STEP3-4 天使のごほうび~ミーナの場合
2019/05/04
この「部分」初出の要ルビ名(人名・地名など)にルビを追加いたしました。
遥希、遥儚
わたしはいつの間にか、お気に入りの展望デッキへとやってきていました。
センティオの夜空は、いつでも星がいっぱい。
うっかり下を覗き込んじゃうと、底知れぬ海面が怖いけど、潮騒と風はさわさわと甘くて、心も体もやさしく洗い流してくれるみたい。
だからはじめてここにきた日から、この場所はすっかりわたしのお気に入りになっていました。
でも、そこでわたしはがっくり落ち込んでました。
だって。
「ああ、やっちゃった……
なにやってんだろわたし。
遥希さん、傷ついちゃったかも……」
「だれが傷ついちゃったって?」
「ぴゃっ?!」
そのとき、いきなり後ろから声がかけられます。
わたしはおどろいて変な声がでてしまいました。
うう、はずかしい。思いながらも振り返ると――
心臓がとまったかと思いました。
だってそこには。
「遥希さん! じゃなかった、星の王子さま……あっ」
あああああ、やってしまいました!!
もうわたしったら! いっつもこうなんだから!
「ああああの遥希さん、あのですねわたしいつもはその……」
「いつもそんな風に考えてるの?
周りの人たちを、おとぎばなしの登場人物になぞらえて。
キャスティングとか、考えてみたり」
「……はい」
もう、ごまかせません。はずかしいけど、白状することにしてしまいました。
だって、隠せそうな気がしないんですもの。
「飛び級とはいえ、もう大学生にもなって……子供みたいですよね。
ごめんなさい。
気をつけているんですけど、油断するとすぐ……
それになにかあるとすぐ、ああやってわたわたしちゃうし。
ほんと、はずかしい……」
「いいと思うけどな」
「えっ?」
思わず聞き返しました。
遥希さんは、笑ってます。
それも、とってもやさしくて、あったかいお顔で。
「そのおかげで昨日は、救われたわけだし。
キミはたしかにあわてがちだけど、それでいてシゴトはきちんとしてるみたいじゃないか。
すごいと思うよ。それだけのポテンシャルがあるってことだ」
「ふ、ふわぁぁ……」
わたし、夢を見てるんでしょうか?
だって、こんなすてきなひとが、わたしのことこんなにほめてくれて。
しかも、こんなふわふわの笑顔で。
「こちらこそ、姉たちがごめんね。
彼女たちも、キミの事がかわいくてたまらないらしいんだ。
よければ、このまま付き合ってあげてくれないかな」
「は、はい! もちろん、よろこんでっ!!」
もちろん、よろこんで、です。
エリカは人魚姫。遥儚さんはかぐや姫。
わたしにとってはまるで、夢のようなおともだちなんですから。
「ありがとう。
そうだ、これユーリさんから頼まれてたんだっけ。
はい、どうぞ。
ホークさんが作ったんだって」
と、遥希さんがとりだしたのは可愛いふくろに詰められた、ちいさくかわいいマフィンです。
「え、えええ! かわいい……!
これを、ホークさんが?!」
「だってさ。
あのごっつくておっきい手で。
ひとつ食べてみたけどさ、おいしかったよ。
っと、すっかりおじゃましちゃったね。
ごめんねミーナ。それじゃ、また」
「あ、っはい……」
スマートに手を振って去っていく遥希さんの背中は、夜闇にほのかに輝くみたいで、わたしはじいっと、見送ってしまいました。
なんででしょう。ほっぺたがすごくあついです。
センティオの夜は、おもったよりも、気温が高かった、みたいです。
一口大の、ちっちゃなマフィン。
口にふくむとほろり甘くて、まるでそれは、天使のくれたごほうびみたいでした。




