5.魔法使いと戦ってみました
魔法使いメルと対決する事となり、現在、僕はその人と距離を置いて対峙している。
勢いよく挑む事になったのは良いが、現状はだいぶ厳しいだろう。
スライム二体を操る事で、僕はゴブリンに対しては安定した勝利をおさめる事ができるようになった。
だが、話を聞きかじった感じだと、メルは少なくとも百体ほどのゴブリンを倒したように見受けられる。
あっさりとそんな事をやれるような魔法使いを相手にするなんて、さすがに分が悪すぎる。
きっと実力差は相当なものがあるだろう。
正攻法では勝てない。
ならば……
「ヴァルド、これから何回か言葉を叫ぶから、その通りに動いてもらってもいい?」
「一体何をするつもりなんだよ、アーク?」
「ちょっと工夫をね。正直正攻法ではあの魔法使いに対して勝ち目はない。僕の勝敗はヴァルドの動きにかかっているといってもいい」
「俺様の動きで勝敗が決まる、か。面白い。手伝ってやろうじゃないか!」
ヴァルドは気合十分なようだ。
特に文句を言わずに協力してくれるようで何よりだね。
実際、普通に戦っていては勝ち目がないのだから、ヴァルドの動きでどうなるか変わってくるというのは本当である。
まあ、さすがにヴァルドに直接戦ってもらおうとは思わないけど。
加減のできないヴァルドの事だ。
そんな事をしたら相手の魔法使いが死んでしまうからね。
魔物相手ならまだしも、人間相手は本当に取り返しのつかない事になってしまう。
「さっきから何をぶつぶつ言っているのか知らんけど、そちらが来ないならこっちからいくで! 氷よ、貫け! アイスニードル!」
全く攻撃の素振りを見せない僕に対して待ちきれなかったのか、メルは先制攻撃をしかけてくる。
メルが使用したアイスニードルの魔法によって、いくつかの氷の針が空中に生成され、僕に向かって今にも襲い掛かる!
「上空に突風!」
「おっしゃ、任せとけ!」
ヴァルドは僕の近くで翼を大きく動かした。
すると僕の周囲には上方向への突風が突如吹き、メルのアイスニードルは上空へと吹き飛ばされた。
「な、なんやて!?」
「まだまだこれからだ! スライム、分裂! そしてあのアイスニードルにまとわりつけ!」
ヴァルドが起こした突風によって同じく上空へと吹き飛ばされたスライムの一体にそう指示をする。
そして分裂したスライムがそれぞれ複数のアイスニードルの氷にまとわりついた。
さて、これで次は……と。
「何もないスライムにだけ前方に突風! スライム、あの魔法使いにまとわりつけ!」
「了解だ!」
ヴァルドは上空へと飛び立ち、そしてアイスニードルにまとわりついていないスライムに対し、突風を浴びせかけた。
そして前方に吹き飛ばされたスライムはそのままメルにまとわりつく!
「ちょ、離せー! 燃え尽くせ、ファイア! ……って、ぎゃあああ!?」
まとわりついたスライムを焼こうとしたら、自分が着ている服に引火し、パニックになるメル。
いや、まとわりついたスライムに炎を放ったら普通そうなるだろ……。
とにかく、これで準備は整った。
一気に決めるぞ。
「スライム、その炎を吸収しておいてくれ! それじゃ、今度はアイスニードル付きのスライムに前方突風!」
「おうよっ!」
ヴァルドは宙に浮いたアイスニードルを前方に吹き飛ばす。
するとアイスニードルの数が多かったからか、それぞれのアイスニードルは狙いとは外れた方向へと飛んで行く。
だが、それでいい。
「スライム、連結だ!」
アイスニードルにまとわりついたスライムはメルにまとわりついたスライムの方に伸びていき、そして連結した。
するとアイスニードルの塊も軌道が修正され、メルの方へと向かっていき……
「か、堪忍やぁ!? 降参やぁ!?」
「スライム、アイスニードルを吸収!」
いくつものアイスニードルが自身に向かってくる様子を見て、さすがに敗北を認めたメル。
僕はスライムに鋭利なアイスニードルを吸収させる事で、メルにそれがぶつかろうとしていた時には、鋭利なものはなくなっていた。
スライムの一部だけは勢いよくメルに向かってアタックする事になったんだけど。
まあ、もちろん柔らかいスライムの体だから致命傷になる事はない。
スライムの体が勢いよくぶつかったことで、少しその場で倒れこむメル。
しばらくするとゆっくりと起き上がった。
「……ハハハ、あんさん強いんやな。油断しとったわ。てっきり弱いゴブリンを欲しがるほどだから弱いものだと思っとったわぁ」
そう言って頭をかくメル。
まあ、魔物使いなのにスライムしか引き連れていないのだから、油断するのも無理はないよね。
実際、素の実力ではメルの方がずっと上だろうし。
「油断してくれていたから勝てただけですよ。それと、僕が勝ったんですから、もうゴブリンは僕が好きにしても良いんですよね?」
「ああ、好きにするがええで。……あまりもたもたしていると逃げられるけど、ええのかいな?」
メルのその言葉を聞いて、周囲を見渡す僕。
するとこっそりとこの場から遠ざかるゴブリンの姿が!
「に、逃がさないからっ! スライム、ゴブリンにまとわりつくんだ!」
逃げ出そうとしていたゴブリンをすかさずスライムで拘束。
うん、これで何とかなりそうだな。
危ない所だった。
さて、早速ゴブリンを従魔にしたい所だが、そうなるとゴブリンを従魔にすると同時にスライムとの従魔関係を解消する必要がある。
せっかくここまで育てたのに手放すのはなかなか心苦しいな……。
「アーク、何悩んでいるんだ?」
「あっ、いや、ゴブリンを仲間にする為にはスライムを手放さないといけないし、何かもったいないような気がして」
「……ああ、その事なんだがな。あまり心配しなくてもいいぞ。つい先程だが、アークのカリスマ力は3に上がったようだ。だからゴブリンを従えても、一体のスライムは残す事ができるぞ?」
「えっ、本当に!?」
「ああ、間違いない。良かったな、アーク」
僕のカリスマ力が3になった。
それはつまり、カリスマ力2のゴブリンを従えても、スライム一体分のカリスマ力が残るということ。
スライムのもう一体は諦めないといけないが、それでも一体でもスライムをとっておけるというのはだいぶ大きい。
ということで、僕は一体のスライムをもう一体のスライムに合成させて、スライムを一体にまとめておく。
それからゴブリンを従魔にする儀式を開始した。
「ほぇぇ、魔物使いってこういう事をして魔物を従えているんやな……」
メルはそんな事をつぶやきながら僕が行っている儀式を眺めている。
そうしているうちに、無事、従魔の儀式は完了した。
「ゴブリン、これからよろしく頼むよ!」
僕に声をかけられたゴブリンはこくんとうなづいた。
どうやら従魔として意思疎通ができているようだ。
さて、これで目的は達成したから、後は急いで戻らないと!
「あんさん、おもろい人やな。ウチ、魔物使いの事なんて興味なかったけど、あんさんを見ていたら、がぜん興味湧いてきたわ。どや? よかったらウチの町でちょっと話をしていかへん?」
「すいません。ちょっと僕、急用があるもので……それでは失礼します!」
「ちょっ、待ってや! ……全く、ホンマにおもろい人やわ、あのアークという魔物使いは。一層気になってまうやないか」
僕はこうしてメルをその場に置いて、急いで自分の町まで戻ることにした。
僕は必死に走り続けた。
そしてその甲斐があって、何とか日が沈むまでには約束の場所までたどり着く事ができた。
日が半分沈んでいた状態だったから、本当にギリギリだったんだけど。
だが、その約束の場所には僕の父親はいなかった。
どうしたんだろう?
もしかして日が沈んでからここに来るつもりなんだろうか?
まあこんなギリギリまで来れなかった僕にも非はあるよな。
とりあえず、まだ日が沈みきっていないし、もう少し待ってみようか。
………………来ない。
結局日が沈みきっても父親が現れる事はなかった。
日が沈んでからも一応、もう少し待ってみたのだが、それでも来ない。
何かあったんだろうか?
まさか見捨てられたとかじゃないよね……?
とりあえず状況を確認する為に、僕は一旦家に帰る事にした。
「ただいまー」
「あらお帰り、アーク。随分と遅かったわね」
「まあ色々あってね。あれっ、父さんは?」
「あっ、そうそう。実は父さんは急用ができたらしくて、お昼過ぎにどこかに行ってしまったのよ。そういえばアークは何か父さんと約束していたんだっけ?」
「うん。日が暮れるまでにゴブリンを使役する約束をしたんだ。一応その目標は達成したんだけど……」
「そうみたいね。かわいいゴブリンくんを連れてきているみたいだし」
そう言うと母親がゴブリンの頭をなでなでする。
するとゴブリンは何となく嬉しそうな表情をしているように見えた。
ちなみに僕が使役しているゴブリンの身長は50センチ程しかなく、これは他のちょっと強いゴブリンの半分程しかない。
だから小さくて可愛らしいと思うのもおかしくはないかもしれない。
まあ顔は他のゴブリンと変わらず、いかついんだけども。
「父さんはいつ頃帰ってくるんだろう?」
「そうね……きっと当分帰ってこないんじゃないかしら? 何しろ前線を押し上げてくるって言っていたから、きっと戦いの所まで行ってくるんでしょうし……」
「そうなんだ。それは残念……」
父親が言ったであろう前線とは、人間と魔人の戦争の最前線の事を言っているのだと思う。
この世界ベルサリアでの人間は、魔物使いの登場によって活動範囲を大幅に広げた。
だけど、だからといって全世界を掌握できた訳ではない。
魔物使い達にとって障害となる相手がいたのだ。
それが魔人族という存在である。
この世界は人間と魔人、魔物の三つの戦力圏に分けられる。
魔物達が頭一つ抜けた力を持ち、彼らに戦力圏を広げようという意識がない事から、基本的に人間が魔物と衝突する事はない。
ちなみにこの魔物とは軍としての魔物ということであって、個体としての魔物とは全く異なる。
簡単に言えば、魔王が管理する魔物の軍といった所だろうか。
かつてヴァルドが管理していた魔物達の事と言い換えても良い。
魔物に対しては人間も魔人も不干渉なので問題ないとして、問題なのは魔人の方である。
魔人は人間と魔物が混じったような姿をしていて、人間のような手先の器用さと魔物の強靭な肉体を併せ持つ種族だ。
彼らの中に魔物使いはいないが、それでもなお、彼らは自身の身体能力の高さ故に、人間の魔物使いに決して戦力で劣る事はない。
そして魔人達は人間が活動領域を広げた事に対してよく思っていないのか、定期的に人間の町を襲ってくるのである。
それに人間達も対抗して、戦いは起きるという事だ。
そのような戦いは長い間続き、そして未だ終わりが見えない。
そんな戦いの戦況を良くするために父親は度々出掛けていくのだ。
今回もそうなんだとしたら、そりゃすぐに帰れる訳はないよな……。
「とにかく、アークはだいぶ頑張ったみたいだし、疲れたでしょ? 夕食とったら、とりあえず今日の所は寝たらどう?」
「そうだね。そうする事にするよ」
父親がいつ戻ってくるかなんて考えても仕方がないからね。
一度出掛けたらしばらく帰って来ない事なんて珍しい事でもないし。
ただ、約束をした日に急いで行かなくてもとは思うんだけど。
とりあえず僕はやるべき事を終えて、今日の所はさっさと寝る事にした。
そして翌日。
父親が一日で帰ってくるはずもなく、当然父親は不在。
このまま待っていたらいつまで経ってもラチがあかなそうなので、僕は母親に自分の思いを伝える事にした。
僕は魔物使いになりたいということ。
そしてその活動をもう始めようと思っている事などを伝えた。
すると母親は――
「……ええ、分かったわ。アークがそうしたいのなら、私は止めない。でも厳しいと思ったらいつでも帰ってくるのよ? 魔物使いとして生活していくのはそんなに楽ではないでしょうから」
「うん。ありがとう、母さん」
魔物使いとして生計を立てていく事はそう簡単に出来ることじゃない。
さらに僕はカリスマ力の伸びが悪い分、人よりも何倍も努力しないといけないし、それでも埋まらない分は他に工夫をして差を埋めるしかないだろう。
魔物使いになる事は簡単でも、魔物使いを続ける事にはそれなりの苦労が伴うという事だ。
でも、僕はどんなに辛くても、魔物使いをやめない。
憧れ続けて、そしてやっとチャンスをものにできたものなのだから。
「この町を出るのなら、まずは隣町レクレスを目指した方が良さそうね。そこまでならば、きっと今のアークでも安全に行けそうだし、魔物使いのギルドがある町だからきっとそこで仲間も出来るはずよ」
「うん、そうだね。そうする事にするよ」
隣町レクレスとは、あの魔法使いメルと出会った方向にさらに進んだ所にある町の事だ。
もしかしてメルはレクレスの町出身なんだろうか?
そうすると、どこかでばったりと会うかもしれないな。
まあそうなったからといって何かある訳ではないけど。
基本的に魔物使いと魔法使いは相いれない関係ではあるからね。
それから僕は母親から旅に必要になりそうな物が入ったリュックを受け取り、そして旅立つ事となった。
「アーク、その荷物からして、ついに旅立つ時が来たのか!?」
「うん、そうだよ。まだ父さんに認められた訳ではないけど、父さんを待っていたらいつになるか分からないからね。まあ、父さんに会う事があったら、その時にゴブリンを見せればいいかなって」
「うんうん、そうだな。それでいい。これでついに俺様の呪いを解く第一歩が踏み出せたという訳か。実に長かった……」
そう言うと感慨にふけった様子のヴァルド。
そういえばヴァルドに会ってからはなんだかんだ結構な時間が経っているんだっけ。
そうなると、ヴァルドからしてみれば、ようやくこの時が来たというように感じてもおかしくないか。
「ごめんね、だいぶ待たせてしまって。次の町に到着したら本を探してみるからさ」
「ああ、よろしく頼むぞ、アーク。お前だけが頼りなんだからな!」
「うん、分かってる。その代わり、何か危ない時があったら力になってよ?」
「今まで通りしていればいいんだろ? 任せとけって!」
ヴァルドはだいぶ張り切っているようだ。
この様子なら心配いらなそうだな。
なら早速次の町レクレスに向かおう……と言いたい所だが、その前に準備をしないとね。
この辺りの魔物は弱いが、これから行く先には強い魔物が数えきれない程いるだろう。
そんな魔物に対しても対抗できるよう、従魔を強くしておかなくては!
という事で、僕はしばらくゴブリンとスライムを強化する事に。
そしてその辺り一帯の魔物に対し、ゴブリンやスライム単体でも負けなくなる位まで育ててから、レクレスの町の中に入っていった。