疾風の如く
「槍技"連突"!!せやぁぁ!!」
目にも止まらぬジークハルトの槍技。
ドスッ、と重く響く音が数回鳴り響き最後の拳猿達が息絶え砂に還る。
襲ってきた拳猿の群れを無事に倒す事が出来たアレン達、それぞれが魔石の回収や武器の点検などをはじめた。
「どうだリュウ、まだ行けそうか??」
「もちろんなのですごしゅじんさま!!りゅうはまだまだいけます!!」
順調に迷宮探索が進みより下層に進む中、やはり一番驚かせられるのはアレンの使い魔、リュウの潜在能力だろう。
人外であるが故の可愛らし外見とは裏腹な高い身体能力、本能的に魔力を腕に纏わせ鉤爪の様にするその戦い方はまるで獣の如し。
「そうか、よしよし…」
「えへへ…」
快活に喋るリュウを思わず撫でるアレン、それを受け入れ満面の笑みでだらしのない声をあげるリュウ。
これがこの主従のいつもの光景である。
(でも…)
だがそんな和やかな雰囲気の中、アレンは思わず撫でていた手を止め、自分の掌を見詰めた。
迷宮探索にも即戦力として加わったリュウ、その元となったのは間違いなく異端の竜属性の魔力であり、そしてアレン自身である。
(あれから何度かこの力を試そうとした。でも、朧気に覚えているだけだったあの時の力はどう使えばいいか分からない…)
イレギュラーの強さを宿したあの大鬼、それを単独で殲滅した自身の竜の魔力。
アレンは微かな記憶の中、自分が"何か"に呑み込まれた事を覚えていた。
そして、気付かぬうちに自分がこの力の象徴であるリュウを心のどこかで怯えている事にも気付いていた。
(でも…)
だからこそ、アレンは逃げる訳にはいかない。
いずれこの力も制御できるようにして、皆の役に立てなければならない。
使命感の様にそう思い、アレンは心に決めるのだった。
▷▶︎▷
「むぅぅぅぅ……」
「はぁ…またアレンですか」
遠くからその主従のやり取りを見詰める目線があった。
どこか嫉妬じみた眼差しでサクラはアレンを見るが、またそれを見たレオンが溜息をついた。
ここ最近はいつもこうなのだ、彼女は。
「仲がよろしいのは良いことじゃないですか」
「そうゆう事じゃなくて…!!」
「はいはい、分かってますよ。別にアレンは主としてリュウを…」
レオンがどれだけ説得しようとも納得した様子を見せないサクラ。
勉学も優秀で頭の回転が速く、チーム内でも司令塔の様な役割を担うレオンでも、女心は分からないのであった…
▷▶︎▷
「すまない、そこの一行!!対価は払う、助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
広大な草原を行くレイト・ブルーマーズ。
周りを警戒しながら進んでいると、前方から砂煙と共にそんな情けない声が聞こえてきた。
「なんかくるです!!」
「そうだね、男の人…??」
「待って、後ろにいるのは…大鬼の群れ!?」
砂煙の戦闘には肩と腰に1本ずつ剣を、体の要所に軽鎧を装備した青年。
仲間は見えず、どうやらソロのようだ。
その後ろには、大鬼の群れ…青年は情けない声をあげてアレン達の方向に向かっている。
「待って、あんな数倒せるの!?」
「私とミーシャの先制攻撃でどこまで数を削れるか…ですがあの青年が居るので斜線が遮られています」
「じゃあ無理の無い程度にレオンの魔法とミーシャの弓矢で攻撃してから、どうにかして二手に分けよう」
「分かりました、ジーク、あの盾技は使えますね」
「勿論!!」
冷静に状況を把握し、判断。
どうにか大鬼を撃退する方法を考えるアレン達、どうやら彼等の頭には見捨てる、という方法は思い付かないようだ。
「よし、行くぞ!!」
地面を蹴り駆け出すアレン、ジークハルト、リュウ。
詠唱を唱えるレオンに弓を番えるミーシャ。
サクラは周囲の警戒をしていた。
「盾技"挑発"、こっちを向けぇぇぇ!!!」
ガンガンガンッ!!、とジークハルトが槍で自分の盾を叩く。
盾技"挑発"、魔力を帯びた盾をモンスターに向け、自身に敵意を引き付ける盾職必須の盾技だ。
7体居た大鬼のうち3体がジークハルトに敵意を向け、進路を変えて走ってきた。
「来た来た来たぁ…よっしゃ行くぜぇ!!」
「GUOOOOOOOOOOOO!!!」
先頭の大鬼が拳をジークハルトに打ち下ろす。
ジークハルトは盾を掲げて受け止めるが、衝撃に耐えられず地面は陥没する。
「うにゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
盾で見えなくなったジークハルトの後ろから、リュウが大鬼に向けて踊り出る。
ジークハルトの肩を蹴ってその小さな身体が飛び、そのまま黒く硬質化し形状変化で爪が長くなった手で大鬼の腕や首、顔などを裂いた。
「GUOOOO…!?」
「うっしゃあああ、やったです!!」
何をされたか分からぬまま砂に還る大鬼。
その場で呑気に喜ぶリュウ、彼女に影がかかる。
「ふぇ??」
「GUOOOOOOOOOOOO!!!」
2体目の大鬼がその拳をリュウに振り下ろした。
完全に油断し切っていたリュウに空を裂く剛腕を避けられない。
「せいや!!」
が、大鬼の拳がリュウに当たる直前に間にジークハルトが割って入った。
彼はそのまま両手で槍を持ち大薙の一撃を大鬼の腕に打ち込んだ。
「GUUU…」
「やっぱこっちの方がしっくり来るぜ」
「うにゃー!!おろすですー!!」
「おお、悪い悪い」
腕に衝撃を与えた事により軌道は変わりジークハルト達の横の地面に拳が振り下ろされた。
後ろに退いて脇に抱えたリュウを降ろすジークハルト、彼は盾を持っておらず本来の両手で槍を持つ戦い方に戻っていた。
「さぁ、ここからだ…!!」
▷▶︎▷
「忝ないアレン殿…」
「冒険者は助け合いですよ。あれ、名前…」
「貴方方、特にアレンさんは有名であるので…。自分はラーバル、ソロのDランク冒険者だ」
一方、アレンは追われていた青年、ラーバルと合流していた。大鬼4体に追われながらそんな事を話していた。
「ではアレン殿、2体は任せても?」
「勿論構いませんよ」
「では、拙は残りの2体を…」
2人はそう話すと2手に別れて逃走する。
が、3体はラーバルの方に向かってしまった。
「ラーバルさん!!」
「問題ない、アレン殿…」
逃走から一転、ラーバルは急に方向転換して大鬼達に接近する。
突然追っていた獲物が向かってきて戸惑いその脚を止めてしまう大鬼。
「剣技…"飛剣"!!」
「GUOOO!?」
腰の剣を抜刀、そのまま流れるように繰り出された衝撃波は寸分違わず先頭の大鬼の首を斬り落とした。
「GU、GUOOOOOOOOO!!!」
「笑止!!」
仲間を突然殺された大鬼が怒り狂い棍棒を振り下ろす。
だが、ラーバルは左手で肩にかけてある剣を抜き、下からの斬りあげで棍棒を叩き斬った。
「GUOOOOOOOOOOOO!!!」
棍棒を斬られた大鬼は素手で、もう1体の大鬼は棍棒で殴り掛かる。
しかしラーバルは大鬼の素手を1歩の後退で躱し次の棍棒の叩き付けを跳んで避ける。
「剣技"竜廻"!!」
ラーバルは両手に2本の剣を持ったまま空中で回転する。
瞬間、大鬼達は肉塊と化した。
「ふっ…他愛ない」
「ラーバルさん!!凄いですね、助太刀いらなかったのでは??」
「いや、流石の拙も大鬼の群れは流石にきついのでな、拙はソロ故」
大鬼の1体を倒したアレンがラーバルに駆け寄る。
ソロの冒険者は本来複数人で補い合う事をする事を全て1人で熟さなければならないので戦闘力だけでなく柔軟な判断力、空間認識能力など様々な能力が要求される。
「ああ、御礼をせねば…ここより下層で採取した素材を2つ、いや3つ…」
「そんな、いいですよお礼なんて!!」
「いやいや、こちらも助太刀して貰ったので何もしないというのは…では、地上にて何か馳走しよう!!」
「そうですか…じゃあ…お言葉に甘えて…」
「それではそういう事で!!また会おう!!お仲間方にもよろしくとお伝え下され!!」
では〜!!と大きな声で手を振りながら去っていくラーバル。
また癖の強い人と出会った、と嘆息するアレンだったが彼がソロとはいえDランク冒険者である事に疑問を抱いていた。
(彼はかなりの強さを持っていた…それに、あの肩に背負った剣は…)
遠くからラーバルの戦闘を見ていたアレンには、何故か肩に背負った剣から何かを感じていた。
それが何なのかは本人も分からぬまま、アレンは自分の仲間達と合流するのだった。