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4.父親から試練を課されました

 翌朝。

 僕は自分の部屋を出て、居間まで入っていく。

 するとそこには椅子に腰掛けている父親の姿があった。

 ところが父親は無表情な顔をしていて、いつもの親しみやすい感じがない。

 父親に何かあったんだろうか?

 とにかく話しかけてみよう。



「父さん、お帰りなさい」

「ああ、アークか。久しぶりだな。……そのスライムはどうしたんだ?」

「あっ、うん。実は僕、カリスマ力が手に入ったみたいで、こうやってスライムを使役できるようになったんだ!」



 僕はそう言ってぷにぷにとしたスライムをなでなでする。

 使役出来ていないスライムにこんな事をすれば、スライムに手を溶かされかねないが、使役出来ているスライムに対しては問題ない。

 だからこうする事で自分がしっかりとスライムを使役出来ている事を示せるのだ。



「なるほどな。確かにスライムを使役出来ているようだ」

「うん、そうなんだ! これで僕もいつかは父さんのような、立派な魔物使いを目指せるんだよ!?」



 僕は声を弾ませながらそう言った。

 ずっとなりたくてもなれなかった魔物使い。

 僕はようやくその入口に立つ事ができ、そしてこれからその道を進む事が出来るのだ!


 いきなりは難しいかもしれないけど、でもいつかは父さんのように立派な魔物使いになってみせる。

 その事は僕が幼い時から常日頃言っていた事だ。

 そして父さんはそんな僕を応援してくれていた。

 だから今回だってきっと応援してくれる――



「アーク、俺はお前が魔物使いになる事を認める訳にはいかない」



 ………………へっ?

 今何て言ったんだ、父さんは?

 気のせいかな?

 何か魔物使いになっちゃダメと言ったように聞こえたんだけど……。



「父さん、ごめん、今何て言ったの? まるで僕が魔物使いになっちゃダメと言っているように聞こえたんだけど?」

「そうだ。お前は魔物使いになるな。スライムが使役出来るようになったのは素晴らしいが、だからといってそれが魔物使いになれるという事にはならない」

「どうして!? 父さんはいつも僕が魔物使いになる事を応援してくれていたのにっ!? なんで実際になれるという時にはそういう事を言うの!?」



 今までずっと応援してくれていた僕の父親。

 なのにどうして急に手の平を返したように反対してくるのか。

 僕にはさっぱりその理由が分からない。


 僕は父親に理由を聞こうと色々と問いかける。

 だけどなかなか父親はその理由を答えてくれようとはしなかった。

 そして突然言い始めたのは――



「3日だ」

「……3日?」

「今から3日のうちにゴブリンを手なづけてみせろ。それが出来たらアークが魔物使いになる事を認めてやる」

「えっ……たった3日のうちにゴブリンを!? そんな無茶な事って……!?」

「諦めるか? ならお前が魔物使いになる事は認められないな。魔物使いになる奴はその日のうちにゴブリン位は手なづけられるのが常識だ。それ位の事が出来ないようなら、カリスマ力があっても魔物使いとしては認めない」



 ……確かに父さんの言う通りだ。

 魔物使いになる大半の人は既にある程度のカリスマ力を持っている事から、いきなりゴブリンを使役する人も珍しくない。

 だから3日でゴブリンを手なづけるというのはそういう人にとっては無茶でもなんでもない事なのだ。



「分かった。それなら約束するよ。僕は3日以内にゴブリンを手なづけてみせる!」

「もし手なづけられなかったら……分かってるな?」

「うっ……うん……。その時は魔物使いを諦める。おとなしく町の中で何かして過ごす事にするよ」



 3日以内にゴブリンを手なづけられれば魔物使いとして認められ、そうでなければ認められない。

 そんな約束が今、僕と父親の間で交わされた。

 となれば、僕には一刻の猶予もない。

 急いで僕は家から出て行こうとしたのだが……



「アーク、ちょっと待て。まさかお前、スライム一匹で外に出るつもりか?」

「う、うん。そうだけど……」

「ならこれを持っていけ。もし危なくなったらこの石を砕くんだ。そうすれば俺が助けに向かおう」



 そう言って父親が僕に渡してきたのは青い石だ。

 この石は二つペアになっている。

 強い力で圧迫すると粉々に砕けるようになっていて、そうするともう片方の石に危機を知らせる事が出来るのだ。


 これを使って、万が一危ない時は父親を呼べという事か。

 まあ、確かにスライム一匹で出かけるなんて普通は無謀だよな。

 僕にはヴァルドがいるから全然心配はしていないんだけど。



「ありがとう、父さん。それじゃ、行ってきます」



 こうして僕は、相変わらず無表情の父親と心配そうな表情を浮かべる母親に見送られつつ、外へと飛び出していった。







「アーク、随分と無茶な事を言ったもんだな」

「そうだね。だけど、これは僕にとって乗り越えないといけない試練だと思ったんだ」



 大体の事情を話すと、ヴァルドからはそのような反応をされた。

 まあ、そんな反応をされるのも無理もない。

 僕だってできる見込みがあると思って言った訳ではないのだから。


 だけどあそこで断っていたら、一生父親が許してくれないような気がしたのだ。

 ここはやらないといけない場面。

 そう自然と思ったんだよね。


 一応父親に逆らうことも考えたが、それはあまり得策ではないと判断した。

 父親は魔物使いの中では有名人で、そんな父の機嫌を損なうと、この先色々とやり辛くなるだろうし、あまり良い事はないからね。



「その試練を乗り越える為に何をするつもりなんだ、アーク?」

「まずは今使役しているスライムを強くしようと思う。でないと、ゴブリンを使役できるまで弱らせる事すら出来ないからね」



 スライムはスライムベリィを使う事によって無力化出来たが、他の魔物はそうはいかない。

 儀式を行えるまで弱らせて身動きを封じる必要があるのだ。

 その為に、使役しているスライムのさらなる強化が第一優先になるだろうな。

 そのうちにカリスマ力が上がれば言う事ないし。



 それから僕は、ひたすらゴブリンを使役する為に頑張った。

 使役しているスライムに合成を繰り返す事によって、スライムは十分強くなった。


 すると嬉しい事に、僕のカリスマ力はさらに1上がった。

 そうする事で僕はもう一匹スライムを使役する事が出来るようになる。

 こうして二匹のスライムを操れるようになった事で、強いゴブリンでさえ安定した勝利を収める事が出来るようになった!


 そしてそんな調子で夢中で頑張っていると、あっという間に約束の日がやってくる事になる。





「約束の日になったが、準備は出来たのか?」

「ちょっと待って。もう少し準備をさせて欲しいんだ」

「なら、日が沈む前までに町の門まで来い。そうしたら俺が外でそのままチェックをしよう」



 ついに約束の日がやってきた。

 僕はこれまで死に物狂いで頑張ってきたおかげで、カリスマ力が2となり、スライムを二体使役できるようになった。

 だけどゴブリンを使役するにはまだカリスマ力は1足りない。

 それにもし1上がったとしても、カリスマ力3で使役できるゴブリンを探さなければいけない。


 つまり、日が沈むまでにカリスマ力を上げると同時にゴブリン探しもしなければいけないという事になる。

 なかなか骨が折れそうだな……。

 でもやるしかないだろう。

 何と言っても、もう約束してしまったのだから。



 町の外に出た僕はカリスマ力上げとゴブリン探しを兼ねて、ゴブリン討伐を行う事にした。

 二体のスライムの扱いにも慣れた今では、強いゴブリンであっても安定して勝つ事が出来る。

 ただ、先程から遭遇するゴブリン、妙に強くないか?

 外に出たばかりの頃はもう少し貧弱なゴブリンがいたような気もしたのだが……。



「ねえ、ヴァルド。さっきから遭遇するゴブリンが強い個体ばかりな気がするけど、どうなの?」

「そうだな。必要カリスマ力でいえば7以上の強い奴らしか見当たらないようだ」

「やっぱりそうだよね。一体どうしてそんな事になるんだろう……?」



 必要カリスマ力が7以上のゴブリンということで、もちろんゴブリンの中では相当強い個体である。

 ゴブリンの必要カリスマ力は3~10と言われているからね。

 たまたま強い個体にしか当たっていない可能性も否定はできないけど、それにしても偏りがひどい気がする。

 このままじゃ万が一カリスマ力を1上げた所で、使役できるゴブリンを見つける事が出来ない。

 闇雲にゴブリンを探すのではなく、この原因を探さないといけなそうだ。

 でも一体どうしてこんな事に……?

 ……あっ、もしかして!?



「ヴァルド。ゴブリンがこの辺りを危険地帯だと判断して避けるという事はあり得るかな?」

「……ああ、なるほどな。ひ弱なゴブリンの事だ。それ位の事をしてもおかしくないだろう」



 やっぱりね。

 弱いゴブリンが何故この辺りにいないのか。

 それは僕がこの辺りでゴブリン狩りをし過ぎた為である。


 この辺りで仲間が次々と倒れていく所を見れば、そりゃここから離れようとするよね。

 知能がありそうなゴブリンなら尚更さ。


 となると、困ったな……。

 少なくともこの辺りには弱いゴブリンがいないという事だし、もう少し町から離れた所まで探索する必要がありそうだ……。

 果たして、町に戻るまでの時間は足りるだろうか?



「とにかく、悩んでいても仕方がないか。もう少し町から離れた所まで行ってみる。それしかないよね」

「そうだな。アークに残された時間は少ない。時間に間に合わなくて、約束を守れなかったアークがずっと外に出られないでいるなんてそんなのはまっぴらだからな」

「うん、そうなんだよ。万が一間に合わなそうなら、ヴァルドの背中に乗って飛んで移動してもいい?」

「は? 何言ってんだ、お前? 俺様は魔王ヴァルド様だぞ? そんな気安く背中に乗せてもらえるなんて思うなよ?」

「あー、うん、言ってみただけだよ。断られるのは分かっていたさ」



 プライドの高いヴァルドの事だ。

 背中に乗せる者はそれ相応の者じゃないと許してくれないだろう。

 ヴァルドだけでなく、ドラゴンという種族自体がそうなんだからその予想はついていた。


 まあ、脅せば無理矢理乗せてもらう事も出来そうだけど、そんな事をしたら飛んでいる途中で振り落とされて空から落下死なんてシャレにならないからね。

 無理矢理ドラゴンに乗ってそうなった事例もある事だし。

 ヴァルドって結構感情的になるから、ついそうなってしまったという事があり得そうで怖い。

 そんなヒヤヒヤする空の旅なんてこちらからお断りだ。



 ヴァルドとの会話を終えると、弱いゴブリンを探す為に僕は歩き続けた。

 だけどそうすると今度はゴブリン自体を見かけなくなった。

 いる魔物といえば所々にいるスライムだけ。

 一体どういう事だろうか?



「ヴァルド。何かやけに魔物が少ない気がしない?」

「……確かにそうだな。ゴブリンは個体数が多いはずだからここまで見ないなんて事は珍しい」

「やっぱりね。一体どういう事なんだろう? 僕がゴブリンを倒し過ぎたのなら、その場から離れればゴブリン数は増えると思っていたんだけど……」



 移動しても、ゴブリンは増えるどころかむしろ見かけなくなった。

 こんなに全く見かけないのはとても不自然だ。

 一体ゴブリンの身に何が起こっているのか……。


 ……あっ、何か音、いや声が聞こえる。

 これは人間の声だろうか?

 ちょっとその声が聞こえる方に行ってみよう。



 僕は声が聞こえる方に向かっていく。

 するとそこには大きなリュックを背負い、小ぶりな杖を持った人間の女性がいた。

 リュックの中には棍棒らしきものが大量に入っているようで、少しリュックからはみ出ている棍棒すらある。


 見た感じ杖を持っている事からして魔法使いみたいだが、一体何をしているんだろうか?

 それにあの棍棒……どこかで見覚えがあるような……。


 得体が知れず、明らかに怪しい魔法使いに目をつけられたら面倒な事になりそうだ。

 という事で、とりあえず僕は身を隠せそうな場所からその魔法使いの様子を観察する事にした。



「…………これで百個目! うーん、念の為、あともう少し必要そうやな。もういっちょ頑張ろか。魔物よ、来い! クール・ディル!」



 その言葉を発すると、魔法使いの身体全体が赤いオーラのようなものに包まれた。

 すると魔法使いの方に二体ほどのスライムがやってくる。

 きっと魔物を引き寄せる類の魔法を使っているんだろうな。



「あー、お前じゃないんや。用はないからとっととお帰り。魔物よ、去れ! サール・ディル!」



 今度は魔法使いの身体から青いオーラが発せられる。

 すると魔法使いに向かっていったスライムが引き返してどこかへ立ち去っていった。

 今回は魔物を追い払う魔法を使ったという所か。



「やっぱり少し狩りすぎたんやろか。まあもういっちょやってみて、それでダメなら場所を変えればええな。それじゃいくで! クール・ディル!」



 魔法使いの身体から赤いオーラが発せられる。

 すると今度はとても小柄なゴブリンが魔法使いの方に向かっていくようだ。



「なあ、アーク。あのゴブリンの必要カリスマ力は2みたいだぞ? チャンスなんじゃないか?」

「えっ? そうなの? ゴブリンは少なくとも3はカリスマ力必要だと思っていたんだけど……」



 本で読んだ記述によれば、ゴブリンは3~10のカリスマ力が必要だと書いてあった。

 それは間違いないはずだ。

 だけど実際目の前には必要カリスマ力2のゴブリンがいる。

 ならそういう事なんだろう。

 今の僕でも使役できるゴブリンはいるのならば、それを利用しない手はない!

 ただ、そんな僕に障害が立ちはだかる事になる。



「おー、やっと来たなゴブリン! さあ、それじゃまた棍棒を頂くで!」



 どうやら魔法使いもゴブリンが目当てだったようだ。

 しかも今にも倒そうとしている。

 このままじゃまずい!



「ヴァルド!」

「ああ、任せとけ!」



 ヴァルドは瞬時に移動し、魔法使いとゴブリンの間の地面に衝撃を与える。



「魔物よ燃えよ、フレ……ななな、なんやぁ!? この揺れは!?」



 いきなりの揺れに戸惑う魔法使いとゴブリン。

 大地が大きく揺れる事で、魔法使いの詠唱は中断され、ゴブリンは難を逃れた。

 その後、魔法使いもゴブリンも戸惑っている為か、その場から動かないで立ちつくしている。

 これはチャンスだな。

 僕はその間にゴブリンの近くに駆け寄った。



「だ、誰なんや、あんさんは?」

「僕ですか? 僕はアークと言います。魔物使いをやってまして、このゴブリンを仲間にしに来ました」



 魔法使いがそう問いかけてきたので、素直に答える事にした僕。

 まあはぐらかしても良いんだけど、別に隠す意味もなさそうだからね。



「ほう、魔物使いか。ウチはメルというねん。よろしゅうな。それにしてもそのゴブリンを仲間にしたいんか。やめときやめとき。そんなひ弱なゴブリンを仲間にするより、もっと強いゴブリンを従えた方がええやろ?」



 もっと強いゴブリンを従える、か。

 普通の魔物使いだったら確かにその通りなんだろう。

 だけど僕は違う。

 このゴブリンでないとダメなんだ!



「いや、ダメですね。僕はこのゴブリンがいいんです。このゴブリンでないとダメなんです!」

「ほう、奇遇やな。ウチもこのゴブリンでないとダメなんや。何しろ最近は十回呼び出して一回ゴブリンが来れば良い方やからな。さすがにまた十回呼び出すのは骨が折れるねん。だから譲れんなあ」

「どうしても……どうしてもダメなんですか?」

「せやな……こればっかりは譲れん。それに見た所、あんさん、駆け出し魔物使いやろ? 言っておくけど、ウチには敵わへんで。痛い目を見たくなければ素直に引き下がるんやな」



 ……どうしても譲る気がない、か。

 なら、やるしかなさそうだな。

 カリスマ力2のこのゴブリンを逃したら、もうチャンスはないような気がするし、ここは退いてはいけない場面だろうから!

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