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旧版 たまには異能力ファンタジーでもいかがです?  作者: 大野原幸雄
たまには重い女でもいかがです?
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08 イエロー・スナッグル④

ママは恋する乙女のようだった。


「パパ今日も素敵ね。かな、パパって世界一スーツが似合うと思わない?」


「似合ってると思うよ。」


「いやぁ、2人ともそんなに褒めないでよ。じゃあパパは仕事に行ってくるね。」


「いってらっしゃい。」


娘の前でもイチャつく2人。

どんな場所でもノロケる夫婦。


「本当にバカね」と思いつつ。

そんな2人を見ているのが大好きだった。


パパが死んじゃったとき。

泣き崩れたのはむしろ私の方で…

そんな私を強く抱きしめたママは、決して泣かなかった。


「パパは、かなの泣いてる所見たくないと思うよ。ほら、笑え。笑え。」


いやってほど泣いて、喉が痛くなるまで叫んだ。

やっと落ち着いた私の顔をつまんでママは…


「あんた今すっごい不細工。せっかく可愛く産んであげたんだから、ちゃんと可愛くいなさい!」


そう言ってにっこりほほ笑んでくれた。

その笑顔に、私はとても救われたんだ。


私はママを尊敬した。

私よりも絶対に辛いはずなのに、なんて強い女性なんだろうと…


ママは…パパや私のために泣かないんだ。

そんなママが、私は何よりも誇らしかった。


パパのお葬式の日


「旦那さん、残念だったね。奥さん大丈夫かい?」


「平気ですってば!私より辛気臭い顔しないでくださいよ!」


「大変だったねぇ。何かあったらいつでも頼っとくれよ。」


「ありがとうございます。むしろご迷惑をおかけしてすいません。おば様こそ何かあったら話してくださいね!」


ママは明るく親戚の人と話していた。

私もママを見習って、いつまでも泣いてばかりじゃ駄目だと思いはじめてた。


お葬式のあと家に帰って私達はすぐに眠った。

思った以上にお葬式って疲れる。


なんか寝付けなくってリビングに行った時…

わたしは見ちゃったんだ。


タンスに掛けてある…

パパのお気に入りのネクタイの前。


あんなに強いママが…

身体を震わせて泣いていた。


平気なはずないじゃん。


悲しくないはずないじゃん。


ずっと笑えるはずないじゃん。


だってママは…

あんなにパパが大好きだったんだから。






「…イノさん。私…できない…」



母親の眠る崩れたベット。

その前に立ち尽くす沖田かな。


彼女もまたベッドと同じように、今にも崩れだしそうだ。

彼女は母親にかけた能力をなかなか解除出来なかった。


大粒の涙を流しながら…彼女は何回も「できない」と言った。


「かなちゃん…」


考えてみれば当然のことだ。

この状況を生み出したのはこの子自身。

この状況を望んだのはこの子自身。


「だって…ママ…これを解いたら…きっとどこかへ行っちゃう…」


「…」


「ママを…あんなに好きだったパパが死んじゃった世界に…戻すことなんて…わたしにはできない…ッ」


お母さんがどこかへ行くはずがない。

それを一番わかっているのは沖田かな自身だ。

けれど、沖田かなはそれ以上に寂しいのだ。

頭でわかっていても、心が納得できないのだ。


「かなちゃん…」


「…」


涙は止まらない。


「お父さんが亡くなってからも、お母さんは君のために毎日夜食を作ってくれたんでしょ?」


「…」


「お父さんが亡くなってからむしろ、家事もしっかりこなしてるって言ってたじゃないか。」


「…イノさん…」


「そんなお母さんが、君を残してどこかへ行ったりするはずがない。」


「…」


洗面所には、赤と青とピンクの歯ブラシが仲良く並んでた。

リビングにはきっと沖田かなであろう幼い少女の遊ぶ写真が並んでる。

その他にも…話すのも照れくさくなる家族写真がたくさん並んでる。


まだ父親の影が残る家…

残された2人の女性。


俺がこの家に来たのは一昨日だ。

俺がこの家で入った場所は数か所だ。

そんな俺でも…こんなに感じるんだ。


沖田かなも知っているはずなんだ。


「お母さんは、お父さんと同じくらい君の事が大好きだったはずだよ。」


沖田かなの涙が晴れる。


「ママ…『ごめんね』」



沖田かなの身体がふわりと光る。

何も照らす事の出来ない弱い光。

けれどそれはとても温かい、優しい光だった。













「………か…な…」


「ママ…ッ!」


能力を解いてから沖田・母が目覚めたのは20分も後のことだった。

流動食ばかりで寝たきりになっていた彼女の筋肉は衰え、立つことは出来ないようだ。

しかし娘を抱きしめるその腕には、しっかりと力がこもっていた。


俺は2人の邪魔をしないようこっそり帰る準備を整えて、そっと出ていく。


しかしそこは格好つかない俺。

あっさりとかなちゃんにバレて、彼女を玄関まで出させてしまった。


「イノさん!」


一度バレないようにしていた手前、振り向くのが恥ずかしい。


「…一応ダストの精度を下げるお香は置いていくよ。必要ないと思うけどね。」


「本当にありがとうございました。」


「うん。まぁ…仲良くね。」


「…はい。本当にありがとうございます。」


「あぁ。それじゃあね。」


きっと父親がいなくても…

この母娘ならやっていけるさ。

羨ましいな。


俺は沖田家を後にする。


ガチャリ


さて…今日は何を聴いて帰ろうか。


「イノさん待ってください!」


俺は沖田家の前で立ち止まりリュックを開けて音楽プレイヤーを探していた。

なんていうか…つくづく俺はカッコ悪い。


「これから私、イノさんのお手伝いしますから!」


「…は?」


「助手探してるって言ってましたよね!」


「…え」


「それじゃあまた連絡します!」


沖田かなはそういうとバタンとドアを閉めてしまった。


はは…面白い子だな。

なんていうか女の子って強いな…


よく考えると俺の身の回りの女って皆強いやつばっかりだ…


まぁクールだった沖田かながあんなに笑顔になったんだし。

何か言うのも野暮な気がする。

今日はとりあえずこれで全部よしとしよう。







No2.沖田かな

能力名:イエロー・スナッグル(命名・執筆:失慰イノ)

種別:観察系 指定効果型

失ったモノ:父


能力者本人が「どこかに行かないで欲しい」と願った人物が対象となる。

『ここにいて』という言葉を発する事で能力が発動し、『ごめんね』と発する事で解除される。

対象となった人物は身体が重くなり、想いが大きいほどその力は強くなる。

大きすぎると、身体を重くするだけでなく相手の意識を奪う危険性もある。

自分でコントロールできるようになったようなので、とりあえず放置。

たぶん平気。




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