表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
咲也・此花STEPS!! 3~もと・訳ありフリーターの俺たちが青い空へと旅立つまで~  作者: 日向 るきあ
STEP5.おねだんはプライスレス/『神かっ!』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/49

STEP5-4 ため息の騎士長~朔夜の場合・2~

 この手はまだ少し震えている、そう感じた。


 瀕死のあいつを見つけたのは、草むらから抱き上げて連れ帰ったのは、俺だ。

 冷えた身体を抱いて暖め、つききりで看護した。

 深い緑の瞳が開き、ちいさくミィと鳴く声を聞いたときには、飛び上がるほどにうれしかったことを覚えている。

 春真っ盛りに咲く花のころだった。それによく似た色の肉球をもつところから『サクレア』と名づけると、人語を操れぬ口で真似ようとしてくれた。


 村の母猫に託しても、気付くと俺のあとをついて回っていたサクレア。

 追いつけば身体をよじ登ってきて、やがて俺の肩の上が定位置になった。

 さすがに、訓練の時はルナや、そのほかのものに託して離していたが、そのほかの時間はずっとずっと一緒だった。

 何もかもが愛くるしい子猫時代、思い出せば今でも幸せが胸を満たす。


 ヒトの姿となった後も、サクレアは甘えん坊のままだった。

 兄として、ヒトの振る舞いを教えると、なにもかも一度で覚えた。

 おっちょこちょいなところはどうやっても直らなかったが、それが逆に可愛かった。

 妹ルナに負けず劣らずの、自慢の弟。

 よく三人で、あの樹の下で遊び、疲れればそのまま昼寝をした。

 毎日楽しかった子供時代。

 目を閉じれば、昨日のことのように思い出す。


 そこで、時間が止まってくれればよかったのだ。

 いや、仲間とともに国を成したことは、後悔していない。

 けれど、あいつを、あの男をあんなにも近づけてしまったことを――

 そのために起きた惨劇を、俺は今も後悔している。


 俺は絶対に、この傷を癒してはならない。

 同時に、絶対あいつに、この傷を見せてはならない。


 だからゾッとした。

 はずみとはいえあんな風に触れてしまって。怯えた顔をさせてしまって。


 この傷を抱え続けることを納得はしている。

 あいつを守るため。必要なことだ。

 そう考えれば、耐えられないわけでもないのだから。


 それでも、やはり強く思う。あの過去を殺したい。

 いずれ、方法を見つけなければならない。

 それまでは、騙してでも、ときには脅すこととなったとしても、俺はあいつを“それ”から遠ざけなければならない。

 俺にできる限りのどんな“裏切り”も、“それ”に比べれば児戯に等しきものなのだから。


 ともあれ、今は優先事項が他にある。

 帰郷の準備。新たな入植者たちのこと。ユキシロ製薬内部のいろいろ。

 星空の下、ため息とともに雑念を吐き出して、俺は再び歩み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ