探索準備、そして冒険へ
ーーーあれから数日が過ぎ、アレン達もこの街に慣れてきた。友人も増え、充実した日々を過ごしていた。
そして...
「どらぁ!!」
「せい!!」
腰を十分に動かしての重心移動、そこから上半身全体を使って剣を鞭のように叩き込む。それが槍とぶつかり合い、辺りに突風を撒き散らす。
「ジョブの力は、馴染んできたのか!?」
「おうとも!!遅れを取ったが、もう負けねぇぞ」
前よりも一層激しさが増したアレン達の鍛錬。少し前まではジークハルトがジョブの力に振り回されアレンに押されていたが、今では互角以上に戦えるようになっていた。
2人の鍛錬を終えて解散し、アレンは1人心を沈めて瞑想を始めた。心が無となり意識が沈んでいくような錯覚がする。その先に映ったのは先日のガランとの最後だった。
『何年も、何十年もかけて手に入れる力を一足飛びで得ることが出来る。それがジョブの恩恵の1つだ。』
『魔力について教えてやろうと思っていたが.....』
(ジョブにはまだ力がある。決定的で、圧倒的な力が....)
意識の底で思考する。音が何一つ届かない静寂の精神世界でただ1人、アレンは意識の波に攫われて行った。
▷▶︎▷
「それじゃあ、各自迷宮探索の為の装備を整えましょうか。」
アレンはレオン、サクラと共に武具屋へ来た。来たる迷宮探索の装備を整える為だ。
「確か、レオンは"魔法使い"になっていたよな??魔法の才があるんだから、もっと強いのにすればよかったじゃないか。」
「まぁそうなんですけとね。ですがこっちの方がパーティーの力になると思ったんですよ。」
「レオンがそう言うならそれでいいじゃない。」
魔法の才は主に貴族に宿るものであり、魔法はとても強力だ。故に冒険者で魔法が使えるものは殆どが攻撃系の魔法使いのジョブに就くのであった。
3人で話しながらしばらく歩き、冒険者ギルドで紹介された武具屋に着いた。
「ここか。すみませーん」
店頭には様々な武器が置いてあり興味をそそる。中心にある扉を開いた。中は意外と奥行があり、壁やテーブルの上に多種多様な武器が沢山飾られていた。
「.....」
奥のカウンターには1人の男性が居た。大きな髭を蓄え、樽の様に横に大きくあまり背が高くない男性だ。ドワーフの種族の人だろう。ドワーフは各地で鍛冶屋を営んでいる。
「あのー....」
「....ガキに売る武器はねぇぞ」
近くに来るまで何も喋らなかったドワーフの男性が一言言った。呆気に取られ、レオンが何とか説得しようとするがアレンが抑え前に出る。
「...俺達はガキだけど、子供じゃない。」
「...!!」
「俺は、俺達は本気だ。迷宮だって攻略するつもりだ!!」
ドワーフの男性の眼が見開かれた。眼差しが更に鋭くなってアレンを見るが、臆することなくアレンも見返す。
「....また、ここに来て良い剣を買いに来るよ。れっきとした冒険者となって!!」
その一言で、崩れた。
「ガハハハハハハ!!!」
いきなり大きな笑い声をあげた男性に驚き、3人は彼を注視した。男性は一通り笑ったら息を整え、アレン達を見据えた。
「悪かったなァ、卵共。いや、ひよこか??いいぜ、気に入った。武器は売ってやる!!」
「!!じゃぁ...」
「絶対に帰って来いよ??たんまり稼いで、また俺の武器を買いに来い!!」
男性に認められた事を知り、3人は顔を合わせて頬を綻ばせた。
▷▶︎▷
「自己紹介が遅れたなァ、俺ァグリュー。分かってる通り、ドワーフだ。」
「俺はアレン。こっちがレオンにサクラ。グリューさんはどうしてあんな態度をとっていたんだ??」
4人が自己紹介を済ませ、アレンは気になっていた質問をした。すると男性__グリューは目を逸らし、弱々しく答えた。
「.....まァ、おめぇらみたいな子供は大体軽い気持ちで冒険者になる奴が多い。そんな覚悟の奴に俺も武器を売るつもりもないしな、その.....」
「死なせたくなかった、ですか??優しい人なんですね、グリューさん」
「う、うるせェ!!」
グリューの真意を知り、アレン達は彼を心から慕い、信用した。見た目は強面だが、根はとても優しい不器用な人だと分かったからだ。
「武器ならそこら辺にあるのを見な。壊さなければ触ってもいいし、なんか注文があるなら言えよ」
そう言ってグリューは奥に入って行った。
「…さて、どうしようか。」
「まぁとりあえず色々見てみましょうか」
「そうね、刀とかあるかしら」
そう話しながら、辺りを見回した。
「俺は剣を見てみたいな。レオンは杖とかか??」
「そうですね、護身用でもあるといいんですが…」
そう話しながら剣が並べられている剣がある場所は向かった。
「とりあえず、駆け出し用の安い物で一式揃えましょうか」
「そうね、刀…は無いみたい。でも私はシーフに就いたから短剣を2本ぐらいかしらね」
「俺は直剣と、予備で短剣を持っておくか」
各々がばらけてそれぞれの武器を見ていく。アレンは1本の片手直剣を掴み、試しに振ってみる。少し振ってみて、他の剣を手に取っていくのを繰り返していく。
「これが本物の剣…重みが凄いな。だけど手に馴染む……」
まだまだ駆け出しであり剣士としても未熟なアレンにも、グリューの技量の片鱗が窺えた。
次に両手剣、大剣なども見ていく。
「流石に大きいな…モンスターを相手にするならこんな物の方がいいかもしれないな、でもそうすると洞窟とか狭い場所での立ち回りが難しい…」
それぞれを手に取って、どの様に扱うか具体的に考えていく。それぞれにメリットがあり、デメリットが存在する。
「そうだ……」
▷▶︎▷
「毎度ありィ!!坊主、たんまり稼いでまた俺の武器を買えよなァ!!」
グリューの店でそれぞれの武具を買って、3人は出ていった。大きな物から小さい物も持って、宿に向かっていった。
「それではそれぞれ買いましたし、まだ時間はありますよ??」
「俺は早速剣を使って鍛錬したいな。探索までに馴染ませたいからな。」
「私も久しぶりにやるわ、短剣もそうだけど教えて貰った技能を復習したいの。」
そう話してレオンと別れ、途中でジークハルトとミーシャと合流して夕食の時間まで鍛錬をしていった。
▷▶︎▷
城壁の外に盛り上がった大地があり、その下からある洞窟繋がっている。この洞窟はただの洞窟ではなく、中に多種多様なモンスターが蔓延っている。そして何故か階層が存在し、終わりの層は未だ不明。その理由は、各階にひとつだけ下の層に繋がる階段があり下に行く程遭遇するモンスターもまた強くなっていくからだ。これこそ、都市ドロームが『冒険者の街』と呼ばれる由縁である迷宮だ。そしてまた…
「これが迷宮…」
「一見普通の洞窟ですけどこの警備体制を見るに、やはり危険な迷宮なんですね。」
「へっ、面白くなってきたぜ!!」
「わ、私、大丈夫かなぁ…」
「大丈夫よっ、私達なら!!」
この洞窟ーーー迷宮の入口の前に、また新たな挑戦者達が立つ。彼らは強固な覚悟を胸に抱き、冒険の1ページ目を刻む……