STEP7-1 夏がいっぱい~いつかほんとのヒーローに~
翌日。
俺とアズ、そして亜貴はクーラーボックスにプリンをつめて、『調査隊一周プリンクエスト』に出発した。
まずはロクにいに。そして、ユキマイからついてきてくれたみんなをまわって、プリンを配る。
なぜか何人かに泣かれちゃったけど、喜んでくれてるみたいなので、そのまま次へ。
遥希さんはまだ、隔離室を出られなかった。
仕方がない。ガラスの側に立っていたミーナに遥希さんと、ちょうど室内にいた主治医さんの分のプリンを託す。
次は、すぐそこで様子を見ていたエリカと、彼女に執事よろしく付き添うユーさんだ。
「べ、べつにミネットが心配なんじゃないんだからね!」とあわてるエリカ、「姫はああいっていますが本当は心配なんですよ」とのたまって小突かれるユーさんにプリンをお渡し。
「プリンくださーい」
すると間髪いれず、ジゥさんがぬぅっと姿を現した……電飾つきのぴんくのわんこのきぐるみ姿で。
「いやっ、確かに気配はなかったけどよ!! 逆にそのかっこうでどうやって隠密できるんだよ!!」
「いや梓、むしろ隠密するのになぜその格好を選んだかから始めるべきじゃん?」
「あのさ、それ以前になんで隠密してたか聞いた方がいいんじゃ」
「愛です(はぁと)」
「……。」
うん、これは、もういいや。とりあえず、プリンを進呈して次へ。
ビーチのサンベッドでまったりしていたホークさんはプリンを即完食。
『おい! これレシピを! レシピを教えてくれっ!』と言われ、レシピ交換を約束したところにユーリさんがすっとんできて、彼女にもおいしいおいしいといってもらえてさあ次へ。
第五デッキで海を見ていた遥儚さんのもとへは、亜貴が向かった――あとは俺に任せろ、若い奴らは先に行け! と力強く親指を立てて。
なので、次は……
「あれで最後だぜ。
つーかナナ~、俺もそろそろ食べたいんだけどー。
プリンちょーだい! プーリーンー!!」
そういわれてみればそうだ。
俺の肩にかかったクーラーボックスのなかにはもう、プリンはふたつだけ。
俺の分のノーマルプリンと、よく食べるアズのために、特別にでっかくつくっておいたどんぶりプリンだ。
「よし、それじゃどこで食べよっか?」
「第二デッキがいい!
あすこ、うさちゃんとみーにゃんの逢瀬の場所だったろ? だから今は穴場なんだ。
明日になりゃーまたお二人さんの愛の巣になっちまうんだし、今のうち満喫しとこーぜ!」
「へえ! ちょっと悪い気もするけど、いってみよっか?」
* * * * *
そして十数分後。
第二デッキで景色とプリンを満喫した俺たちは、声を合わせてご馳走様をいっていた。
「ふあーしあわせ! やっぱスイーツはデカ盛りじゃないと!!
もー俺このままひるねしちゃおー」
「こーら、床に転げたら汚れるだろ?」
「いーのー。お風呂はいるからいー」
その言い草に、俺は思わず噴き出した。
まるっきりちっちゃな子供だ。でも、そこがなんだかかわいらしい。亜貴がメロメロになってしまうのも無理はない。
「じゃあさ、どうせならビーチ出ようよ。
サンベッドでちょっとお昼寝したら、海で遊ぼう」
「わーお! さんせー!」
なりだけでっかい弟を遊びに連れ出すような気持ちで、俺はアズをビーチに誘った。
アズは満面の笑顔でバンザイしてくれた。
まさか、こんな楽しい夏を満喫できる日が来るなんて。
つい先ごろまで、自分の生まれとふがいなさを呪ってた俺。
敵同士だった、こいつや朱鳥のお姫様。
それがいまは、同じ夏を楽しんでいる。
こんなに自由に。こんなに明るく。
そうだ。ユキマイに帰ったら、みんなでビーチパーティーをしよう。
その場で、こいつとサクやんを話させてやる。
そんなにぎやかな席で、俺とかも立ち会うなら、メイちゃんだってダメとは言わないはずだし、そうすればきっと、信じてもらえるようにもなる。
アズは、『梓』はこんなに素直ないいやつなんだって、この姿見ればわかってもらえる。
高校入って三年間、ずっとサクやんに守って導いてもらった俺だ。
こんどは俺が、おなじようにアズを助けて、サクやんの友達を増やしてやろう。
そうすれば、メイちゃんもまた、笑えるようになる。おやじや母さん、兄貴たちにも、受け入れてもらえるようになる。
「よーしそれじゃー競争だー!」
「こらー廊下ははしらなーい!」
――俺の胸は、そんな明るい未来への期待で一杯だった。
* * * * *
その夜。晩飯を終えた俺たちは、いまいちど、第二デッキに繰り出していた。
満点の星をちりばめた夜空、かすかに光る水平線をふちどる島影が、まるで絵本のよう。
波の音を乗せた夜風は、ほのかに暖かくここちよい。
野郎二人にはもったいないほどロマンチックなシチュエーションだが、せっかくの南国の夏休みなのだし、今日くらいは満喫してもいいだろう。
「やー今日は遊んだなー。もー一生分くらいあそんだわー」
「ほんとだね。
でも、帰ったらまた遊ぶんだよアズ。
俺ね、ビーチパーティー企画してんだ!」
「まじ?!」
「うん。ビーチバレーやったり、バーベキューやったり、花火もやるんだ。
楽しいことばっかり一杯詰め込んだパーティー。
そこで、みんなで一緒に遊べば、みんなもっと仲良くなれる。
ホントのお前のこと、みんなが知って、みんなが好きになってくれるよ!」
「ナナ、……」
一瞬お目目をきらきらさせたアズだが、すぐにその表情はくもった。
絶対そんなふうには行かない。そう思っていることは明らかだった。
「だいじょぶ、心配すんなって。
もちろん午後からはじめるし、しんどくなったら、一緒に部屋に戻ればいいよ。あとはサクやんとメイちゃんがなんとかしてくれる。
あくまで無理のない範囲で、楽しんでくれればいいから。
部屋に戻ったらさ、俺たちで遊ぼう。亜貴と一緒に、『ツイネク』のビデオ鑑賞会でもしよう。ケーキでも食べながらさ」
「おにーちゃんと見っとあとのハナシが長いからな~……
でもま、いっか。
ナナちんと二人っきりで部屋にシケこんだりしたら俺、明日の夕日拝めないもん」
「あ、あはは……」
そりゃないよ。そう言おうとしたけれど、アズの目は笑ってない。
たしかに否定はしきれないのだ。メイちゃんも、ロクにい以外の家族も、やはりアズには疑いの目を向けている。
「そ、そういったことをなくすためのさ、企画なんだよ。
だって、アズはもう“伝説の大悪神”じゃないんだ。
サクレア様を利用して殺した罪も、そうして愚かな帝国をつくった罪も、お前が殺されて帝国が崩壊して、もう雪がれてる。
今のお前は『蒼馬梓』っていう、新しい人間じゃないか」
「その『蒼馬梓』は、お前ら騙して脅して此花拉致らせようとした挙句、ダメとみたら使い捨て。家宝を強奪、勝手に作った末の妹を人質に、七瀬を世のさらし者にした。
お前ら親子をさんざん苦しめ、お前と此花を我が物にしようとした、最っ低の極悪人だぞ」
「そんな言い方……」
「じゃあどこが間違ってる?」
「間違ってない。でも、間違ってるんだ。
朱鳥政府に俺たちを要求したのは、俺たちを守るためなんだろ?
あのころの朱鳥の手に俺たちが落ちれば、それこそただの実験動物にされていた。
お前の所有というワンクッションを置くことで、最低限俺たちを守ろうとしてくれたんだ。
だって亜貴の時だってそうしてたって、俺は亜貴から聞いて知ってる!
極悪人のようなやりかたをとったのだって、馴れ合いが疑われればそこをつけ込まれるから」
「そもそもやってることが悪事だろうよ……」
「それも家族を守るためだろ!
そうしなくっちゃ、おじさんや亜貴が酷い目に遭わされるから!!
そんな優しいやつが、心からわるいことするわけないじゃん!」
俺が思うところをぶつけると、アズはあきれ返ったようにため息をついた。
「この地球上でそんなこと考え付くのは、それこそお前と此花と、うさぎちゃんと蒼馬親子くらいのもんだろうよ」
「ずいぶんいるじゃん……
っていうか、お前も含まれてるだろ?」
「俺は、お前らボコしながら笑ってた男だぞ」
「それでもお前は、俺を助けた男だよ」
あったかな手が頭に乗っかった。
わしゃわしゃわしゃ、と撫でてくれる。
「あんまよ、家族に無理させんなよ?
その上でだったら俺、そんなヒーローになってやってもいーわ」
「うん!」
しかたねーなー、と笑う顔。
うれしくってうれしくって、俺はやつに抱きついていた。
がんばろう。かならず俺も、アズとみんなを仲良くしてみせる。
俺がサクやんにもらったしあわせを、今度は俺が。
「絶対にお前を、しあわせなヒーローにする!
ダークヒーローなんかじゃない、ほんとのヒーローにしてみせるっ!」
降り注ぐような星空に、そよぐ海風に。
打ち寄せる波の音のすべてに、俺は誓った。
「だから、一緒にがんばろう!
こんどはずーっと、一緒だからな!」
するとアズも俺を抱き返して、ありがとよ、と言ってくれた。
ちょっと鼻声気味の、ちっちゃな声で。
2019/05/05
この「部分」初出の要ルビ名(人名・地名など)にルビを追加いたしました。
朱鳥とユキマイを間違えていました!
まずはロクにいに。そして、朱鳥から
↓
まずはロクにいに。そして、ユキマイから




