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9.奇妙なパーティができました

「アークはんはこれから早速どこかに鍛えに行くんかいな?」

「はい。ちょっと従魔を鍛えようかなと思っていますよ」

「ほんなら、ウチもついて行ってもええか? アークはんの魔物の強さをもっと見てみたいねん」



 えっ!?

 まさかの同行パターンなの!?

 いや、僕の事を気に入ってくれたのは嬉しいけど、ここまでされるのはなぁ……



「お店は大丈夫なんですか?」

「問題ないで! 今だって従業員が頑張ってるからな! ウチはただ店を遠くから見守っているだけなんやねん。つまりはウチが店にいなくても全く問題ないって事や!」

「そ、そうなんですか……。別に来てもいいですけど、きっと幻滅しますよ?」

「かまへんかまへん! それにウチがついていった暁には、万が一の時にアークはんを守ってやってもええんやで! どや、悪くない話やろ!?」



 まあ、確かにそうだけど……。

 メルは魔法使いで、恐らく僕達よりは実力は上だ。

 少なくとも同行して足手まといになる事はないだろう。

 それにメルは魔法使いであって、魔物使いじゃないから、意外と合成に対する忌避感を持っていないかもしれない……。



「分かりました。一緒に行きましょう」

「おっ、話が分かるようで何よりやな! で、どこに向かうつもりなんや?」

「そうですね……これから南東にある湿地帯に行こうと思います」



 レクレスの町の南東にある湿地帯。

 そこにはアクアスライムが生息しているので、スライムを合成して強化する事が出来るのだ。

 種族の違うスライムを合成する事にはなるけれど、同じスライムを合成する事には変わりないので、暴走するリスクはほとんどないはずだ。



「湿地帯か、なるほどな。それじゃ早速行くで!」

「えっ、もう行くんですか!?」

「何や、あんさんが言い出したんやないか。あっ、もしかして準備が出来てないとか、そんな感じなんか?」

「いや、大丈夫です。ただちょっといきなりだから驚いてしまって……」

「時間は大事やで。時は金なりとも言うしな。やるべき事を決めたら早速実行! これは商売の鉄則やで!」



 えー、そうなんだろうか?

 時間が大事だというのなら先程の長話の時間がもったいなかった気がするんだけど……。

 まあその事は口が裂けても本人の前では言えないが。


 メルの言葉の真偽はともかく、早く行動を起こすに越した事はないか。

 あまりに突然過ぎてちょっとびっくりしてしまったけど、早速向かうとしよう。


 僕とメルはこうして湿地帯に行く為、ひとまず町の東門を目指す。

 するとその途中で――



「えっと……ギルドはどっちでしたっけ……あっ、アークさん! こんな所で会えるなんて、わたし、運が良いですね!」



 そう元気な声で声をかけてきたのは、例のダメダメ魔物使いのテイニーである。

 あー、何でこんな所で会ってしまうんだか。



「ごめん、ちょっと急用ができちゃって、ギルドに行けそうにないんだ」

「えー、そうなんですか!? そうなんですね……残念です……」



 僕の言葉を聞いてしょんぼりとしてしまうテイニー。

 ちょっと罪悪感はあるけど、ほらっ、僕は一度もギルドに行くなんて明言してないから、ね?



「どうして行けないのかニャ?」

「そうだね……。ちょっと用事があって……」

「あっしとアークの仲なのに理由を言ってくれないなんて水臭いニャ! これから何をするのか洗いざらい話すのニャ!」

「え? 洗いざらい?」

「そうニャ! そういえばアーク、謎の女性と一緒にいるみたいニャけど、一体何を企んでいるんだニャ? もしかしてあんな事やこんな事を……!?」



 そう言って恐れおののいた仕草を見せるレク。

 そして満更でもなさそうな笑みを浮かべるメル。

 おい、悪ノリするなよ、メル。


 一方でテイニーは何を言っているのかさっぱり分からない様子で、首をかしげていた。



「僕はただ従魔を鍛えに行こうとしているだけだよ?」

「そうなのかニャ? でもそれならどうしてこの女性が一緒に行くのかニャ?」

「僕が魔物を鍛える所を見たいんだとさ。あと、この人は魔法使いでもあって、いざという時は戦力になってくれるって言ってくれているんだ。だから同行をお願いしているんだよ?」



 ちょっとキツい言い方だけど、このような言い方をしないと諦めてはくれないよね。

 ギルド入会試験の時は頑張って守ってあげようとは思ったけど、流石にこれからもずっと守り続けるのはちょっと……と思う。

 テイニーやレクが一緒だと、テイニー達がはぐれないか常に気にしていないといけないし、何かを集中してやるどころの話じゃなくなるもんなぁ……。

 だから申し訳ないけど、ここは断らなくては。



「それなら戦力にさえなれば同行しても良いって事かニャ?」

「えっ? 別にそんな事は言っていないけど……」

「なら戦力になれるように努力するニャ! だからどうか一緒に連れて行って欲しいんだニャ! 頼むニャ、アーク!」



 そう言って必死に頭を下げてくるレク。

 そしてレクに追随するように頭を下げるテイニー。

 えーっと、何だか断りにくい雰囲気になっちゃったなぁ……。

 どうすればいいんだろう?



「ええやないか、一人か二人か位。なんだったら、ウチが面倒みよか? アークはんが修行に集中できないというのなら、その間、この子達に危険が及ばないようにウチがついとく。それでどうや?」

「えっ!? どなたか存知あげませんが、いいんですか!?」

「ええよええよ! ウチにどんと任せとき!」



 そう言うとえっへんと腕組みをするメル。

 細身の体をした見た目の割にはずいぶん度量の大きい人だよな、メルって。

 というか、ここまで言われちゃったら、断るという選択はないよなぁ……。


 うーん、やっぱり不安だ。

 でもこうなったら仕方がない。

 腹をくくろうか。



「分かった。そういう事なら一緒に行こう、テイニーとレク」

「えっ!? 一緒に行ってもいいんですか!?」

「感謝するニャ! さすがはアークだニャ!」

「そんなに大げさに言わなくていいよ。メルさんがあそこまで言ってくれているのに断れる訳ないじゃないか。……メルさん、いざという時はよろしくお願いします」

「任されたで! アークはんは思う存分、修行に励むとええよ! ウチはその様子を眺めさせてもらうさかいな!」



 こうして僕は、メル、テイニー、レクという三人(+一匹?)の奇妙な組み合わせのパーティで修行しにいく事になった。

 ……あっ、もちろんヴァルドや他の従魔もいるけどね。





 湿地帯に向かう途中、僕はとある素朴な疑問をメルに投げかける事にした。



「そういえばメルさんはどうしてこんなに僕の為にしてくれているんです? どれもメルさんには関係ない事なのに?」

「せやな……純粋な好奇心以外の何物でもないな。テイニーはん、レクはんも一緒にいた方が真のアークはんの姿を見れる、そんな気がしただけや」

「そ、そうなんですか……。あと、そもそも魔法使いって魔物使いの事を忌み嫌う印象があったんですけど、メルさんはそうではないんですか?」

「ああ、一般的にはそう言われとるな。だけどそれはギルド所属の魔法使いの場合の話や。ギルドに所属している魔法使いの場合、魔物使いと依頼の競合が起きるから、魔物使いの事をよく思わないやろな」

「つまりはライバル関係にあるという事ですね?」

「そういう事や。だけどウチはギルドには所属してへんから、その辺りは関係ないねん。まあ、アークはんとは商売道具を争った経験はあるけどな」



 フフと不敵な笑みを浮かべるメル。

 そういえばメルはあの時何していたんだろうか?



「メルさんってあの時何をしていたんですか? ゴブリンの棍棒を集めているようでしたけど……」

「ああ、あれか。せやな……ウチの知り合いの鍛冶屋から頼まれていたんよ。ゴブリンの棍棒を100個以上集めてきてくれって。だからウチにも用途はいまいち分からへんのよ。すまんなぁ」

「あっ、いや、分からないのならいいんです。ちょっと気になっただけですから!」



 鍛冶屋に頼まれてゴブリンの棍棒を100個以上集める、か。

 従業員がいるのなら従業員にやってもらえば良いと思うのは気のせいだろうか?

 まあ、そこの辺りはメルなりのこだわりがあるんだろうけど。

 いまいち僕は商売については分からないからね。





 歩き続け、湿地帯に到着した僕達。

 さて、アクアスライムはどこにいるんだろうか?



「そういえばアークさん、こんな所に来て何をするんでしょう?」

「決まってるニャ! アークは修行をしに来たんだニャ。つまり、魔物を倒しに来たんだニャ!」

「そうでしょうか? でもそれだとわざわざここに来なくてもいいのでは? 途中の草原で魔物を倒しても良い訳ですし……」

「むむ、確かに言われてみればそうだニャ……」

「わざわざここに来る理由……あっ、分かりました! ここにはアクアスライムがいるはずです! きっとアクアスライムを従魔にしに来たんじゃないでしょうか!」

「おお、確かにそんな気もしてきたニャ!」



 僕がアクアスライムを探していると、そんな感じで僕が何をするのかテイニーとレクで予想をし始めていた。

 残念ながら予想は外れているようだけど。

 まあテイニーの予想はだいぶ近かったかな。


 それからもしばらく歩いていると、ついに目的の魔物を見つける事が出来た、



「いたっ、アクアスライムだ! みんな、下がってて!」



 僕の声を聞いて、テイニー達は一歩後ろに下がる。

 さて、僕達の修行、始めるとしますか!



 僕はスライムとゴブリンの連携攻撃によって、アクアスライムを難なく弱らせる事に成功し、スライムによって拘束する事にも成功した。

 スライムはアクアスライムの下位種族ではあるのだが、僕のスライムは幾度となく重ねた合成によって、アクアスライムよりも遥かに丈夫な体を手に入れている。

 故にアクアスライムを拘束する事も容易いのだ。



「へえ、アクアスライムを圧倒するスライムか。そんな話聞いた事がないで! でも、そんなに強いスライムなら手放すのは勿体無いんちゃう?」

「メルさん、僕がいつこのスライムを手放すと言いました?」

「あっ、という事はスライムを二体使役するんかいな? 確かにスライムは応用のしがいがある魔物だとウチも思い知らされたけど、でも同じ種族を二体というのは――」

「いや、そういうつもりもないですよ、メルさん?」

「へっ? それじゃどないするちゅーねん? 明らかに使役するような体勢に入っとるやないか?」



 まあ確かにアクアスライムを使役するような体勢ではある。

 だけど僕はこのアクアスライムを使役できるだけのカリスマ力を持っていない。

 つい最近ヴァルドに聞いた話によれば、今の僕のカリスマ力は8だという。

 一方でアクアスライムを使役する為に必要なカリスマ力は12~20。

 全然足りないのだ。


 そんなアクアスライムを圧倒する今の僕のスライムは必要カリスマ力が1であるが、実力的にはそれ以上の価値があるといってもいい。

 実に貴重な存在だよな。


 さて、早速合成を始めますか。



「まあ、見ていれば分かるよ」



 僕はアクアスライムの周囲に合成陣を描く。

 そして意識を集中させ、そしてスライムにアクアスライムを融合するイメージを浮かべる。

 すると――



「おおっ、アクアスライムがスライムに吸収されとるやと!?」

「えっ、アークさん、もしかしてこれって……」

「こ、こんな事して大丈夫なのかニャ!?」



 合成の場面を口々に感想を言うテイニー達。

 だけど僕はその言葉を気にせずに合成を続ける。

 そしてついに――



「……ふう、これで大丈夫かな? ヴァルド、様子はどう?」

「……大丈夫だ。スライムの体は安定している。問題ないだろう」

「成功したみたいだね。良かった……」



 今回の合成は同じスライムとはいえ、違う種族との初めての合成だ。

 故に十中八九大丈夫だと分かっていても、心配にはなるよね。



 さて、合成も無事完了した事だし、次のアクアスライムを探そうかな。

 ……おっ、早速アクアスライムを発見!



「みんな、後ろに下がってて!」

「えっ? アークはん、またアレをやるつもりなん? 大丈夫なんか?」

「うん、大丈夫。だからメル達はそこで待ってて!」



 僕は同じ要領でアクアスライムの合成を成功させる。

 正直この感じだと、スライム一体だけでもアクアスライムに押し勝てそうだったな。

 一応念の為にゴブリンとの連携は続けるけど。



 ヴァルドにスライムの体の具合を見てもらって、今回の合成も無事に完了っと。

 落ち着いた所でレクが僕に話しかけてきた。



「アーク、それって多分、合成という技術を使っているニャ?」

「うん、そうだけど……」

「今すぐ止めた方がいいニャ。アークほどの実力なら今の従魔だけでも十分やっていけるニャ。もしやっていけないのなら、上位種族を従えれば良いんじゃないかニャ? アークにはそうするだけの実力があるニャ」

「わたしもそう思います。合成って魔物さんがおかしくなってしまう危ない技術というイメージがありますから……」



 実力がある、ね。

 確かに上位種族の魔物を拘束し、使役する体勢を作るだけだったら普通に僕でもできるだろう。

 だけど僕にはその魔物を従える為に必要なカリスマ力がないんだ。

 十分なカリスマ力があれば、僕も上位種族を従えようとしていたかもしれないけど。


 そういえば僕のカリスマ力に関してはテイニー達に伝えていなかったな。

 果たして、この事は言うべきか、言わざるべきか……。



「アークはん、もしかしてあんさん、カリスマ力が足りないんちゃいますか?」



 メルがそうポツンとつぶやいた。

 その言葉を聞いて、キョトンとした表情を浮かべるテイニーとレク。



「そういう事ならアークはんがあのゴブリンに固執した理由は理解できるんや。あのゴブリンは特別他のゴブリンよりも小柄やった。せやから、恐らく必要カリスマ力が少なかったんとちゃう? アークはんはあのゴブリンが強いから選んだのではなく、あのゴブリンしか選べなかったという事や」



 メルの言葉を聞いて、そうなの? とこちらの方を見てくるテイニーとレク。

 ここまで的確に言われちゃったら、今更誤魔化す訳にはいかなそうだな……。



「はい、メルさんの言う通りです。僕が持っているカリスマ力は少ない。だからこそ、僕は今の魔物をひたすら強化して強くする方法をとっています。というよりも、それしか僕が強くなる道はないんです!」



 僕がそう言うと、驚きの表情を浮かべるテイニーとレク。

 一方でメルはうんうんとうなづいて納得がいったような様子を見せた。


 僕の実力を買っていたメルの事だ。

 きっとそのカラクリというか、メッキが剥がれた事で、さぞ幻滅している事だろう。

 だからきっと幻滅すると釘を刺しておいたんだけどな……。



「アークはん、さっきウチが渡した会員証、返してや」



 ほら、やっぱりね。

 こうなるとは思っていたんだ。

 いくら事前に予防線を張っていたからといって、メルの感情が変わる事なんてないんだ……。


 僕はおとなしくメルの言う通り、会員証をメルに渡した。

 そして会員証を受け取ったメルは一歩僕の方から遠ざかり、僕に背を向ける。



「カリスマ力が少ない。つまり、アークはんは自身に才能がない事を分かっていながら、あえてその道を選んだんやな?」

「はい、そうですけど……」

「そして恐らくその為には相当努力してきたという事やろ? でないとアークはんがここまで強い理由が分からへんからな」

「まあ、それなりには苦労はしてきましたね……」



 メルは僕の言葉を聞いても、背中を向けたまま、しばらくその場に立ち尽くしていた。

 そしてグスッとなんか鼻水をすするような音が聞こえる。

 ん?

 一体メルは何をしているんだろうか?


 そしてこちらを振り向いた時には顔を真っ赤にして涙を目にためた状態になっていて――



「本当におもろいわ、アークはん! ウチは決めたで! ウチはアークはんが世界一の魔物使いになれるように全力でサポートしたる! ウチが常についているさかい! 会員証なんてもういらんで!」



 あー、会員証の返却を要求されたのはそういう意味だったのか。

 ……って、ええーっ!?

 メルさん、僕に幻滅するどころか一層熱が入っちゃってますけど!?

 こ、これってどういう事なの!?

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