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咲也・此花STEPS!! 3~もと・訳ありフリーターの俺たちが青い空へと旅立つまで~  作者: 日向 るきあ
STEP8.裏切りと逆転と

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STEP8-2 裏切りの黒(上)

「そんな! どうして……

 まさか、カグヤも?

 そんなはずない、だってさっきは沈黙してたのにっ!」


 ありえないはずのことが起きた。俺は思わず叫び声をあげていた。

 そう、南の七瀬の塔の権限を停止するとき、北塔からの反応はなかった。

 ハッキングされているのは南の塔つきの式神ロロだけで、北の式神カグヤは無事のはずなのだ。

 ただ、カグヤを動かせる者がいないから、沈黙しているのであって……

 しかし、ユーさんが優しく告げる答えが、俺を打ちのめした。


「ああ、カンタンなことです。

 あえて『カグヤ』は黙らせていたのですよ。

『北塔からの賛成票が来るわけない』と君が推測して、黙ったままでいてくれるようにね。

 いや、うまくいきました。

 あの時点で君がとっさに動議を出し、皇位継承権者としての本登録を要求していたなら、こうはなりませんでしたからね?」


 愕然とした。そう。

 俺のミスだ。どれもこれも。


 まずは最初に、イヤホンセットのすり替えに気付けなかったこと。

 つぎにあのとき。ユーさんがあんなになっていたのに、ほかのみんながほぼ無事だということに、不審を抱けなかったこと。

 そして今。カグヤがひそかにハッキングされている可能性を考慮せず、むざむざとエリカの提議を放置して、みずからの全権を停止されるままにしてしまったこと。

 ほんとうに、馬鹿だ、俺は。

 エリーが愛想を尽かすのも、無理はない。


 外から助けは呼べない。

 この室内に、助けてくれる人もいない。

 俺自身も、呪いの紐で異能ごと拘束されて、いま言葉のチカラすら手放してしまった。

 もう、何もできない。もう、どうにもならない。


 うつむいてしまった俺を、ユーさんがそっと抱き寄せる。

 耳元で流れるのは、静かで優しいささやき声。


「だいじょうぶ。あなたは私の友。命をとりはしません。

 いいえ、脅したり、痛めつけたり、そんなこともいっさいしません。

 ただ、許してあげてほしいのです。あの、かわいそうな少女を。

 私のいとしい人魚姫が、本当の笑顔をとりもどせるように」

「にん、ぎょ、ひめ……」


 そのとき、ミーナの声が聞こえた。

 そちらに目をやれば、ミーナもこちらを見ていた。

 ユーさんがもう一度ぎゅっと俺を抱きしめて、立ち上がる。

 コンソールにむけ、その前で待つエリーにむけ、歩いていく。



 ――そして、運命のときは訪れた。



「お待たせしました、姫。

 心の準備は、よろしいですか」

「はやくして、ィユハン」

 ユーさんが慇懃に一礼すれば、エリーは震える声で促す。

 わずかに見える横顔、ルビーのような瞳は、壊れてしまいそうなほど硬い。

 対してユーさんは、まるでいつもと変わらぬように、もう一度一礼した。

 そしてすいと背中を伸ばし、両腕を広げた。


「かしこまりました。

 ……では、クシナ殿。

 我が風の公子の権限を持ちて、いまここに、大いなる議題を提起いたします。

 お聞き下さい皆々様。

 これなるは由羅が一の公子たる乙女、その名もエリカ・エトワール。

 我はここに、このものを王として推挙する。

 いざ、提起を。

『由羅の公子エリカ・エトワールを、新たな偉名のスメラギに』!

 力失いし七瀬の公子・奈々緒にかわり、誉れの玉座を継がせるべしと!

 さあさあどうか皆々様。嵐のごときご賛同を、伏してお願い致します!!」


 ろうろうと謡うようにはじまり、なめらかに流れ。

 最後はファンファーレのようにはれやかに。

 これが舞台ならば、間違いなく拍手が起きていただろう。

 かわりに響くのは、賛成を告げるシステムボイス。


『西塔、賛成です』

『東塔、賛成です』

『南塔、投票権なしにつき賛成とみなします』

『北塔、反対です』



「……え?」



 中央制御室に満ちた静けさ。

 その中にひとつ、少女の声が、落ちた。

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