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31.呪いの効果について考察してみました

 デコラーダには本屋が集まっているエリアがあるようなので、そこへと向かった僕達。

 そしてそのエリアに到着すると、僕は早速本屋に入る事に。


 やはりなかなか思うような収穫が得られなかったのだが、3件目の本屋で気になる記述のある本を見つけた。

 ”存在を薄める方法について”という本に書かれている内容で、次のような記述があった。



 ”存在を薄めた者は、そこに確かに存在しているにも関わらず、誰にも認知されない時がある。”

 ”そしてそれに関わっている者に対しても存在を一時的に薄める波及効果をもたらす事もある。”



 存在が全く認知されないヴァルドの場合、誰にも認知されないのはもう既に分かっている。

 気になるのはその次の記述だ。

 関わっている者も存在を一時的に薄める波及効果。

 それに僕は心当たりがある。


 僕が初めてヴァルドに話しかけた時、僕は色々とヴァルドに話しかけたし、従魔の儀式なども行った。

 その結果、変な行動をする青年という噂は広がったが、僕が何かを話している事に対する噂は聞かなかった。

 また、例のグリフォン事件の事だってそうだ。

 死んだグリフォンが宙に浮いているという現象。

 さすがにその現象自体に対してはテイニーもレクも反応はしていたが、僕がヴァルドと話している事に対しては何も言わなかった。


 グリフォンが浮く訳ないし、それに僕が誰かと話しかけているような素振りを見せていたら、近くに見えない何かがいるという推測をする事はできたのではないだろうか?

 ちょっとそこの辺り、テイニーとレクに聞いてみようか。


 僕は何かの本を夢中で読んでいるテイニーとレク、リザを見つけ、声をかける。



「ねえ、テイニー、ちょっと聞きたいんだけど……」

「わ、わわわ……びっくりしましたぁ!? あっ、アークさん、えっと、これは、えっと……」



 僕に声をかけられ、慌てふためくテイニー。

 テイニーは今読んでいた本をささっと隠したようだが、その本の表紙には”3さいでもわかる、やさしいちずのよみかた”と書かれているのが見えた。



「テイニー、頑張っているんだね。……別に隠さなくてもいいんじゃないかな?」

「えっ、えっと……でも子供向けの本ですし。やっぱり恥ずかしいじゃないですか……」

「別に自分のできる所から始めているだけだろうって推測できるし、そんなに恥ずかしがらなくてもいいんだよ」

「そ、そうですか……それならいいんですけど」



 言葉ではそう言っているが、やはり恥ずかしそうな顔をしているテイニー。

 まあ確かにテイニーがいるコーナーには子供がたくさんいるようだし、テイニー達だけそこにいれば目立つっちゃ目立つんだけど。

 ちなみにレクは”5さいでもわかる、やさしいちずのよみかた”、リザは”地図から読み解ける様々なコト”という本を読んでいた。 

 リザだけ大人向けの本を読んでいるようなので、きっと他のコーナーから持って来たんだろう、きっと。



「そ、そういえば何か御用でしたか、アークさん?」

「あっ、そうそう。ちょっとテイニーとレクに聞きたいんだけど、例のグリフォン事件の事は覚えてるよね?」

「あっ、はい。あのヴァ……えっと黒さんがグリフォンを持って来た時の事ですよね? もちろん覚えています」

「あっしも覚えているニャ。それがどうかしたのかニャ?」



 テイニーがヴァルドの名前を言おうとして、とっさに黒さんというペンネームを使ったようだ。

 その言い方、なかなかいいな。

 僕も使わせてもらおう。

 ヴァルドとか魔王とかいう言葉を人がいっぱいいる所で使いたくないもんね。



「うん。二人はその場面に遭遇した時、何を思った?」

「何を思った、ですか? うーん、やっぱりグリフォンが死んでいて怖い、でしょうか?」

「あっしもそんな感じだニャ。とても疲れていたから幻なのかとも思ったけどニャ。アークもそう言っていたし、尚更ニャ」



 なるほど。

 グリフォンが死んでいて怖い、か。

 どうしてグリフォンが死んでいるのか、浮いているのかは考えなかったんだろうか?



「二人はどうしてグリフォンが死んでいるか想像した?」

「はい。きっとグリフォンよりも強い魔物が近くにいるのかもと思いました」

「あっしもそうだニャ。その時はとても恐ろしい思いをしていたニャ……」

「じゃあどうしてグリフォンが浮いているのかは想像した?」

「浮いていた……? た、確かに言われてみればそうですよね。普通、浮かないですものね」

「よくよく考えれば確かにおかしいニャ。でも何となく、浮いている事は気にならなかったニャ。何となく浮いていても不思議じゃない、そう思えたニャ」



 やっぱりね。

 死骸が浮いているなんて、普通はおかしいと思うし、そこを疑問に思うのが普通だ。

 しかし、テイニーとレクはグリフォンが浮いている事を全然気にしなかった。

 というか、気にする事ができなかったのだと思う。

 それは恐らく、先程読んだ本の内容、”関わっている者に対しても存在を一時的に薄める波及効果をもたらす事もある”という事が関係している可能性が高そうだ。


 僕の今までの経験上、特にその効果が発揮されるのは、ヴァルドがそこにいると認知する事につながる事だと思う。

 だからグリフォンが死んでいて、そのグリフォンよりも強い魔物が近くにいると認識はできても、今グリフォンを持ち上げている何者かがいると認識はできない。

 いや、できなくはないんだろうけど、無意識にその可能性から意識を逸らされている。

 ヴァルドの呪いにはヴァルド自身の体を認識させないだけでなく、ヴァルドに関連する行動の一部も認識させにくくする効果があるのだと言えそうだ。



「もしかして、その事が黒さんの呪いに関係が?」

「うん。先程読んだ本に書いてあった内容を言うとね――――」

「……なるほどそういう事かニャ。黒の存在を予感させる行動に関しては認識の阻害が働く。そしてそれは呪いの効果のだとアークは言いたいのかニャ?」

「うん。さすがに僕が明確に黒の存在と、その特徴を言ったテイニー達には理解してもらえているけど、でもそんなテイニー達だって、時々黒の存在を忘れる時があるでしょう?」

「……確かにそうですね。直接見えなかったり、話せなかったりするからだとは思いますが、時々忘れかける時があります」

「あっしもだニャ。それはあっしの記憶力が悪いせいだと思っていたけど、そうではないのニャ?」

「恐らくね。でも、この特徴が本当の事ならば、色々と辻褄が合うんだ」



 ヴァルドが起こした地面の揺れに対する人々の反応の薄さ。

 ヴァルドに揺すられている時や、ヴァルドに引きずられている時の僕なんて、ヴァルドが見えない人々から見たら怪奇現象に見える事だろう。

 だけど人々はそんな事を話題にする事はなかった。

 それは呪いによって認識を阻害されていたからだと考えれば理解できなくもない。

 そう考えると、ヴァルドの呪いって、僕が思っていたよりもだいぶ強力な効果をもたらしているんだろうな……。



 もうちょっと本屋で調べてみようと思った僕は一旦テイニー達と別れる。

 そして本屋で他に呪いに関する本を探してみたのだが、他には見当たらず。

 呪いの現象について少し分かったのはいいけど、肝心の呪いの解き方に関する事は全く分からずじまい、か。


 街の裏通りに一旦やってきた僕はヴァルドと話す事に。



「……そういう訳なんだ。また解き方が分からなかったよ、ヴァルド。ごめん」

「いや、謝らなくてもいいぞ、アーク。それより、俺様が起こした現象を認識するのに阻害効果が発生する、か。それはなかなか興味深い話だな」

「うん。でもそう考えると、今までの現象に説明がつく気がするんだ。普通いきなり地面が揺れたりしたら騒ぎになるだろう? だけどどの人もその事で騒ぎ立てる人はいなかった。これは明らかに不自然だとは思っていたんだ」

「まあ、普通はおかしいと思うよな。今まで感じていた違和感はそれだったのか」

「ヴァルドも何か心当たりがあるの?」

「ああ。例えばな――」



 ヴァルドは僕に色々な事を話してきた。

 例えば魔物の領地で、配下の者を気付かせようと攻撃してみた事。

 配下が歩いている時に、その前に立ち塞がって邪魔しようとした事。

 建物を一軒壊してみた事。


 ……どれもロクな事をやってないな、ヴァルドは。



「そういう事をしてどうなったの?」

「騒ぎにはなった。だが、見えない何かがやったという声は全く聞こえなかったな。特に違和感があったのは、通り道を塞いで邪魔しようとした時だ。奴ら、必ず俺様にぶつかる前に方向転換しやがる。まるで俺様がそこを塞いでいるのが分かっているかのようにな」



 ……確かに、その不自然さは僕も感じていた。

 街中でヴァルドがいても、みんなヴァルドを避けていくのだ。

 でも誰もがそこにヴァルドがいるという認識をしている訳ではない。

 それは明らかに認識阻害の影響を受けているという事に他ならないだろう。



「最初は色んな事を好き勝手にやれると喜んだものさ。あんな事やこんな事。好き放題に暴れられると思ったものだ」

「うん、まあその気持ちも分からなくはないかな。理解したくはないけど」

「だが、そういう事をやっているうちに、段々むなしくなってきちまったんだ。こんな事をしても、まだ誰も俺様の事に気付かないのか、とな」



 そう言って、うつむくヴァルド。

 確かにこんなに自分が色々やっているんだとアピールしても、誰にも気付いてもらえないというのは心にくるものがあるよね。

 自分の存在が否定されているというか、何というか。



 自分が何やっても相手は反応してくれない。

 自分は確かに生きている。

 でも誰からも存在を認めてはもらえない。

 そんな矛盾にヴァルドは苦しみ続けていたんだろう。

 そしてその状態がしばらく続いてから、僕と出会ったと。

 最初は偉そうにしていたけど、急にへりくだったりしたのは、きっとそんな苦しみがあったからなんだろうな。

 自分の存在を認めてくれる相手とようやく出会えた。

 ここを逃したら、一生自分は誰からも存在を認めてはもらえない。

 だからこそ、こんなただの一人の人間である僕に対して、そこまでの執着を見せていたんだろうな。



「でもそういえば、通り道を塞いだ時、ヴァルドはその相手に直接ぶつかりにいったりしなかったの? そうしたらさすがに相手も気付くんじゃ……」

「いや、それはできない」

「えっ、それってどういう事? だってジャイアントやグリフォンをヴァルドは倒せていたし、相手の体を触る事ができるんでしょ? それなのにどうして?」

「俺様はアーク以外の生きている奴に触る事ができないんだ。ジャイアントなどを倒せていたのは、例えば俺様の尻尾の周囲に発生させた黒いオーラがジャイアントを吹き飛ばしたりしたからで、俺様の体による物理攻撃は届いていないのさ」



 僕以外の生きている奴に触る事ができない……?

 なに、それ?

 初めて聞いたんだけど!?

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