閑話 シーフの少女
こんにちは、新谷洋です。
今回は閑話を挟もうと思います。
初めての経験故、至らない部分が沢山あると思いますが、気付けば教えて下さると有難いです。
感想、意見等ありましたら是非コメント欄にお願いします。
私はサクラ、ただのサクラ、姓は無い。この世界で姓を持てるのは貴族などの高い身分の人しか持てない。
子供の頃からアレンたちと一緒だった。
皆で冒険者パーティを組んで、様々な迷宮を攻略するのが皆の子供の頃からの夢だった。
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15歳になって私たち全員は大人になった。そして孤児院を出て、迷宮都市ドロームに来た。
この世界はこんなにも広かったんだと実感した。見たことの無い物ばかり、まあ、当たり前か。
それでも心が沸き立つように踊った。
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「サクラ様はシーフ、斥候職の適性が高いようです」
「じゃあ、シーフでお願いするわ」
冒険者ギルドに来てジョブに就いた。私はシーフに適性があるようなのでそのままジョブに着き、同性の先輩冒険者の人と知り合って仲良くなった。同じ斥候職で、技術を教えてくれるんだって。
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ジークハルト、レオンとミーシャ達と合流して修練場に向かう。なんでも、そこで前に試験官をしていたガランという人とアレンが模擬戦をしているらしい。
ギルドの裏にある大きな修練所に入ると、最早木の音とは思えないほど鈍重な音が何度も鳴り響いていた。音の発生源を見てみると、アレンとガランが木剣で模擬戦をしていた。
凄い光景だった、勿論体格も経験も力も圧倒的にあるガランの一方的な戦いだったが、なんとか攻撃の一つ一つを防ぎ吹き飛ばされながらも反撃している。
私はアレンの表情を見た瞬間、心がドクン、となった。
笑顔だったのだ。アレンとジークハルトの模擬戦を何回も見てきたが、アレンのそんな表情は見たことがなかった。
格上との戦いを楽しみ、どうにか一矢報いてやろうという戦闘狂のような爛々とした笑顔。どうしてもその表情から目が離せない。
嗚呼、なんだろう、心臓が五月蝿い
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迷宮探索が始まった。
ジョブに就いて斥候職の技に対する練度が高まったからだろうか、色々な技を教えてもらった。そして今、私は意外と落ち着いている。
小鬼が現れた、魔物、魔物の中でも代表格。無事討伐し通過。どうやら私の力も通じるみたいだ。
実感を感じながらアレン達を先導する。
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小鬼の群れを捌ききれず、残った1匹に襲われそうになった。引き伸ばされた感覚の中思考を回していると…
「嬢ちゃん、無事か??」
小鬼の頭が風船のように破裂し、その中から長い棒のような物が一瞬見えて、後ろの壁にそのまま刺さった。
そして、砂埃の向こうから影と共にそんな声が聞こえ、全身に黒い鎧に身を包む男性が現れた。
話を聞くと、彼はこの都市唯一のソロAランク冒険者の凄腕であるらしい。ジークハルトが珍しいく子どもの様に興奮して話している。
何故だろう、彼のアレンへの目が変だ。見透かすような…これは、伝えるべきなのかな。
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どうして、こうなったんだろう。
勝てない敵ではなかったはず。今は個人で倒せなくとも、私達の連携をもってすれば勝てた魔物のはずだ。
実際に1度勝った。だけど、あの敵はまた立ち上がった。
疑問が頭の中に溢れる中、状況は一気に変わってしまった。
吹き飛ばされたアレンとジークハルト、打ちのめされる私達レイト・ブルーマーズ。
今の私に出来ることは、ただ視ることだけだった。
その『変化』を
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「……」
「サクラ、アレンは大丈夫ですよ。むしろ目が覚めた時、貴方がその様に疲れ果ててる姿を見る方が気に掛けると思います」
「うん…分かってるんだけどね」
辺りの壁から家具まで白を基調とした清潔感のある部屋、その真ん中に大きなベッドがありアレンが眠っていた。その隣で、目の下に深く隈を作るサクラとその後ろに立つレオン。2人は今、冒険者ギルドの病室にて静かに眠るアレンを見守っていた。
「…」
「…」
自然と沈黙が場を埋める。2人はじっと、静かに眠るアレンを見詰めていた。
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アレンが遂に目覚めたようだ。あの力は『竜』の力、竜の魔力だそうだ。私達はアレンの無事と彼の新たな力の顕現を純粋に嬉しく思っていた。
だけど、その力本来ならば有り得ぬ特別な魔力であるらしい。確かに、そのようなものは聞いたことはない。
でも、私達からしたらそんなものはなんでもなかった。
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「悪いが、俺の技術をタダで教える訳には行かねぇ。人外なら尚更な」
「っ、そうな言い方しなくてもいいじゃない!!アレンは紛れもなく人よ!!」
ギルド支部長の紹介で訪ねた元"剣聖"という人物。正しく剣鬼とも呼べるような剣気を纏う人物だった。
彼が相対しているアレンに対し、『人外』と言った。人ではない、と言った。その言葉が許せず、マナー違反かもしれないが外から私が口を出してしまった。
俯いて立ち竦むアレンの姿にも気付かずに。
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「どうか、父を許してあげて欲しいのです…あの人も、心からそんな事を言う人ではないので…」
「分かってます…」
体中に浅い切り傷を作り眠っているアレンを、剣鬼ーエルドの娘であるフォーランがアレンの手当をしながらサクラにそう言う。
本当は知っていた、彼も、私も。だからこそ、私が彼を護らないと……