6.レクレスの町に到着しました
「うわぁ、ここがレクレスの町なのか……」
初めてたどり着いた、フィラミル以外の町。
そこでは色々とフィラミルの町と違う点があった。
まず家の色が違う。
フィラミルの家は薄い黄色の土でできているのに対し、ここレクレスの町は濃い黄色の土でできている家が大半のようだ。
きっと土質が違うんだろうな。
後は町の人の服装も違う。
フィラミルのほとんどの住民はカーキ色な落ち着いた色の服を着ているのに対し、レクレスの町の人はありとあらゆる色やデザインの服を着ているのだ。
町が違うとこんなにも違うものなんだな……
「なあ、アーク。本屋はどこにあるんだ?」
「あっ、そうだったよね。僕もこの町の事はよく分からないから、この町の人に聞いてみよう」
新しい町に着いたら、まずは本を読んで情報収集するって決めていたんだった。
それはヴァルドの呪いの解除方法を探す為でもあるし、新しい知識を蓄える僕自身の為でもある。
ということで、僕は町の人に話しかけ、本屋がどこにあるかを聞いてきた。
町には本屋が複数あるみたいなので、その中でも一際規模の大きな本屋へと向かう事に。
「……うん、なかなかの数の本がありそうだね。新しく読める本もたくさんありそうだ」
「ああ、そうらしいな。で、俺様の呪いを解くカギはありそうなのか、アーク?」
「ちょっと待ってて。さすがに着いたばかりじゃ分かるはずがないよ。今、探してみるから」
本屋にたどり着いた事で、焦る気持ちを抑えられない様子のヴァルド。
まあ初めてのこういう機会だし、気持ちは分からなくもないけど。
ちなみにヴァルドは本屋の中まで入ってこれないので、いつも通り、外でお留守番をしてもらっている。
そんなヴァルドの周囲には人が寄り付かないので、人混みの中でヴァルドのいる空間だけがぽっかりとスペースが空いているような状態になっているんだろうな、他の人にとっては。
でもそんな事を気にする様子を見せる人はいないし、どうなっているのか実に不思議なんだけど。
……とにかく、ヴァルドの事は気にしないで、僕はやるべき事をしないとね。
僕はとりあえず呪いに関する本を漁りまくる。
すると読んだことのない内容の本がたくさんあったのだが、残念ながらヴァルドの呪いに関する事は一切書かれていなかった。
この本屋では収穫なし、か。
この本屋以外の本屋にも行ってみたのだが、それでも収穫はなし。
どうやらこの町の本屋にはヴァルドの呪いに関する本は置いていないらしい。
「ということなんだ、ヴァルド。残念だったね」
「あーくそっ!? 何で置いていないんだよ!? くそがっ!」
そう言うとヴァルドは悔しそうに地団駄を踏む。
複数の本屋を巡っても、全く収穫が得られなかった。
せっかく新しい町に来たのに何も得られるものがなかったら、そりゃ嫌にもなるよね。
「ヴァルドの気持ちは分かる。でも、それだけ高度な呪いをかけられたって事だよね、きっと。また他の町に行ったら探してみるからさ、ここは一旦落ち着いて?」
「……やっぱり簡単に解決する問題ではねえか。すまない、アーク。ちょっと取り乱しちまった」
そう言うとおとなしくなったヴァルド。
まあヴァルドも簡単には呪いが解けるとは思っていないみたいだし、気長に待ってもらう事にしよう。
「そういえばアーク、その手に持っている一冊は何なんだ? 俺様の呪いを解く本ではないって事だろ?」
「あっ、うん。ごめん。これは僕が個人的に興味があって買った本なんだ」
今、僕が手に持っているのは、『魔物使いギルド大全』という本だ。
その題名の通り、この本には魔物使いギルドに関するありとあらゆる情報が載っている。
その中でまず知りたい情報は――
「……うん、ギルドはあっちの方にあるみたいだ」
「ギルド? ああ、魔物使い達が集まっている所の事か。俺様には何をやってるのかさっぱり分からんが」
「まあヴァルドには関係ない事だもんね。知らなくても無理はないか」
「一体どういう所なんだ、ギルドっていう所は?」
「うん、それはね――」
魔物使いギルドとは魔物使い達が集まる場であり、魔物使いが行う仕事も集まる場でもある。
様々な仕事が集まるから、魔物使い達はそこに集まり、時には一人で、時には仲間を集めて依頼をこなすのだ。
ただ色んな依頼があるとはいっても、いきなり全ての依頼に携われる訳ではない。
依頼をこなした実績によってランクが上はAから、下はFまで振り分けられる。
もちろん誰でも一番最初はFランクから始まるんだけど。
そして実績を積み重ねるにつれ、ギルドからの信頼が得られ、上のランクへと昇格し、より多くの依頼が受けられるっていう仕組みだ。
「なるほどな。仕事が集まる場だからこそ、人も集まるっていう訳か」
「そういう事。いくら魔物使いとはいっても、仕事がなければ収入がなくなってしまうからね。まあ、例外もあるんだけど」
「例外?」
「うん。ギルドに所属しない魔物使いだっているんだ。例えば魔物の部位を売って生計をたてる人だっていたりする。そういう生き方をしている人ならばギルドに所属しなくたって生きていけなくもないんだ」
「なるほどな。そうする事によるメリットはあるのか?」
「そうだね……。例えば販売による報酬を100%自分で手に入れられるという事が挙げられるかな。ギルドの依頼の場合は報酬のいくらかはギルド本部にとられてしまうから」
「そういう事か。ただ、その分自分で仕事を探さないといけないから大変そうだけどな」
「うん、実際はその通りなんだ。仕事を自分で探す労力をかける位なら、元々用意されているギルドの依頼をこなした方が良いと考える人が多い。だからギルドに所属しない魔物使いの方が少数派なんだよね」
ギルドの依頼の方が、わざわざ誰かと個人的に関わり合う必要もないし、依頼内容に集中できる。
それにギルドの依頼は信頼性の高いものだけが集められているから、依頼をこなしたのに報酬が支払われないという事もほとんどない。
個人的に請け負った依頼の場合、報酬が支払われないとかそういうトラブルがあるって聞いた事があるからね。
そういう事情があるので、僕はもちろんギルドに所属するつもりだ。
僕の場合はお金をたくさんもらう事よりも、依頼をたくさんこなす事の方が大事だからね。
依頼をたくさんこなして、より魔物達を強化していく。
あと、依頼をこなしていくうちに魔物使いとしての名声を得る。
そんな事がしてみたいんだよね。
さて、本屋は見終わった事だし、早速ギルドに向かってみるとしようか。
本買っちゃったから稼がないとお金があまりないしさ。
本に書いてある小さな地図を見ながら、ギルドを目指す僕。
するとよそ見をしていたのか、誰かと思いっきりぶつかってしまう。
「あっ、いてっ……す、すいません。大丈夫――」
「ごごごごめんなさい! ごめんなさい! わ、わたし急いでいるので、すいませんですー!?」
そう言って僕とぶつかった相手は逃げるように走り去って行った。
あの女の子の慌てよう、一体何だったんだ……?
あの子の後ろには共に走り去っていく黒と白の毛並みのケットシーがいたことから、あの子は魔物使いなんだろうけど。
「あー、あの子、あの様子だとまた試験落ちるだろうなぁ」
町の人がそうつぶやくのが聞こえる。
ん?
それってどういう事だろう?
また試験に落ちるって事は、何度も試験を受けているという事だろうか?
「あのー、すいません。また試験に落ちるってどういう事ですか?」
「あー、君は見た感じ、この町に慣れていないみたいだね? いいよ、教えてあげる。あの子は地元では有名なダメダメ魔物使いの女の子なんだ」
地元では有名なダメダメ魔物使い……。
うん、何となくそんな雰囲気は感じた。
「そんなにダメなんですか?」
「うん。あの子はそもそもまず時間の管理ができてない。魔物使いになる為の試験は15時までに受付をしなければいけないのに、こんなギリギリの時間で走って移動するなんてナンセンスだよ」
そう言って肩をすくめる町の人。
……えっ、魔物使いになる為の試験は15時まで?
そんな事書いてあったっけ?
えっと……あっ、書いてあった。
そして今の時刻は14時58分……。
うん、詰んだね、僕。
「すいません、僕も人の事言えないかもしれないです……」
「おや、そういえば君も魔物を連れているみたいだし、ギルド入会志望なのかな? まあでも大丈夫だよ。明日受ければいい話だから」
「そうですよね……はい。とりあえず今日は諦めて、町を見て回る事にします」
「うん、そうするといいよ。まあ大抵の人は受かるから、あまり気構えずに、ゆっくりと受けるといいよ」
そう言って片手をあげ、僕から去っていった町の人。
その人の周囲には妖精がふわっと飛んでいるのが見えた。
あの人も魔物使いということなんだろうな。
つまりは先輩魔物使いといった所か。
それにしても時間制限があったとは予想外だったな。
とりあえず、ギルドには行くだけ行ってみようか。
どんな所なのか見ておいた方がいいからね。
地図を見ながらもう少し歩いていると、ギルドの建物らしき所の前までたどり着く事ができた。
他の建物の何倍もの敷地を持ち、そして高さも二、三倍はありそうな所からして、ずいぶんと巨大な建物である。
その建物の入口からは魔物を引き連れた多くの人が出たり入ったりしている。
ずいぶんと活気があるみたいだね、魔物使いギルドって。
「おう、ずいぶん人で溢れかえっているな、ここ。それに魔物もたくさんだ」
「うん、すごいね……。ここが魔物使いギルドか。僕も初めて見たよ」
僕が住んでいた町には魔物使いギルドなんてなかったし、魔物使いもこんな大勢はいなかった。
だからこの人だかりを見ていると何だか圧倒されてしまうなぁ……。
「アーク、お前はギルドの中の様子を見に来たんじゃなかったか?」
「……ああ、そうだね。ちょっと圧倒されてた。うん、それじゃ中に入ってみるよ。ヴァルドはいつも通りこの辺りで待機していてね?」
「へいへい。分かってるさ」
若干ふてくされ気味のヴァルドを置いて、僕はギルドの建物の中に入っていった。
ギルドの建物の中も人でごったがえしていた。
そしてその中にいる人や従魔も様々であった。
とても筋骨隆々でたくましい人もいれば、学者ではないかというような風貌の人もいたり、可愛らしい容貌をしている人だっている。
従魔の方は、オーク、ドワーフ、リザードマンなどが見た感じいたかな。
どの従魔も強そうで素晴らしいな……。
僕の従魔もあれ位強くなれるように頑張らないと。
そんな感じでギルドの様子を見ているうちに、行列ができている所が見えた。
ギルドの人に聞けば、どうやらここがギルドの総合窓口らしい。
ギルドの依頼を受ける時などはここに並んで受付をするのだとか。
僕も試しに並んでみる事にした。
そして待つこと数分。
ようやく僕の番が来たようだ。
「今日はどのようなご用件でしょうか?」
「あっ、えっと……ちょっとここがどのような所なのか気になって並んでみました」
「あら、もしかして新人さんでしょうか? あいにく今日の入会試験の受付は終わってしまったのですが……」
「あっ、いえ、それは分かっているんです。分かった上で、ここがどんな所なのか下見に来たんです。入会試験は明日受ける予定ですから」
「なるほど。確かに下見は大事ですものね。いいでしょう。せっかく並ばれたのですから、明日の入会試験のヒントを差し上げましょう」
「えっ、いいんですか!?」
「はい。まあ、ここ数十日は試験内容も変わっていないですし、他の受験者も内容は知っていますから、教えても差し支えないと思います」
「それは助かります。ありがとうございます!」
「いえいえ。ちなみに今日の内容はこちらになっております。恐らく明日の試験も同じ内容でしょう」
そう言った受付の人は僕に一枚の紙を渡してきた。
それを読んでみた所、その紙には入会試験の内容が書かれているようだ。
そしてその内容とは――――薬草の採取。
薬草って確か、深い森の中に生えている草だったはず。
つまり深い森の中を行かなければいけないという事か。
「なかなかあなどれない依頼を用意していらっしゃるんですね」
「フフ、気が付きました? 魔物討伐じゃないという事で侮る方もいらっしゃるのですけれど」
「確かに討伐は必要とされないでしょう。ですけれど、少なくとも遭遇した魔物を退ける力は要求される。しかも限られた方法で。実に厄介ですね……」
求められるのは薬草の採取。
そして薬草を採取する為には深い森の中を進まなくてはならない。
そうなると、必然的に魔物と遭遇する危険は高いだろうし、そうなると森の中で魔物と戦う必要が出てくる。
それのどこが厳しいのか?
その例として、例えば炎系の魔物を使っている人がその魔物を森に連れて行けない事が挙げられる。
理由は至極単純で、火事の原因になるからだ。
そして僕にとって厳しい所は、僕の最大の戦力、ヴァルドを連れて行けない所にある。
ヴァルドの体の大きさでは森の中に入る事はできないし、そうなると、森の中を行くとなれば自分と従魔の力だけで何とかする必要が出てくる。
別に今までも極力ヴァルドに頼らなくても大丈夫なように頑張ってきたけれど、どうしても不測の事態が起きた時の安心感があるかないかではだいぶ違ってくるからね。
その後ろ盾がないという事で、だいぶ僕の心理的にもプレッシャーがかかる事になりそうだ。
「フフ、それだけこの依頼の注意点を理解できているあなたならばきっと大丈夫でしょう」
「そうですね……大丈夫だといいんですけれど……」
「まあ、心配ならば、他の志望者と一緒に試験を受けると良いですよ。四人までは一緒に受ける事が可能ですので」
なるほど……。
他の人と一緒に試験を受ける、か。
確かにその方が自分一人あたりの負担は減るし、万が一の時の戦力としてもだいぶ安心感はあるだろう。
でも、僕はここに来て間もないし、魔物使いの知り合いなんてほとんどいないんだよな……。
協力者はいればラッキーだけど、いないものと考えた方が良さそうだ。
「アドバイスありがとうございます。今日一日じっくり考えてくる事にします!」
「ええ、そうすると良いですよ。ではまた明日お待ちしております」
こうして受付の人に見送られて、僕はその場を後にする。
ギルドから出て、今日泊まる宿屋を確保した僕は、ベッドに横になりながら、どうするか考えていた。
……薬草のある森に生息する魔物はマンドラゴラとワームといった所か。
アルラウネも出るかもしれないな。
マンドラゴラとワームはEランク魔物だから何とかなるとして、アルラウネはDランク魔物で強いから遭遇しないように気を付けないと――
「おい、何考え込んでんだよ、アーク?」
「わわっ、びっくりした!? なんだ、ヴァルドか。ちょっと考え事しているんだから邪魔しないでよ」
部屋の中にいる僕だったが、外からのぞき込むような形でヴァルドがこちらを見てきているのだ。
まさか声をかけられるとは思っていなかったから思わずビックリしてしまったじゃないか。
「もしかして明日の試験の事を考えているのか?」
「うん、そうだよ。試験は薬草の採取。森の中に入っていって、薬草をとってくるという依頼だ。それをどう切り抜けようかと考えていてね……」
「何だ、そんな事か。薬草ならその辺に売っているものを買えばすぐに手に入るじゃねーか。そんなくだらない事で悩んでいるのか、アークは?」
「いや、そんな事をしてもバレるから。町で売っている薬草は全て商会を通しているから目印がついているんだ。依頼によってはそれでもいいんだけど、入会試験は売っているものを納めてもダメという制限があるのさ」
「へぇ、そういうものなのか。面倒なんだな」
売っているものを持っていけばいいんじゃないかと誰もが考えるよね。
でもそんなに現実は甘くないのだ。
売っているものを買うだけで入会試験を通ってしまうのなら、入会試験の意味がないからね。
まあ、正確に言えば、裏で流通している薬草があるかもしれないから、そういう事はできてしまう可能性はあるけれど。
でも僕はそんな不正を使って依頼をこなすつもりは全くない。
この依頼を乗り越えずして、僕は魔物使いを名乗る資格はないと思うんだ。
「それにしても、そんなに厄介なものなのか? 薬草の採取というものは?」
「そうだね……薬草の識別も意外と難しいだろうし、薬草のある場所にたどり着くまでにも戦いは避けられないだろうから結構大変だと思う」
「へえ、そういうものなのか。でも戦闘に関しては、今まで散々アークはやってきただろ?」
「それはそうだけどね。相手は変わるし、それに森の中ではヴァルドの後ろ盾がなくなるから、ちょっと不安だなと思って」
「そういえばそうだったな。なんなら俺様が森を切り開いてやろうか? それなら俺様もそこまで同行できるし、問題ないだろ?」
「それは勘弁して。そんな事をされたら一日で森が消滅しちゃうから!」
ヴァルドが言うと、本当にそんな事をしでかしそうで困る。
万が一そんな事をされたら、また僕が変な事をしたと人々から言われるに決まっている。
しかも数時間で森を消滅させたなんて知れたら、どんな目で見られるかたまったものじゃない。
本当、そういう思いはもうたくさんだ……。
「ヴァルドは森の外で待ってて。必ず戻るから!」
「あーへいへい。分かったよ。待ってればいいんだろ、待ってれば」
待っている事が多いヴァルドはきっと退屈なんだろうな。
体が大きいから我慢してもらう他ないんだけど。
もしヴァルドの体を小さくできれば、こんな事で悩む必要がないんだけどな。
時間があったら、その事に関して何か良い方法がないか後で探してみるか。