迷宮
迷宮に入り暫く歩くと、空気が変わった。岩壁に囲まれている正しく洞窟だが少しの広さはあり、壁自体から発光している。そして次第に奥から何が生き物の声らしきものも聞こえてくる。
「遂に本番だ。大丈夫、俺達なら行けるさ」
「当たり前だ!!俺とアレンで前衛だ、油断せずに俺達を援護してくれや」
人類が未だ最奥まで立ち入ったことの無い未知の領域、迷宮。その様な場所では流石にレオンでさえ口数が少なくなった。だが、それをアレンとジークハルトで励まして少年少女は前へ進む。
次第に見えてきた、小柄な人影のようなモノーー小鬼だ。小鬼とは世界で最も知名度が高い魔物だ。
ーーーー小鬼。世界で最も有名な魔物。1体1体は脆弱でジョブに就いていない大人の男性であれば殺す事が出来るほど弱い。しかし繁殖力が異常に高く、元々迷宮に生息するモンスターであったが外に進出し、繁殖しその数で村を襲うなどする厄介な魔物となった。ーーーー
余談だが、迷宮内に存在する魔物は『モンスター』、迷宮外に進出した魔物を『魔物』と呼称する。
「よし、行くぞジーク」
「おう!!ミーシャ頼むぜ!!」
「う、うん。任せて」
5人は小鬼を3体視認し、アレンとジークハルトが突撃して行く。
「gyagya??」
小鬼達が近付いてくる2人に気付く。まだ距離があり、小鬼達もまた向かってこようとするが…
「gugyaaa!?」
「ふっ!!」
「はぁ!!」
小鬼達の内の1体の首付近に矢が刺さった。これこそ、"弓士"のジョブに就いたミーシャの力である。
突如悲鳴を上げた同胞に残りの2体は反射的に振り向く。しかしその隙をアレンとジークハルトが見逃すはずもなく、アレンは大上段から振りかぶって肩付近から深く切り裂き、ジークハルトはその槍で心臓を穿った。
「「gyaaa!?!?」」
小鬼達がその命を散らした。アレンとジークハルト達はすぐにバックステップで残り1体から距離をとる。
仲間を殺された怒りで小鬼がこちらに向かってこようとするが、今度は目に矢が刺さった。猛烈な痛みに足が止まり、そこへいつの間にか背後から近付いていたサクラが首を掻き切る。最後の小鬼が音もなく絶命した。
小鬼達が灰へ還り、その中に輝く石の欠片の様なものがある。これが迷宮から出没するモンスターの核である"魔石"だ。冒険者達は、これを冒険者組合に売る事で生計を立てている。
「ふぅ~、上手くいってよかった…」
「そうだね。これも練習の成果かな」
「私の出る暇もありませんでしたね」
迷宮に入って初の戦闘。アレン・ジークハルトで前衛を担い、サクラ・レオンで中衛、そしてミーシャが後衛として援護する。話し合った通りの役割をそれぞれ働き、出番が無かったレオンは珍しく拗ねているような様子だった。自分達の力が通用する事に安心し、余裕を持ち始め自信を持って先に進む。
「よし、じゃあ…」
「待って下さい。この先に開けた広場があるようです。ここにモンスターはそこまでいなかったのでそこに集まっているかもしれません」
先に進もうとするアレンを遮り、レオンがそう言った。冒険者組合より配布される迷宮の地図をレオンが持っており、彼を中心にしてどう進むかを考えていくのだ。
「確かにそうだな。どうするアレンと、2人で突撃して行くか??」
「馬鹿ですか貴方は。それにあくまで可能性の話です。まだ第1階層ですしそこまでモンスターがいるとは思いません。」
「じゃあ、私が偵察してくるわ。アレンは途中まで付いて来てくれない??」
「任せろ」
「ではそうしましょう。ミーシャ、もしモンスター達が追いかけてきた時にすぐに迎撃出来るように矢を持っておいてください。」
「分かったよ」
話がまとまり、サクラとアレンの2人で広場の入口まで行く。サクラは目で合図をしてアレンを待機させ、自分のみ中へ入っていく。
(私が就いた"盗賊"の基本、足音を立てずに気配を殺す…)
サクラが先輩冒険者より教えて貰った技術で気配を殺し広場の中を見渡す。状況を把握してアレンと共に3人の居る場所へ戻った。
「広場の中はそこまで多くいなかったわ。居たのは小鬼が5匹」
「そうですか、奥のルートは??」
「正規ルートの他に2つあったわ。正規ルートじゃない道の入口近くに集まってたから、そっちの先に巣があるんだと思う」
「分かりました、では…」
▷▶︎▷
「gya??」
カランッーー、洞窟にそんな音が鳴り響いた。小鬼達はその音が鳴り響いた広場の出口に近付いて行った。やがて外を見ようとする…
「??……」
白い霧のようなものが近付いてきて小鬼達は首を傾げるが、気付く間もなく眠ってしまった。
少しすると、そんな小鬼達の様子を出口からサクラが見て目配せで合図をして、アレン達が出てきた。
「先輩に教えてもらった魔法の1つ、眠りの霧です。上手くいってよかったです」
「出来るだけ戦闘は回避して、体力を温存して進むのが定石って教えられたからな」
そう話しながら、眠る小鬼達の心臓をそれぞれ刺しとどめを刺す。魔石を回収して進んで行く。
正規ルートに入り歩いていると、今度は奥から何かが走ってくるような音がする。それぞれ構えていると…
「あれは犬顔人です、嗅覚が良いので我々が分かったのでしょう」
「まだ距離があるな、レオン、試しに俺に強化魔法を付与してくれ」
「あまり無駄遣いは出来ませんが…分かりました。『我は願う。彼の者に大いなる力を授けん』剛撃」
ーーーー犬顔人。犬の顔と人間の体を持つ亜人種の魔物。犬の顔を持っている為嗅覚が良いが、胴体は人間の子供位の大きさの体である為そこまでの敏捷性は無い。繁殖力が高いーーーー
レオンが詠唱を唱え、魔法を発動する。剛撃は一時的に身体能力を強化する強化系魔法だ。アレンは魔法が無事自身に付与された事を確認すると、向かってくる犬顔人に向けて走り出した。
「waoooonn!?」
「はっ!!」
飛びかかってきた犬顔人を横に避け、そのまま振り向きざまに一閃。横に線が入り、胴体がずれて灰へ還った。
アレンは自分の具合を確認し、ジークハルトと達と合流した。
「うん、良い感じだ。魔法は1回発動すると解除出来ないのか??」
「そうですね、ですのでその魔法が無駄にならないようもっと暴れてきて下さい」
「無茶言うぜ…ジーク、行くぜ」
「おうよ、魔法があろうがなかろうがお前にゃ負けねぇぜ」
「あっちょっと」
そう言って、アレンとジークハルトは先に行ってしまった。サクラが呼び止めようとするがそんな暇はなく、あっという間に行ってしまった。
「行っちゃったけど、よかったの??」
「えぇ、この1階層は余裕がありそうですしこのまま行けば下に繋がる階段があります」
「そこで合流出来るんだね、よかった…」
レオンやサクラ・ミーシャ達と話しながら先に進んで行く。やがて何か建造物らしき物が見えてきて、そこでアレン達と合流した。
「魔法って凄いなレオン、ジークに圧勝だぜ!!」
「てめ、盛ってんじゃねぇぞ!!そんな差はねぇよ」
「はいはいそうですね。魔石は集まりましたか??」
「おう、結構手に入ったぜ」
「それはよかった、そしてこれが階層間の階段ですね。」
「だな、それじゃあ行くか」
「はいはーい、ちょっと休憩の時間が欲しいでーす」
「わ、私も少し…」
無事階段を見つけ、合流した5人が話す。少し休憩してから進むという事で話がつき、レイト・ブルーマーズ達は暫しの休憩を取っていた。