪の名だ】

「ありがとうございます」


 深々と頭を下げるジェクス。彼の前には、畏怖すら覚える絶対的な存在感を持つ男が立っている。

 牢獄の監視を易々と抜けたその男は、看守を一人残らず殺し、全員の牢の扉を開け、言い放ったのだ。


【これからワタシは、この世界を壊すための計画に着手する。付いてくるなら、力を与えよう。その罪を受け入れた時、お前たちは狂った世界を破壊する、真の意味での『救世主』となるだろう】


 全員がそれを受け入れ、ジェクスもまた罪を(たまわ)った。


『なんか、悪役みたい。似合わないね』

「うるせぇ」


 誰もいない空間に向けて呟いたジェクスは、瓦礫の山から一枚の囚人服を引っ張り出すと、それを肩にかけて歩き出す。

 彼が幼い勇者に出会うのは、もう少し後の事だ。




 END.

【幼神はまだ夜明けを知らない・外伝 ―憤怒の王、ジェクス・アルスタッドの記録―】を最後までお読み頂き、ありがとうございました。

彼についてはあまり深く掘り下げる事が出来なかったので、小出しみたいな形ではありますが、外伝として纏めてみました。下手したら主人公よりも重いですね……(笑)

作中でのジェクスと重ねながら読んで頂けると嬉しいです。

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