STEP9-3 騎士長のクーデター~勘違い神王は子猫さまにジョブチェンジさせられてしまったようです!~
翌朝、俺はナナっちの偉名王就任について、各国ホットラインに電話してまわった。
ちゃんとした国としては現状成立しえないし、王さまといってもいわゆる『イベント特使』的な立場で、というと、感触的にはいいかんじだった。
いっそのこと“勇者ナナキ”の世界的人気にあやかって、五国合同のイベントにしちゃおうか! 的な感じで、各国での検討が始まった。
そのことを伝えると、ナナっちも照れながらOKしてくれた。
笑顔をとりもどしたやつは、ロク兄さんと一緒に調査結果のとりまとめに精を出している。
ほかには大きな問題もなく、あしたにはイザークの婿入り式典の打ち合わせ。あさってには、やつとティアさんもいっしょに、例のお買い物の予定だ。
なにもかも、順調に滑り出した感じだった。
俺たちの式は今年六月と(昨晩)決まったので、来週にはウェディングプランナーの資格を持つ奈津さんをまじえて、具体的な打ち合わせ。
アズールとちゃんと話してみたかったということについても、昨日でいちおうひと段落。相談ごとを通じての対話ではあったが、信頼感はそれなり、築けた気がする。
あとはもう少し落ち着いてから、改めて話すことにしたい。
さいわいナナっちが懇親会としてのビーチパーティーを考えてくれていた。
それを、ナナっち特使派遣記念パーティーもかねて開催すれば、そしてそのときにでも話すことにすれば、万事いい感じにおさまりそうだ。
そうなると、また気になってくるのはあの問題。
スノーが言葉を濁した『なにか』。
そして、サクが隠している『何か』。
天啓がおとずれたのは、ちょうどコーヒーブレイクの時間だった。
頭の中、猛スピードで三回検証した――よし、どっから考えてもスキのない推論だ。ここまでつめたなら、スノーも答えあわせに応じてくれるだろう。
そんなわけで俺はその後、つとめて軽い調子でスノーを誘い出すと、何食わぬ様子で執務室までつれてきた。
この話は他の人には、特にサクとルナさんにだけは聞かせられないのだ。
しっかりとドアを閉め、デスクの影にしゃがみこむと、声を潜めて問いかけた。
「スノー。単刀直入に聞くよ。
――サクはルナさんを好きなんじゃないのか?」
「はあっ?!
いやちょっと、……どっからどーしたらそーなるのよっ?!」
「え……えぇっ?」
* * * * *
完全に予想外と言ったようすで、スノーは目をむいた。
いや、そのリアクションは俺も予想外だ。俺は焦りつつも説明を試みた。
まず、スノーが言葉を濁していた件について考えていたら、ふと思い出したのだ。
スノーは、コイバナ系になると言葉を濁す。
たとえば、あの時。
イザークがユキマイ砂漠にやってきて、みんなで道の駅の銭湯にいった帰り道。
ナナっちのコイバナになったとき、スノーは『不公平になるから』と言葉を濁した。
だが、似たようなことはその前にもあった。
スノーが転生して初めて、俺のスマホにメッセージを送ってきたとき。
スノーはサクのことで、思わせぶりに『ないしょないしょ』と言っていた。
俺への連絡が遅れたサクへの仕返し、として。
つまりこれはサクが『解決に俺の助けを必要とする、コイバナ系の秘密』を抱えているということだろう。
そして、サクの悩みにもとづく地雷が発動したのは、ちょうど俺とルナさんの縁談について話していたときだった。
わからないことがある、と言っただけなのに、サクは様子がおかしくなった。
ここまでそろえば、全ての答えが明らかになる。
サクの悩みは、ルナさんへの禁断の思慕。
そしてそれが、スノーが俺に、ハッキリといわなかったことなのだ!
「って、考えたんだけど……」
「いや、ちょっとまって、えええ……
その、いや、推論の大筋としちゃ、間違ってないわよ?
でもその……ルナおねーちゃんを好きってのはちがうから! それはホントに違うから!」
「ええっ?!
じゃ、じゃあもしかして、スノーのほうを……」
そのとき、前触れもなくドアが開いた。
みれば、そこに立っていたのは、表情を消したサク。
「サ、サク?! ちょっ、いい今取り込み中なんですけど!!
っていうかどうやってカギ……」
「破壊した」
「はああ?!」
いいつつサクは、ずんずんと距離を詰めてきて――
俺はそのもふもふに顔を埋めたまま思案していた。
正直に言おう、気持ちいい。
しかし、どうしてこうなった。
とりあえず緑色のもふもふから顔を上げて、俺は仰天した。
そこには、サクの顔をした巨人がいたのだ!!
「ぴゃああああ?!」
そいつときたら巨人も巨人、顔だけでも俺よりゆうに大きいだろう。つまり身の丈十数メートルは下らないはず。
思わず叫び声を上げれば、巨人はでっかい手を伸ばし、俺の頭を撫でた。
優しく、しかし、悲しげにこう言って。
「よかった、やっと目覚めてくれたか……
すまなかったサキ。だがもう、こうするしかなかったのだ。
あとはルナとシャサたちに頼んである。すまない。少しだけ、待っていてくれ」
「ミ、ミー……?!」
それはサクの声だった。いや、この撫で方といいなんといい、なんというか、……つまりその巨人は、サクそのひとだった。
いったいどういうことだ、そういおうとした。
けれど、俺の口から言葉は出ない。
かわりに出てきたのは、まるで子猫のような高い声だけ。
なにこれどうなってるの、ええっ?!
あわてて見回すと、俺のよこにはでっかい、白い子猫さんが眠っている。
そう、どうみても、俺とおんなじくらいの大きさのもふこさんが。
「みゃっ、みゃあああ!!」
か、かわいい。っていやそうじゃない。
子猫さんってこんなにおおきかったでしたっけ?!
喜びとともに驚愕すれば、またしても俺の口から猫のような声。
なんとなく、いやな予感がした。
おそるおそる、自分の身体に目を向けてみると――
そこには、まっしろい、いちめんのもふもふがあった。
2019/05/05
この「部分」初出の要ルビ名(人名・地名など)にルビを追加いたしました。
丸が二個ついてました。
天啓がおとずれたのは、ちょうどコーヒーブレイクの時間だった。。
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天啓がおとずれたのは、ちょうどコーヒーブレイクの時間だった。




