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8.ワームの群れに襲われました

「えっと、この辺りにあるはずなんだけど……」



 僕達は森深く入って、薬草があると言われている所付近までたどり着く。

 確か薬草は独特な匂いがするはずなんだけどな。



「アークさん、薬草ってどういう草なんですか?」

「うん。薬草は独特な匂いがするんだ。ちょっとツンとするような匂いと言えばいいかな」

「ツンとする匂いですか……ちょっとわたしも探してみます――」

「あっ、えっと気持ちはありがたいんだけど……テイニーとレクは出来るだけ離れないでいてくれた方が助かるかな。こんな所で迷われたら探しようがないしさ」

「あっ、そうですよね。ごめんなさい……」



 僕達が今いる場所は森深くで、森の入口よりもさらに暗くなっている場所だ。

 ちょっと離れたら見失いかねないし、そうなったら探すのは困難になってしまう。



「クンクン……アーク、あそこから匂いがするニャ。あの辺りに薬草があるんじゃないかニャ?」

「あー、あの匂いは薬草じゃない。マンドラゴラの典型的な匂いなんだ。ほら、あそこに双葉があるだろう? あれは多分マンドラゴラだ。近づかない方が良いと思うよ」

「へぇ、あれはマンドラゴラなのかニャ。アーク、よく分かるニャ?」

「まあ本で読んだ特徴と一致するからね。本物は僕も初めて見たよ」



 余裕があったら実際に確かめてみたい所だけど、今は近くにヴァルドがおらず、スライムとゴブリンだけでテイニーとレクを守らないといけない状況だし、とてもそれどころではない。

 ここはさっさと薬草を採ったら帰るべきだろう。



「あっ、アークさん。もしかしてあそこにあるのが薬草ではないですか!? 見た感じ、お店にあるようなものにそっくりですよ!」



 テイニーの指さす方向を見ると、確かに本で見た薬草の絵と似た植物の姿が。

 僕はその植物に近付いてみる。



「……うん、確かによく似ているね。だけどこれは薬草じゃない。薬草モドキだ」

「えっ!? 薬草モドキなんてあるんですか!?」

「うん。見た目は薬草とほとんど変わらないんだけど、薬草特有の匂いがしないのは薬草モドキの特徴だ。だけど、薬草モドキの近くに薬草はあるはずだから、この辺りを探っていけば――あった!」



 僕は独特な匂いをする草、薬草をついにその手につかみ取る。

 これを持って帰れば、無事依頼は達成か。


 薬草は色々な用途で使えるので、少し多めに採取しておく。

 もちろん、テイニー達にも薬草は渡しておいた。



「こ、これが薬草なのですね!? ありがとうございます、アークさん!」

「いや、それほどでもないよ。さて、そろそろ帰ろうか。こんなに薄気味悪い所にずっといたくないからね」

「はっ、はい! そうしましょう!」

「しっ! どうやらそう簡単には帰らせてもらえそうにないようだニャ……」



 レクが警戒して見ている方向を見ると、そこには二体のワームが。

 他の方向にも続々とワームが押し寄せてくる様子が見える。

 こりゃ、もたもたしていると取り返しがつかなくなりそうだな……。



「テイニー、レク、僕が道を作る。そうしたら僕は走るから、遅れないようについてきて!」

「あっ、はい! 分かりました!」

「うむ、了解したのニャ」



 ワームは動き自体は遅いが、こうやって集団で襲ってくることと、後は毒針と糸が厄介なんだよな。

 できるだけ刺激を与えず、かつ攻撃手段を封じなくては。

 帰る方向にいる二体のワームだけを何とかして、ここを駆け抜ける事にしよう。



「スライム、分裂! そしてあの二体のワームの頭に吸着! ゴブリン、あの木とあの木に向かってゴブリンクラッシュ!」



 僕の指示に従って、スライムは進行方向にいるワームの頭にスライムが分裂した体を吸着させ、ワームの攻撃を封じる。

 そしてゴブリンはその周囲のワームがしばらく襲って来れないように、木を切り倒す。

 よし、これで道はできた。



「二人とも、今だ! 急ぐよ!」

「「は、はいっ(ニャ)!」」



 僕はテイニーとレクがついて来れる最大限のスピードで走り続ける。

 そして頑張った甲斐もあって、ワームに追いつかれる事もなく、無事に森を抜ける事ができた。



「はぁ……はぁ……何とか切り抜けられたようだね」

「ほ、ほんとう、死ぬかと思いました……」

「でも、何とかなったニャ。アーク、お主という奴はいかに機転の利く奴なのニャ!? 実に感服だニャ!」

「本当にそうですね……。アークさん、本当にありがとうございます」



 ぜえぜえ言いながらも、感謝の意を伝えてくる二人。

 なかなか二人を守りながら行動するって難しかったけど、でも意外と悪くはなかったかな?

 ……いや、まだ感想なんて言っている場合じゃないよね。

 依頼は完全には終わっていないのだから。

 ほっとするのは依頼報告終えてからにしないと。


 さて、森の外に出たことだし、ヴァルドがこの辺りで待っているはずなんだけど……。

 あれっ、いない?



「キャーーーー!?」

「にゃにゃにゃ、ニャーーーー!?」

「ど、どうしたの二人とも!? あ、あれは……」



 突然ひっくり返るかのように腰が抜けるテイニーとレク。

 その二人が見ている先にあるものは――



「おう、アーク。随分と遅かったな」



 空からすっと飛んで着地したヴァルド。

 別にヴァルドがここにやって来るのは問題ない。

 ヴァルドの姿自体は他の人には見えないのだから。

 だが問題は――



「ヴァルド、そのくわえている物は何?」

「ん? これか? いや、久しぶりに食いたくなってな、グリフォンの肉。いやぁ、美味いんだな、これが」



 ヴァルドはそう言うと口にくわえたグリフォンの死骸をどさりと置いた。

 するとテイニーとレクはその音を聞いて一層びくりとした反応をする。



「ごめん、二人とも、ちょっと後ろ向いてもらってもいい?」



 テイニーとレクは事情が分からないようだったが、でも僕の言われた通り、後ろを向いてくれた。



「ヴァルド、食べるなら早く食べちゃって。二人には見ないようにしてもらっているから」

「あ? ああ、分かった。……アークも食うか?」

「いらないよっ! さっさと食べろ!」

「あーへいへい」



 グリフォンは危険度で言えばBランクの魔物であり、先程のワームより三ランクも上の魔物だ。

 もちろんそんな魔物はこの付近に生息するはずもないので、きっとどこか遠くに飛んで行って狩ってきたんだろうな、ヴァルドは。


 ちなみにグリフォンの肉は美味という話を聞いた事があるが、さすがにヴァルドが噛みついていてグロい状態のグリフォンを食べたいとは思わない。

 そもそも生で食べようとは思わないんだけどね。



「食べ終わったぞ」

「二人とも、もういいよ」



 僕の声を聞いて、ようやく辺りを見渡すテイニーとレク。

 グリフォンの死骸がなくなった事により、辺りはいつも通りの草原に。

 地面に付着した血はヴァルドに技を使って洗い流してもらいました。



「えっと……先程のグリフォンの死骸は何だったのでしょう?」

「き、気のせいだよ。うん、きっと気のせい! 僕達、だいぶ疲れているからね!」

「そ、そうに違いないニャ……。この近くにグリフォンよりも強力な魔物がいるなんて、考えたくもないニャ……」



 いや、常に近くにいるんですけどね。

 ただ見えないだけで。

 まあ、そんな事を言ったら余計に混乱させてしまうだけなので、言わないけれど。


 こうして、しばらく震えが止まらない二人を連れて、僕は何とか町まで戻る事にした。






「ふむふむ。これは薬草で間違いないですね。確かにお預かりしておきます」

「という事は?」

「無事入会試験に合格という事です。おめでとうございます!」



 ギルドの受付にて薬草を渡した僕達。

 そして今、依頼達成を受付の人に伝えられた所だ。

 依頼達成を伝えられた後、ギルド所属を証明するギルドカードが渡されたので、僕とテイニーはそれを受け取った。



「ついに……ついにわたし、ギルドに入る事が出来たんですね……!」

「フフフ、これであっしも立派なギルド所属のケットシーになれたのニャ……!」



 ギルドに入れた事を大喜びする二人。

 そしてその様子を見た周りの人からはどよめきが起こっていた。



「おい、あのダメダメ魔物使いが入会試験に受かったってマジかよ?」

「おいおい冗談じゃねーぜ? これからは毎日アイツの顔を見る事になるのかよ? そりゃねーぜ」

「いや、元々アイツ、毎日来てただろ? 見る場所が臨時掲示板じゃなくて通常掲示板になるだけの話だ」



 そんな感じで散々な言われようである。

 流石は地元で有名なダメダメ魔物使い。

 その名は伊達ではないようだな。

 僕もその片鱗を垣間見た気がするし。


 さて、依頼をこなした事だし、今日はもう休むとしようかな。

 疲れちゃったし、それに依頼の報酬で少しお金に余裕が出来たから、休んでも問題ないはずだからね。



「あっ! アークさん、どこに行くんですか!?」

「どこって、宿屋に戻るだけだよ? ちょっと疲れちゃったからね」

「あっ、そうですよね……分かりました。では明日、一緒に依頼を受けませんか!? わたし、アークさんと一緒なら、また依頼を無事にこなせる気がするんです!」



 えっ?

 う、うーん……どうしようかな?

 正直テイニー達とこなした依頼は楽しかったけど、でもこれからもずっとテイニー達を守り続けるというのはちょっと気が滅入るな……。

 それにテイニー達を守りながら行く事を考えると、行ける場所も制限されるだろうし、良くてたまに手伝う位の関係にしておきたいね。



「そ、そうだなぁ……。機会があったらね」

「そうですか! ありがとうございます! それじゃわたし、明日、ここで待ってますので、絶対に来て下さいね!」



 遠回しに断ったつもりなんだが、テイニーは肯定の意味で受け取ったようだ。

 うーん、言葉ってなかなか難しい。

 周りの人からは何だか哀れみの目で見られているような気がするのは気のせいだろうか?


 ……まあ、いいや。

 すごい待たせたら諦めてくれるだろう、きっと。

 明日はまた何か別の事をしようかな。



 そんな感じでテイニーとレクから溢れんばかりの笑顔で見送られながら、僕はギルドを去って、宿屋へと戻った。





 それから宿屋で一泊して次の日。

 さて、今日はどうしようか?


 ちなみに朝食と夕食は宿で用意してくれるので、わざわざ食事をとるために外に出歩く必要がないのが良いよね。

 まあ、結局別の目的で外を出歩く事になるんだけども。


 僕は朝食をとってから、宿屋を後にした。

 そして、町の地図を見ながら目的の店を探す。



「アーク、ギルドには行かないのか?」

「うん。今日はちょっと別の事をしたくてね」



 僕が今日しようとしているのは、ヴァルドを大きくしたり小さくしたりする手段について探す事だ。

 そういう便利グッズがとある店にあると本に書かれていたのだ。

 ただ、その店は不定期に開かれていて、いつ開いているのかは分からないとの事だが、果たして開いているのか……。


 僕はその店を目指して歩き続けると、その店があるらしい所の周辺までたどり着く。

 すると何か聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「さあ、寄ってらっしゃい! 見てらっしゃい! あらゆる品物が手に入ると噂のアツメル総合店とはここの事なんやでー! さあ、そこのあんちゃんも、そこのお嬢さんも、どうぞ見ていってやー! 損はさせまへんでー!」



 この独特な口調に、この声ってまさか……。


 その声がする方に向かっていくと、そこには僕が想像した通りの人がいた。



「アツメル総合店って、メルさんが運営していたんですか……!?」

「さあ寄って――はい? 何かウチに御用でっか? ……って、あっ! あんさんはあの時の!」

「はい。僕は魔物使いのアークです。お久しぶりです」



 出会ってから2日しか経っていないのに久しぶりと言うのもどうかと思うけど、適切な言葉が見つからなかったから、まあ、いいや。



「この町に来とったんか、アークはん。来るなら来るって言ってくれれば良いのに。水臭いなあ」

「えっ……えっと、そもそも僕、メルさんがこの町にいらっしゃる事自体知らなかったですし……」

「あっ、それはそうやね。ついウチとした事がうっかりしてもうたわ。これあげるから堪忍してやー」



 そう言ってメルが渡してきたのはカードみたいなものだった。



「あの、これは?」

「それはな、ウチが経営しとるアツメル総合店の会員カードや! そのカードがあるとウチの店で色んな物が会員価格で安く買えるんやで! アークはんは魔物使いやろ? 魔物使いならきっとウチの店に立ち寄る事も多いと思うねん。だからきっと役立つでー!」

「えっ……えっと……こんなに良い物をもらっても良いんでしょうか?」

「かまへんかまへん! 前の戦いでうちはあんさんを気に入ったんや! 小さなゴブリンに固執する強き魔物使い。なんと意味深な人なんや、あんさんは! それに突然吹くあの突風はなんや!? あんなもの、ウチは見た事あらへんで!」



 興奮気味にそうまくしたてるメル。

 思わずその言葉の勢いに圧倒されそうになる。

 えっと……少なくとも僕に悪い感情を抱いていない事が分かった。

 むしろ気に入ってくれたという事も。

 だけどこの一方的に話されるこの言葉の洪水はなんだかなぁ……。


 それからもメルの話は長々と続いた。

 その間、ひたすら聞き役に回る事になった僕。

 そして話が始まってから数十分後……。



「~という事なんや! 笑えるやろ! ハハハ!……って、あれっ? アークはん、そういえばウチの店に何か用があるんやったか? すまへんな、話が長くなってしもて」



 あっ、ようやく話の本題に入れそうだ。

 話が長くなる次元が違すぎて、もう何も言えないよ……。

 とにかく、用件を伝える事にしよう。



「えっとですね……実は僕、生物を小さくしたり、大きくする手段を探しているんです」

「ほう? 生物を大きくしたり小さくしたりする手段、か。それはどうして必要なんや?」

「それは……例えば大きすぎる生物を一緒に連れて行きたい時にそのままのサイズだと困るって言いますか……」



 まあ、つまりはヴァルドの事なんだけどね。

 その言葉を聞いたヴァルドは俺様を小さくしようとするなんて何様だとか吠えているが相手にしない事にする。



「大きすぎる生物か。それはどんな生物なんや?」

「そうですね……。見上げる程に大きくて、大きな翼が生えていて、黒い鱗が特徴的な――妖精といった所ですかね?」

「な、なんやそれ? 途中まで魔王ヴァルドの特徴だと思ったら、まさかの妖精かいな!?」

「はい、そうなんです。実は僕、その妖精と知り合いでして。その妖精が体の大きさに悩んでいる状態なんです」



 まあ妖精にしてはいかつくて凶暴過ぎるんだけど。

 でも飛ぶための羽根が生えている所は同じだから妖精と言えなくもない、よね……?

 だって本当の事を言ってもとても信じてくれそうにないだろうし。


 僕がそう言うと、少し考え込むような仕草をしてから、メルは急にガハハと笑い始めた。



「本当におもろい人やな、アークはんは! ええで! その話のったる! せやけど、その為には材料が必要や。あいにくその道具は切らしていてな。新しく作る必要があんねん」

「なるほど。その必要な材料とは何なんですか?」

「エルフの髪やな。森のさらに奥に住むというエルフ。その髪の毛さえあれば、後の材料は何とかなりそうやで」



 エルフ……。

 その危険度はD級とされており、先程のワームよりもさらに一つ上の危険度だ。

 それに森の奥に住むという事は、ヴァルドの力に頼る事も出来ないので、自力で何とかするしかない。

 となれば、もう少し従魔の強化が必要そうだな……。



「分かりました。ちょっとまだ僕の実力ではエルフには敵いそうにないので、もう少し鍛え直してからお願いする事にします」

「おや、ええんか? ウチを負かしたあんさんの実力なら、エルフ位何とかなると思っとったんやけど?」

「それは買い被り過ぎですよ。前回勝てたのは運が良かったからです。僕はまだFランクの駆け出し魔物使い。もっと強くならないといけないんです」

「ほう、まだFランクやったんか。それであの実力という事なんやな……」



 確かに無理をすればエルフに勝てなくもないかもしれない。

 だけどそうすると、僕はスライムもゴブリンも失ってしまう危険性がある。

 カリスマ力のない僕の場合、その事は死活問題なのだ。

 カリスマ力に乏しい僕の場合、どうしても上位種族を使役する程のカリスマ力がないから、また同じ種族を育て直す必要が出てくる。

 でもそうなると、今のスライムやゴブリン並みの強さにするには何回合成が必要なのか想像もしたくない。


 だから余程の事がない限りは無理をしない範囲で頑張っていかないといけないと思うんだ。

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