表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
咲也・此花STEPS!! 3~もと・訳ありフリーターの俺たちが青い空へと旅立つまで~  作者: 日向 るきあ
STEP9.そして俺たちは、旅立ちを決意する

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/49

STEP9-0『アユーラのほし・エリカひめのおはなし』~8.旅のおわり、そしてエリーの独白~

2020.07.14

イメイとユイメイの誤表記などを修正しました(詳細はあとがきに)

 エリカひめは長老たちに頭を下げ、お城につれていってもらいました。

 そうしてまずは、長い旅のほこりを、もくよくでさっぱり清めました。

 うつくしいドレスをまとい、かみをととのえて花をかざり、顔にはおけしょうをしました。

 するとエリカひめは、すっかりときれいなお姫さまになりました。


 けれど、エリカひめのかおには表情がなく、口をきくこともほとんどありません。

 出された食事にも、手をつけぬままでした。

 みんながエリカひめのことをしんぱいしました。

 しかし、まずはとにかく、王子さまとの対面をすませてしまうことになりました。


 じじょたちに連れられて、王子さまのへやの前にきたエリカひめ。

 その目のまえで、静かに、ドアが開かれます。

 つつましくヴェールをかぶったエリカひめは、うつむいたまま一礼しました。

 王子さまはエリカひめにかけよります。

 そして、そのかたをやさしくささえて、言うのです。


 ああ、やっとお会いできました、わたしの愛しいお方。

 どうぞ、お顔を上げて、楽になさってください。


 その声にエリカひめは、はっと顔を上げました。

 深くやさしい、はれやかなお声は、幼いころにきいたもの。

 はたして目の前にいた方は……


 ああ、見間違いようもありません。

 銀色のかんむりをひたいにつけ、りっぱな服をきて、うつくしいお顔をしたそのお方。

 そう、それは、ほかでもない――

 さばき手として、西ノ島のために力を尽くしてくれた、だいすきなハルードさまでした!


 エリカひめの目から、ぽろりとなみだがこぼれます。

 さばくの王子との結婚をことわり、西ノ島をでたその日から、いちども泣いたことがなかったエリカひめ。

 かのじょはいまや、あたたかな胸にだかれてなみだを流す、ただのひとりの女の子でした。

 何年ものあいだ、自分だけを待ちつづけてくれていた、愛しい人のうでのなか、エリカひめはひたすらに、しあわせをかみしめるのでした。


 ふたりの『二度めの』結婚式は、盛大ではなやかなものでした。

 みんな、みんながかけつけて、おいわいしてくれました。

 島の人たちはもちろん、さばくの国や、東の島のひとたちもみんなです。

 残念なことに、奈々希さまたちは、お祝いにはこられませんでした。

 偉名地方は、あれからすぐに海に沈んでしまったため、新しく住む場所をさがして、いそがしくしていたのです。


 でも、その何年かあと、奈々希さまからもお手紙がとどきました。


『しあわせな結婚おめでとう、エリカひめ。

 これまでたくさん苦労したぶん、どうか、しあわせになってください。

 そしていつの日か、私たちの国にも、遊びにいらしてくださいね。

 それまで、西ノ島にまけないくらいの、しあわせな国にしておきますから。

 どうか、おげんきで。ハルードさまにも、よろしくお伝えください』


 そのころには、西ノ島に住む人たちはみんな、かつての争いを水に流して、なかよく暮らすようになっていました。

 エリカひめとハルードさまが、なかよくしていたおかげです。


 西ノ島はやがて、東の島のひとたちともいっしょになって、アユーラ連邦共和国という、大きく自由な国をつくるのです。


 けれどそれはまた、べつのおはなし。

 ながいながい、苦難のたびをのりこえて、西ノ島のひとたちをひとつにした『アユーラのほし』エリカひめのおはなしは、これでおしまいです。


 * * * * *


 ――このときにはあたし、“由羅ゆらの戦姫エリカ”は、カメオの中に封じられていた。

 だから、この結末を、あたしは“知”らない。

 そう、あたしは知らない。知るもんか。


 あの女によって目覚めさせられたとき、あたしの知る景色はどこにもなかった。

 数千年のときが経ち、そこはもう、あたしの知る西ノ島ではなかったのだ。

 当時の係累はもちろん死に絶えている。もちろん、ハルードさまだって。


 由羅の民たちは、すっかり社会に溶け込んだようだが、その社会もすっかりと複雑になっていて、もはや、あたしにできることはなにもない、そう感じられた。


 いったい、どういうつもりなのだ。

 こんな知らない時代に一人、目覚めさせられたところで、一体あたしにどうしろというのだ。

 そういうと、あの女――わたしは言った。


 大丈夫。わたしたちの子孫である女の子が、あなたに協力してくれるわ。

 知識と身体を、共有させてくれる。

 彼女の騎士たちも、協力を約束してくれた。

 だから、挑戦してごらんなさい。

 もういちど、偉名の土地で見た夢に。


 それと、あの子も転生してきているの。

 七瀬奈々希。

 あなたを愛したあの子なら、きっと力になってくれるはずよ。



 偉名宮を管理する夜族らに愛されていたあの子は、『真の皇帝』として管理システムに登録されていたらしい。

 もっとも当の本人は、それを知らぬまま死んだようだけれど。


 アズールが死んで唯名帝国は崩壊、領土までも海没し、国民の多くが難民となった。

 奈々希はかれらのためにと王となり、新たな国を作ったはいいが、国情が落ち着いたらすぐに退位。民主議会に後を任せた。

 ――いや、それだけならばまだいい。

 こともあろうに『あとは一市民として国を支えたい』などとのたまい、七瀬総員で下野したのだ。

 貴族位すら手放し、ただの騎士家として。

 帝国時代にあれだけ、欲得ずくの貴族らから迫害されてきたというのに。

 ほんとうに、学習能力がないとしか思えない。


 貴族ですらないくせに、圧倒的な人気を集める七瀬家は、案の定ときの政権に邪魔者扱いされた。

 国内ナンバーツーだった瑠名家により、圧迫され、追いやられ、奈々希は苦労のうちに人生を閉じたという。


 奈々希の退位時のことばを逆手に取られ、政界進出の道を閉ざされた七瀬は、アウトローの道へと追いこまれていった。

 そして数千年後。七瀬家の嫡子として転生してきたあの子は、そんな状況を救うでもなく、ただ自分たちの運命を嘆き、サクレア王の転生に保護され、甘えていたという。



 ほんとうに、どうしようもない子だ。

 愚かで、弱くて、あまったれ。

 そのくせいじっぱりで、どうしようもなく、いらいらさせられる。


 あたしよりほんとはずっとずっと強いのに、あの子は、積極的に剣をとろうとしなかった。

 あたしとともに敵を倒してくれていれば、あたしたちはもっと早く、もっとしあわせになれたはずではないか。そんな気持ちもあった。


 だからあたしがそのぶん戦ったのに、あの子はそれを止めようとした。

 そしてあの子だけが、皇位継承者として登録された。

 あの子の制止を振り切って征西軍に入り、唯名を出たのはあたしだし、あの子だけを登録したのはあの子じゃない。

 わかっているけど、不公平じゃないか。そんな気持ちは止め切れなかった。


 ――そして、それでも、あの子の優しさは愛おしかった。

 どうしても、心底からは憎みきれなかった。


 だから、あたしは決意したのだった。

 優しい、優しすぎる幼馴染に押し付けられた、苦闘の御座の簒奪を。

2019/05/05

この「部分」初出の要ルビ名(人名・地名など)にルビを追加いたしました。


2019/07/17

名前間違っておりました……orz

偉名帝国→唯名帝国

(2020.07.14にも二か所直しました。ごめんなさい。)


※ 偉名王、偉名宮、偉名地方はそのままで正しいですm(__)m


2020.07.14

偉名の人の多くと奈々希さまは、→奈々希さまたちは、

 ここは正確には『もと唯名帝国のほとんどのひとたち(イメイ地方に住んでたひとたち)と奈々希さま』なのですが、偉名だと誤表記っぽいかんじだし、かといってこう書くとくどいので、すこしぼやかしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ