モンスター達
アレン達は暫しの休憩を終えて、第2階層へ続く階段を降って行った。
「情報通り、1階層と同じ洞窟みたいだな」
「そうね、環境が変わるのは5階層からみたいよ」
「ですが出てくる魔物も増えますよ、気を付けてくださいね」
2階層は1階層と同じ洞窟型であり、広さも特に変わらないのでそのまま進んで行った。
進んで行くと、広場に出て横に水場が見えて来た。構わず奥の道に進もうとするが…
「うわっ!?」
「どうした!?」
アレンが唐突に声をあげた。ジークハルト達が驚きアレンを見ると防具が付いていない二の腕を抑えて膝をついていた。レオンやサクラが焦って近寄ろうとしたがアレンが叫ぶ。
「そっちに退け!!何かいるぞ」
「!?分かりました、行きますよ!!」
ジークハルトがアレンを支えて退る。5人で後退し周囲を窺うが特に見当たらない。しかしアレンだけは腕を抑えながら一点を見詰めている。すると水場が波打ち…
「…蛙??」
「あれは…酸蛙」
ーーーー酸蛙。酸の舌を持つ蛙の魔物。繁殖力は低く個体数が少ないが、上層に分類される10層の中では強い部類に入る。ーーーー
アレンの傷を見ると赤く爛れている。レオンは未然に防げなかった自分を内で叱責しながら謝罪した。
「すみません、不覚でした…」
「大丈夫だレオン。ジーク、サクラ、ミーシャ頼めるか」
「任せろよ!!」
「確か、舌の射程が結構あるんだったわよね」
「そうだね、私の矢は効くかな…ヌルヌルしてる…」
酸蛙が距離を詰めないか油断なく見ながらジークハルトが答える。ジークハルトが背中に背負っていた物ーー槍盾を装備した。
「せっかくこいつを買ったんだ、使ってやらねぇとな」
「大丈夫ジーク??盾を使えるの??」
「もちろんだぜサクラ。片手でも扱える槍盾を買ったんだぜ、まぁ金は…」
「だ、大丈夫だよジーク君!!出した分また稼げばいいんだよ!!」
前衛はアレンとジークハルトだが、ジークハルトは盾役も兼用しているのだ。普段は動きづらくなるため背中に背負って槍1本で戦うのだ。
3人にモンスターを任せ、レオンは1つの瓶を取り出した。魔法を必要とせずに薬草などを調合する事で作ることが出来る物、回復薬だ。
「染みますよ」
「ぐっ…大丈夫なのか、これぐらいの事で回復薬なんて使っちまって」
「節約はしますよ、それに剣を使うのですから腕の不調は致命的です。それに私の不注意です、すみません…」
「大丈夫だって」
回復薬をアレンの傷の箇所へ塗った。低級の物のため、瞬時には回復しないが徐々に腫れが引いていく。
「来るぞ、サクラ頼むぜ」
「任せて!!」
酸蛙が飛び跳ねながら向かって来る。ジークハルト達が構えた。
酸の舌が伸びて来るがジークハルトが盾で正面から受け止める。右手に持つ槍で舌を刺そうとするが直ぐに舌が引っ込む。
「チッ、ミーシャ先に回り込んどけ!!」
「分かったよ!!」
ジークハルトがミーシャの指示を出して、距離を保って回り込ませる。そしてジークハルトは盾を構えて正面から距離を詰めていく。また酸蛙が舌でジークハルトを攻撃して来るが…
「おらぁ!!」
「そいっ!!」
「geko!?」
盾で受ける瞬間に斜めに受け流し、そのまま足で踏みつけ抑えた。そしてその隙にサクラが舌を短剣で切り裂いたのだ。
「gekoo!?!?」
「ラストぉ!!!」
酸蛙が水場へ逃げようとするがその先には弓を構えたミーシャが。充分に溜めた一矢が放たれ、酸蛙に刺さった。足が止まった瞬間盾を放り出したジークハルトがとどめを刺す。
「うっし、強いって聞いていたけど意外と大したことないな。舌が厄介なだけだ」
「そうね、もし次来ても同じようにやれば行けるわね」
「1番は視界外からの奇襲だね…」
無事酸蛙との戦闘を終えたジークハルト達。彼らは上手く立ち回れていたが、普通の新人パーティであればここまで的確に立ち回れない。彼らの才能が窺える一戦となった。
「ごめんな皆」
「大丈夫よアレン。それより腕は大丈夫なの??」
「あぁ、もう大丈夫だ。次は油断しないよ」
▷▶︎▷
「あれはもしかして…粘液生命体??」
一層気を引き締めて進んで行くアレン達一行。前を進むアレンが前にいるモンスターの存在に気付いた。
「本当ね、正しく粘液だわ」
「先の酸蛙然り、運が良いのか悪いのか」
ーーーー粘液生命体。知名度の高い魔物の代表格。半透明の粘液で体を構成されており、体の中心に核である魔石が見える。数少ない地上で自然に湧く魔物である。しかし地上では大気の魔力に当たりよく見かけられるが迷宮内ではあまり遭遇する事が出来ない低出没モンスターである。その理由は、魔力が濃い故に並大抵の魔力では湧く事すら叶わず、高品質な魔力が秘められた魔石でなければ核に足り得ないのだ。ーーーー
遭遇出来るか分からない低出没モンスターを見つけたがアレン達は油断せずに周囲を窺いながら近付いて行く。
「粘液生命体の粘液は高品質の魔石から湧き出た、いわば魔石とは違う魔力の結晶の様な物です。魔法に耐性が有るのでアレンが斬撃で核を狙って下さい。」
「了解、飛び跳ねるんならそれも考えた上で決めないとな」
アレンが近付いて行き剣を構える。小さく飛び跳ねながら進んで行く粘液生命体を目の前まで近付き一閃した。
「今までで1番大きな魔石だ」
「低出没モンスターだからね、行きましょ」
アレンが魔石を回収して先に進む。早々に強いモンスター、低出没モンスターに遭遇した経験を活かしながら進んでいく。
▷▶︎▷
「ジーク、そっち行ったぞ!!」
「任せろ!!ミーシャ!!」
「うん!!」
下層へ降っていくと段々とモンスターとの遭遇する回数・量が多くなってくる。しかしその度にアレン達レイト・ブルーマーズは学習していった。
相対しているのは犬顔人の群れ。アレン・ジークハルトを前衛に置き群れの突撃を受け止める。そしてレオンとミーシャで援護をして、サクラは遊撃に入ったり誘導したりなどをする。1体1体は脆弱であるが最大の武器である数を活かしモンスター達が攻め込んでくる。更に…
「gaaaaa!!」
「くっ!?こいつ、上位種か!?」
他よりも一回り大きい犬顔人がアレンの前へ剣を構えて出てくる。剣を扱うそのモンスターは犬顔人の上位種である犬顔人【剣】だ。
ーーーー犬顔人【剣】。犬顔人の上位種であり、剣を扱う。身体能力は多少強化された程だが知性が高くなっている。ーーーー
「gaaaaa!!」
「てりゃぁ!!!」
犬顔人【剣】と剣を打ち合う。剣術をもって上位種へ進化する程の知性とその技を誰にも師事していない、我流のアレンが技をもって打ち勝つのは難しい。であれば別のもので攻めるまで、と素早く判断したアレンは…
「gaoooo!!」
「くっ…!!」
巧みな技で攻めてくる犬顔人【剣】。手入れもままなっていないボロボロな剣でその命を奪わんと迫ってくるが、アレンは一瞬を見極め渾身の一撃を放った。その剣へ向けて。
「wao??」
犬顔人【剣】の手に持つ剣が真っ二つに折られた。知性を持つ故思わず呆気に取られるモンスターをアレンはそのままの勢いで回し蹴りを繰り出した。
「ふん!!」
自らの同胞達の元へ叩き付けられた犬顔人【剣】、そのままアレンは剣を力任せに横一文字に振り切った。それにより犬顔人が何体も声も無く灰へ還った。
「レオン」
「ええ、任せて下さい!!」
アレンはすぐにバックステップで交代し、信頼する魔法使いへ声をかける。
「『我は願う。我が敵を打ち倒せ』魔力玉」
レオンの周りに光る球体が幾つも浮かんでいく。レオンが手を振り、その球体達が群れへ向かい、犬顔人達に触れる事で爆発を起こしていく。
「waooooooonnnnn!!!!」
「全部は倒せませんでしたね…」
「上々だぜ、これなら」
爆発で砂煙が洞窟の中を充満する。その中を嗅覚を頼りに負傷した犬顔人が向かって来るが…
「「wann!?」」
「よしっ、成功♪」
砂煙から出てきた犬顔人達が一斉に転んだ。サクラが巻き起こった砂煙に紛れて足元に罠を設置したのだ。
「さあもう1発、魔力玉!!」
レオンが魔法で更に追い討ちをかける。これにより犬顔人の群れは全滅したと思われたが
「やばっ」
「gaaaaa!?!?」
アレン達の元へ戻ってくる途中のサクラを狙い1匹の犬顔人が出てきた。サクラでも犬顔人一体程度なら倒す事は出来るが、この不意をつく捨て身の特攻に驚き体勢を崩してしまう。
「「サクラ!?」」
アレンがサクラの元へ向かおうとするがジョブの恩恵を受けた走力を持ってしても埋められない距離がそこにはあった。
しかし…
「えっ??」
尻もちをついたサクラは、何かが飛んで来るのを見た。視認できないほどの何かが最後の犬顔人の頭に直撃、粉砕した。
「や、槍….??」
「大丈夫かサクラ!?」
飛んできた物体の正体は槍であった。しかしそれはジークハルトの持つものとは違く、一目見ればすぐに業物と分かるものだった。
「嬢ちゃん、無事か??」
砂煙の向こうより誰かの声が聞こえてきた。それにアレンとサクラ、後から追い付いてきたレオンやジークハルト達も身構える。
「おう悪いな、たまたま見ちまったもんでよ。それで無事か??」
砂煙より出てきたのは、顔以外を黒い鎧で纏う1人の男だった。