STEP7-0 ミーナと読む『アユーラのほし・エリカひめのおはなし』~6.さすらいのエリカひめ~
このあたり。最初に読んだときと二回目以降だと、ぜんぜん印象がちがうんです。
結末を知っているともう、もどかしくって!
エリカひめ、行っちゃダメー! っていうか、もう……ハイ!!
あえて多くは語りません! 今回も、はじめましょう!
* * * * *
さて、シャールが去った後には、あたらしいお代官さまと兵隊さんたちがやってきました。
お代官さまは、王さまからの手紙をもっていました。
手紙には、こうありました。
このたびのことで、さばくの国と、西ノ島はまるで仲たがいのようなことになってしまった。
このままではいけない。
さばくの国の王子と、その騎士たちをつかわすので、島のむすめのおむこさんとしてむかえてほしい。
そうすることで、さばくの島と西ノ島のきずなを確かなものにしましょう。
つよく、けだかく、紅玉のひとみもうつくしいエリカひめはぜひ、王子のおよめさんに。
王子も、こころよりそれをのぞんでおりますと。
それはいい、と喜ぶひとはたくさんいました。
けれど、エリカひめはちがいました。
ちいさいころからずっとずっと、敵だと思ってきたシャールたち。
そのなかまのようなひとと結婚しろ、なんて、じょうだんじゃないわ!
西ノ島のひとたちはみんな、心のやさしい人たちでした。
エリカひめだって、そうでした。
けれど、ちいさいころからずっとずっと、いかりを持ってまなび、きたえてきたエリカひめの心には……
いつしか、さばくの国のひとたちそのものへの、うらみが生まれてしまっていたのです。
エリカひめは、同じ気持ちを持つひとたちとともに、船にのって逃げ出してしまいました。
気がついたときにはもう、エリカひめの姿はどこにもありません。
島の長たちはしかたなく、王子さまにうそをつきました。
エリカひめは舟あそびをしているときに、どこか、沖へと流されてしまった。
生きているかどうかも知れぬまま、いつまでもお待たせするわけにはいかない。
大変申し訳ないが、べつのむすめと結婚してはいただけまいか、と。
すると、王子さまはいいました。
私のこころは、すでにエリカひめだけのものです。
そのお帰りを、いつまででもお待ちします。
騎士たちと、島のむすめたちの結婚はこころより祝福いたします。ですがどうぞ、このことだけは、このたびのことに免じ、お許しくださいませと。
けれど王子さまの結婚式は、みんながまちのぞんでいることでした。
しかたなく、よくできたみがわりの人形をつかい、花嫁なしの結婚式が挙げられました。
さばくから来た騎士たちと、そのおくさんになった島のむすめたちがしあわせそうによりそうなか、王子さまはひとり、いつまでもとおくの水平線を見つめていました。
……さて、東の島は、けわしい山脈によって四つに分けられています。
島の西側の大草原、中の原。
西ノ島のひとたちがシャールにおいだされ、にげてきた場所で、小さな都市国家がいくつもあります。
島の真ん中、山脈のおなかにある、ユキマイ高原。
とてもさむく、まずしい土地で、いまは土地の神さまをまつる一族だけがくらしています。
中の原から、山脈のすきまをぬけて東にゆけば、竜樹の地があります。
いくつもの川で九つに分かたれた、とても個性ゆたかな土地です。
さらに竜樹の地を経て、別のすきまを抜けると、そこがイメイ半島です。
ここには、かつてユキマイ高原に住んでいた人たちが、山脈をくだって住みついていました。
北半分にすんでいたのが、遊牧民族の瑠名。
南半分と、沖あいの島じまにすんでいたのが、農耕と漁業をよくする七瀬。
さらには、竜樹からやってきたひとたちも少しだけ、住んでいました。
瑠名・七瀬の両方ととなりあうようにして、北東から東海岸にかけての土地にすみ、バザールを開いたりしています。
このひとたちは、三倉とよばれていました。
もともとは、竜樹からイメイにやってきていた、キャラバンのひとたちです。
このひとたちはいつも、とてもすてきなものを持ってきてくれるので、瑠名も七瀬もよろこんで土地をわけたのです。
さて、王子さまが西ノ島でさびしい結婚式をおえたころ。
エリカひめたちは、瑠名の土地にたどり着いていました。
どこまでも広い、野生の馬たちの走る草原。
ここなら北の地でそうしたように、馬を飼ってくらしていけそうです。
けれどとつぜんやってきたエリカひめたちのことを、瑠名のひとたちはあまり歓迎しませんでした。
ここはもともと私たちが住んでいた土地だ。
もし受け入れてほしいなら、友好の証として、まずはおくり物か、お嫁さんをよこしてくれ。
そういわれて、エリカひめたちは困ってしまいます。
ほとんど、着の身着のまま逃げて来たようなもの。おくり物にできるようなものなんてありません。
かといって、さばくの王子との結婚から逃れてここまできたのに、また知らない人のおよめさんになれなんて……。
そこへ、七瀬のひとが申し出てくれました。
ならば、自分たちの土地へおいでなさいと。
おくり物や、結婚をむりじいなんかしない。ただ、西ノ島でまなんだことを教えてほしい。そして、いっしょにはたらいて、なかよくくらしてほしいと。
そういって、瑠名へのおくり物まで、かわりに用立ててくれました。
エリカひめたちは、あつくお礼を言って、七瀬の地の一角で暮らすようになりました。
由羅の民と呼ばれるようになったエリカひめたちは、西ノ島や中の原で学んだことを七瀬のひとたちに教え、自分たちもまたこの地のことを学び、ともにはたらき、なかよくくらし始めました。
面白くないのは瑠名のひとたちです。
そもそも、七瀬の人たちのことは、ちょっとじゃまに思っていました。
『ユキマイ高原から先におりてきたからと、南のよい土地を自分たちのものにして。
七瀬のひとたちがいなければ、ぜんぶ瑠名のものなのに。』
『しかも、きれいなお姫さまを言葉たくみにつれていってしまった。
きっと、うまいこといって、七瀬の公子さまに嫁がせるつもりにちがいない!』
瑠名のひとたちは、七瀬や、由羅のひとたちを攻撃するようになりました。
かれらはもちろん、困りましたが、三倉のひとたちも、困りました。
なぜって、ごたごたばかりのところでは、商売がやりづらいのです。
瑠名のひとたちは、三倉のひとたちや、彼らが使っている土地のことは、もちろんできるかぎり大事にしてくれました。
それでもやっぱり、まきこまれてしまうことはあったのです。
なんとか、戦いをやめてくれないか。
そう、三倉の長にたのまれれば、瑠名もむげにはできません。
七瀬、由羅と仲たがいをしている今、三倉にまでそっぽを向かれてしまえば、いくら瑠名でもおしまいです。
それに、三倉のキャラバンが持ってきてくれる商品は、いつもとってもすてきです。
それがなくなるのは、どうしてもどうしても、いやだったのです。
いっぽう、七瀬や由羅にとっても、それは同じことでした。
そこで、みんなでいっしょに集まって、話し合うことにしました。
そして、長い長い話し合いの末、こんなことを決めました。
これからは、お互いでけんかをするのはやめよう。
みんなでひとつの国を作り、お互い教えあい、助け合っていこう。
ほかの国ともやりとりをして、いろいろ学んで、豊かになる方法を探す。
そして、みんなでいっしょにしあわせになろう。
瑠名のひとたちには、新しい国の王さまになってもらう。
そして、みんなで支える。
もしもだれかが暴走しそうになったなら、とめてあげるようにしよう。
そんな風にとりきめて、イメイ半島はひとつのくに、偉名王国になったのです。
エリカひめも、王さまのりっぱなお城ではたらく、えらいお姫さまになりました。
エリカひめのいちばんのなかよし、七瀬の公子の奈々希さまも、同時にお城にあがるようになりました。
王都も、王都のそばの三倉のマーケットも。
由羅や七瀬の土地も、どんどん豊かになって、栄えはじめます。
みんな、あたらしい時代のまくあけに、胸をおどらせていました。
けれど、平和は長くつづきませんでした。
2019/05/05
この「部分」初出の要ルビ名(人名・地名など)にルビを追加いたしました。




